【ネタバレあり】途中から一気にジャンルが変わって観る者を驚愕の世界へ突き落した『夜を越える旅』
【個人的な満足度】
2022年日本公開映画で面白かった順位:137/158
ストーリー:★★★☆☆
キャラクター:★★★☆☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★☆☆☆
【作品情報】
製作年:2021年
製作国:日本
配給:クロックワークス
上映時間:81分
ジャンル:ロードムービー、、、?
元ネタなど:なし
【あらすじ】
漫画家志望の春利(髙橋佳成)は、大学を卒業しても夢をあきらめきれず、同棲中の恋人の半ばヒモ状態。そんな後ろめたさから逃げ出すように、学生時代の友人たちと1泊2日の旅行に出かけるのだが、その最中、応募していた漫画賞の結果が落選だったことを知り、自暴自棄になってしまう。
そこへ、かつて想いを寄せていた小夜(中村祐美子)が遅れて合流してくる。しかし、春利の微かな高揚感と淡い下心とは裏腹に、事態は思いも寄らない阿鼻叫喚の地獄へと転がり始めてゆく……。
【感想】
前半と後半で大きくジャンルが変わってしまう超絶びっくりな映画でした。前半はラブストーリーで後半はパニックムービーに変わる『タイタニック』(1997)以上の変わりように観客は度肝を抜かれるかもしれません。これはネタバレをしないと書きづらいので、まだ観ていない方はここでページをそっ閉じしていただければと思います。
<ジャンルを決め難い内容>
上映後の舞台挨拶付きの回を観たのですが、出演者は当初、ロードムービーと言われていたらしいです。はて、これはロードムービーなのでしょうか。大学時代の友人たちと旅行に行くという、その設定は確かにロードムービー要素とは言えますが、逆にそこしかないじゃんかって、最後までこの映画を観ると誰しもが思うでしょう(笑)僕も最初は、久しぶりに昔の友達と会って、今の状況を憂いながら、「昔はよかったなあ」なんて懐古しつつ、当時の恋愛感情を引きずるラブストーリーやヒューマンドラマかと思ってたんですよ。もちろん、そうした要素もあるにはあります。ところがどっこい、後半からまったく異なるジャンルへと変貌するのがこの映画の最大の特徴です。それも、、、僕の苦手なホラーになるんです。。。
<一気に恐怖のどん底へ突き落とされる感覚>
前半は旧友たちと宿泊先のロッジへ行くまでのゆるいロードムービーですが、その晩に停電が起き、電気がつくと小夜がいるんですよ。この時点で察しがいい人は小夜の正体に薄々気づくかもしれません。でも、そのときはまだ怖い部分は何もなく、他愛もないやり取りが続いていくんですが、翌日からが急展開です。早朝になって帰ることになった小夜を春利が見送るんですが、彼がロッジに戻ってきた後、急に頭を掴まれて夢の世界へ引きずり込まれるんですよ。あまりにも一瞬のことで何が起きたのかまったくわからなかったんですが、急にジャンプスケアのようなシーンがきたことで、一気に恐怖のどん底に突き落とされた気分になりました。
夢の世界では、ジャパニーズホラーによく出てくるような不気味な顔に変貌した小夜が幽霊のように佇んでいるんですけど、その姿が怖いのなんのって。小夜って実は自殺してるんですよ。なので、本来はこの世にいるはずのない存在です。そんな彼女が、理由はわかりませんが、この世の者を道づれにしようとしてるんですよね。僕はもともとジャパニーズホラーが大の苦手だったので、目を手で覆いつつ、いつまたジャンプスケアが来るのかと警戒心MAXにしてビビりながら残りのストーリーを堪能しました(笑)
<怖さの中にある純愛>
怖いだけじゃないというか、怖さの中に別の感情があるのもこの映画の面白いところです。パッと見はただのホラーではありつつも、春利の視点に立って考えれば、ある意味純愛だとも思うんですよ。小夜はすでに亡くなっていますが、それでも春利はずっと彼女に想いを寄せており、しかも、このまま生きていても漫画家としての道も絶望的であることは自覚しています。小夜を見送ったとき、彼女に「こっちの世界に来て」と言われて、思わず「うん」と言ってしまう春利ですが、生きていても希望がないのなら、彼女の元に行った方が幸せなのかもしれないって思うのは共感できるところもでもあります。見せ方はホラーですが、そこには生きている人間の純粋な気持ちやら楽になりたいという想いやらがあって、そのギャップはよかったなと思います。
<わからない設定もチラホラ>
この映画、ツッコミどころというか、よくわからなかったところも正直多いんですよ。僕が思ったのは以下のところです。
・いっしょに旅行する間柄なのに、なぜみんなそこまで仲良くなさそうなのか。
・なぜ小夜は自殺したのか。
・なぜ彼女は「生の世界」に執着し、旧友を狙うのか。
・除霊士のドッキリは何だったのか(あれみんな死んだ?)。
・車を襲った巨大な手は何なのか。
ここらへんが、もう少し作中でわかりやすい形になっていたら、ストーリーやキャラクターのところも腑に落ちて、より一層面白く感じたかもしれないなあと個人的には思いますね。
ラストは観客に委ねる形でした。果たしてあれはどう解釈するのが正しいんでしょう。やっぱり春利には生きててほしいという小夜の優しさが表れたのか。狙われていたもうひとりの旧友が何らかの原因で亡くなり、春利が連れて行かれる意味がなくなったのか。それとも、春利が最後に見た夢なのか。こういう答えをハッキリ明示しない手法は人によって好みあると思いますが、僕は嫌いじゃなかったですね。
<そんなわけで>
基本的にはホラー路線なので、ホラー嫌いの人は覚悟した方がいいと思います。小夜を演じた中村祐美子の放つ、日本ならではの幽霊っぽい怖さが夢に出てきそうなので(笑)でも、春利の持つ純粋な気持ちには共感できる人もいるかもしれません。