視聴率に生かされ視聴率に殺された男を描き、当時のテレビ業界を痛烈に風刺した『ネットワーク』
【個人的な満足度】
「午前十時の映画祭14」で面白かった順位:15/18
ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★☆☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★☆☆
【作品情報】
原題:Network
製作年:1976年
製作国:アメリカ
配給:ユナイテッド・アーティスツ
上映時間:121分
ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:なし
公式サイト:https://asa10.eiga.com/2024/cinema/1317/
【あらすじ】
※公式サイトより引用。
大手ネットワークで長年キャスターを務めてきたハワード・ビール(ピーター・フィンチ)は、視聴率の不振から解任を言い渡される。精神状態が不安定になったビールは、次週生放送中に自殺すると予告し、一大スキャンダルに発展。
翌週、報道の責任者マックス(ウィリアム・ホールデン)がビール最後の放送を見守る中、エンタメ部門の新鋭プロデューサー、ダイアナ(フェイ・ダナウェイ)は、ビールを利用して新番組を立ち上げようと画策する。
【感想】
「午前十時の映画祭14」にて。1976年のアメリカ映画。視聴率に踊らされるテレビ業界の人々を描いた映画で、それによって人生が大きく変わってしまうのが面白い作品でした。
<視聴率なんてただの数字なのにそれに支配される人々>
この映画は、視聴率至上主義の持つ怖さを風刺を交えながらエンタメとして成立させているところが秀逸でした。放送局のUBSに所属しているハワード・ビール(ピーター・フィンチ)というニュースキャスターが、視聴率不振を理由に解雇されてしまうところからすべてが始まります。やけくそになった彼は、ある日生放送中に「来週、この番組内で自殺します」と全国に発信してしまいます。今そんなことやったら「公共の電波を使って何を言うか」とか「そんなことを言ってしまう背景に局の待遇に問題があるのでは」とかで大炎上しそうなものですよね。もちろん、映画の中でも同様で、UBSは即座にハワードを解雇しようとしました。でも、彼の親友でニュース部門の責任者であるマックス・シューマッカー(ウィリアム・ホールデン)が間に入り、ハワードが最後に番組内で別れの挨拶を告げる場を設けます。
ところが、ハワードはそこで「人生なんてくだらない」とわめき散らしたのです。最悪の状況になったと思いきや、ハワードのこの醜態がウケて視聴率が爆増。そこで、彼を起用した新番組を立ち上げようと考えたのがエンターテインメント部門のプロデューサーであるダイアナ(フェイ・ダナウェイ)です。彼女はとにかく野心の塊のような人で、どんな手を使っててでも視聴率を上げようと躍起になるバリキャリの女性です。ちなみに、生放送中に拳銃自殺したニュースキャスターは実際にいて、クリスティーン・チュバック(1944-1974)という方なんですが、この映画との関連性は不明だそう。
<ハワードの悲惨すぎる結末>
ハワードを起用した番組は瞬く間に人気となりました。その内容は、預言者となったハワードが世間に対して怒りをぶちまけるというもの。個人的にはそれのどこが面白いのかまったく理解できませんでしたが、この映画の舞台となる1970年代というのは、ウォーターゲート事件やベトナム戦争の敗北など、アメリカが不安定な時期でもあったので、怒りを代弁する人が必要だということでこのような番組になったんですよね。ただ、本当にハワードがカメラに向かってひとり怒り狂っているだけなので、これで視聴率が爆増するとはなかなかに信じがたいです(笑)
やがて、ハワードはUBSの大株主であるCCAがアラブ人によって株を買い占められていることを批判し、そのせいでCCAの会長に呼び出しを食らうことになります。そこで会長から「この世の中を動かしているのは主義や思想ではなく、大企業やそれによって生まれるビジネスである」という持論を吹き込まれ、以降、ハワードも番組で現代における人間性の喪失について話し始め、視聴率が下がっていきます。スタッフはみんな頭を抱え、最終的にはハワードを殺そうということになり、番組の冒頭で観客に扮したスタッフから銃殺されて幕を閉じます。
ここはもうツッコミどころありまくりですよ。「何も殺さなくたって……」と思うじゃないですか。風刺映画ってことで多少は極端な表現になっているとは思いますが、そもそも生放送とはいえ何を話すかは事前に打ち合わせをすると思うんですが、、、違うんですかね。完全に自由にやらせてしまっていたんでしょうか。そもそも、ハワードはヤク中なんじゃないかってぐらい徐々に様子がおかしくなっていくんですが、何であんな状態になるのかもよくわからないんですよね。別に病気やクスリの影響っていう描写もありませんでしたし。解雇されることになって精神を病んでしまったのかもわかりませんが。まあ、視聴率に踊らされた傀儡という扱いで、もはや本人の意志とは関係なく、まわりから骨の髄まで利用されているという見方もできなくはないですけどね。結局、視聴率さえ上がれば全力で持ち上げ、下がればゴミのように捨てるというのが、当時の(今も?)アメリカのテレビ局の体質なんだろうなとは思いました。
<史上最も短い出演時間でのアカデミー賞受賞>
あと面白かったのはダイアナとマックスの不倫です。マックスはハワードの親友ですが、彼を使い続けることに疑問を感じたことで局内で干されてしまうんですよ。視聴率至上主義のダイアナとは正反対の性格ではあるものの、そこがパズルのピースのようにハマったのかいつしか2人は男女の関係に。ただ、マックスはダイアナに愛してほしかったのに彼女は仕事を優先しすぎるがあまり、結局は破綻してしまいます。当時の社会を踏まえると、男女の立場が逆転しているように見えるのも興味深いです。
で、ここで記しておきたいのが、マックスの妻役を演じたベアトリス・ストレイトです。彼女は不倫を知り、家を出て行くマックスに対して怒りをぶちまける名演技を見せます。「あたしに情熱を持てなくてもせめて敬意は示して」と。そこを含めて彼女は5分40秒しか出演していないにも関わらず、第49回アカデミー助演女優賞受賞を受賞しました。おそらく、最も出演時間が短い中での受賞だと思います。確かにいい演技でしたが、さすがに短すぎない?って思いますけどね(笑)
<そんなわけで>
視聴率に踊らされた人々を描く風刺のきいた作品で興味深かったです。現代でも視聴率云々という話は日本でもよく出るので、テレビ業界あるあるなのかもしれません。本作は『ジョーカー』(2019)に影響を与えた映画でもあるので、それを意識しながら観るのも一興ですね。ちなみに、ピーター・フィンチは第49回アカデミー主演男優賞にノミネートされた直後に心不全で亡くなってしまい、アカデミー賞史上初の死後受賞となったそうです。それは、第81回の助演男優賞に輝いたヒース・レジャーも同様で、彼もまた『ダークナイト』(2008)でジョーカー役だったので、ジョーカーに縁があるなって町山智浩さんもおっしゃっていました。