韓国の近代史を知る上で観るべき映画。独裁が終わったものの、結局また独裁に戻ってしまった韓国を描く秀逸なサスペンス映画『ソウルの春』
【個人的な満足度】
2024年日本公開映画で面白かった順位:90/99
ストーリー:★★★★★★★★★★
キャラクター:★★★★★★★★★★
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★★★★★★
【作品情報】
原題:서울의 봄(12.12: The Day)
製作年:2023年
製作国:韓国
配給:クロックワークス
上映時間:142分
ジャンル:サスペンス
元ネタなど:事件「粛軍クーデター」(1979)
公式サイト:https://klockworx-asia.com/seoul/
【あらすじ】
※公式サイトより引用。
1979年10月26日、独裁者とも言われた大韓民国大統領が、自らの側近に暗殺された。国中に衝撃が走るとともに、民主化を期待する国民の声は日に日に高まってゆく。
しかし、暗殺事件の合同捜査本部長に就任したチョン・ドゥグァン保安司令官(ファン・ジョンミン)は、陸軍内の秘密組織“ハナ会”の将校たちを率い、新たな独裁者として君臨すべく、同年12月12日にクーデターを決行する。
一方、高潔な軍人として知られる首都警備司令官イ・テシン(チョン・ウソン)は、部下の中にハナ会のメンバーが潜む圧倒的不利な状況の中、自らの軍人としての信念に基づき“反逆者”チョン・ドゥグァンの暴走を食い止めるべく立ち上がる。
【感想】
お隣の国、韓国で起きた軍内部の反乱事件である「粛軍クーデター」を題材にした映画です。もうね、ただ一言、圧倒されました。。。本当に韓国はこういうサスペンスとか鬼気迫る雰囲気の映画づくりがうますぎです。。。向こうではあの『パラサイト 半地下の家族』(2020)を超えるメガヒットだそうな。
<実は独裁政権下にあった韓国>
この映画は韓国の近代史を知る上で非常に重要な作品で、シリーズってわけではありませんが、過去の映画とも密接な繋がりがあるんです。冒頭で暗殺された大統領というのは、朴正煕大統領のことであり、その話は『KCIA 南山の部長たち』(2020)に詳しいです。で、その朴大統領は独裁政権だったので、彼が亡くなったことで韓国は一時的に民主化ムードが漂っていたわけです。それを「ソウルの春」と呼ぶんですね。この映画はあくまでも軍内部に焦点を当てているので、まったく民主化ムードを感じませんでしたが、おそらく民衆たちは希望に湧いていたのかもしれません。
ただ、そんな平和も束の間。軍内部では保安司令官であるチョン・ドゥグァンが新たな独裁者として君臨すべく、ハナ会と呼ばれる秘密組織を率いて暗躍。それを阻止しようと、首都警備司令官のイ・テシンが奔走するっていうのが本作の流れです。日本の義務教育ではここまで詳しく他国の歴史を教えてくれないと思うので、恥ずかしながら僕も過去の映画でしか知り得なかったのですが、お隣の国にもそういった過去があったんです。
<情報量は多いけど、主軸は至ってシンプル>
この手の映画は歴史的な知識がないと、映画を観ただけですべてを理解するのは難しいところはあるんですが、本作に関しては情報量が多いので、表面的なところをかじっているだけでは一度に理解するのは至難の業かと思います。そう感じる大きな理由は、とにかく登場人物が多いことです。その上、軍の至る所にチョン・ドゥグァンの息のかかったハナ会のメンバーがいるので、一体誰が味方で誰が敵なのかわかりづらいんですよね。一応、テロップで所属と人物名は表示してくれるんですけど、所属先も人物名も似たような名前が多いので、まあわかりませんわ(笑)そう考えると、やや置いてけぼりになりそうな印象を受けてしまうかもしれませんが、それでも面白いと感じたのは、前提となる設定がわかりやすいからなんです。新たな独裁者となろうとしている男とそれを阻止する男、その2人がいるってことだけわかっていれば何も問題はありません。その2人を中心に、矢継ぎ早にいろんなことが起こるテンポのよさと、終盤の戦闘にまで発展するスリリングな展開は見ごたえしかなかったです。
<対照的な2人のキャラクターの魅力>
で、そのメインの2人のキャラクターがまたいいんですよ。チョン・ドゥグァンの野心の大きさと、何としてでも野望を実現させようとする圧倒的な情熱と行動力は、普通にしか生きていない自分には熱すぎました。多分、身近にいたらついていけないでしょう。。。それぐらいあらゆるリスクを背負って彼はクーデターを起こしていますから。この映画では悪役のように描かれていますが、それでも内乱に勝っちゃえば新たな指導者となるわけです。結局、チョン・ドゥグァンは韓国の第11代・12代大統領になり、独裁者というイメージがある反面、彼のおかげで韓国の経済が発展したという事実もあるんです。経済を成長させる上で掲げたキャッチフレーズは「国民総生産600億ドルを目指し、日本から学んで、日本に追いつこう」だったそうですね。
そして、彼を止めようとしたイ・テシンは高潔な軍人として描かれ、その誠実かつ真面目な人柄は上司にほしいと思ったほどです。最終決戦前に妻に電話するシーンは泣きました。。。もう戻れないことを覚悟したんだなって。。。本作では正義の味方のように描かれていますが、この内乱で負けたことで反逆者扱いで拘束・拷問されてしまうのはやるせない気持ちになりましたね。。。
<そんなわけで>
韓国の近代史を知る上でとても有意義な作品でした。しかも、歴史の勉強だけでなく、スリリングなサスペンス映画としても楽しめる素晴らしい映画です。なお、この「ソウルの春」の終焉後、光州市では戒厳令に対する学生や市民によるデモが起きていて、それを描いたのが『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017)。さらにその後の民主化運動を描いたのが『1987、ある闘いの真実』(2017)です。どちらもメチャクチャ面白いのでオススメですよ。先の『KCIA 南山の部長たち』と合わせてまとめて観てみると、韓国の近代史がより身近に感じるかもしれません。