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年間消費量は約100億個!ドーナツ大国アメリカで難民から大富豪となった男の光と闇を描いた『ドーナツキング』
【個人的な評価】
2021年日本公開映画で面白かった順位:83/245
ストーリー:★★★★★
キャラクター:★★★★☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆
【要素】
ドキュメンタリー
ビジネス
ドーナツ
カンボジア内戦
カリフォルニア
【元になった出来事や原作・過去作など】
・人物(実業家/ドーナツチェーンの元オーナー)
テッド・ノイ(1942~)
【あらすじ】
1975年、カンボジア内戦から逃れ、難民となり、家族と共にアメリカのカリフォルニア州に渡ったテッド・ノイ。ある日、彼は近所から漂う甘い香りに惹かれ、ドーナツ店に入る。一口でドーナツに夢中になった彼は、ドーナツチェーンのウィンチェルで修業し、やがて自分の店を構える。
家族総出で休まず働く中、店は妻クリスティの気さくな接客が評判を呼び、すぐに繁盛した。テッドは自分の店で同胞のカンボジア人たちを雇い、彼らにドーナツ製造のノウハウを教え、自活の手助けをした。
系列店は拡大し、総資産2,000万ドル(日本円で約22億円)もの莫大なお金を手にした彼を、みんなが"ドーナツ王"と呼んだ。成功を手にしたテッドだったが、小さなつまづきから人生が思わぬ方向へと転換する。
【感想】
みなさん、ドーナツは好きですか?僕は好きです。これは、アメリカのドーナツ事情が知れるとても興味深いドキュメンタリーでした。すべての始まりとなったテッド・ノイという伝説的な人物がすごいです。
ドキュメンタリーなのでネタバレもクソもないと思いますが、一応内容については一通り触れているので、知りたくない方はここでそっ閉じしてください。
<ドーナツ大国アメリカ>
日本ではミスタードーナツぐらいですよね、有名なチェーン店って。あとは、クリスピー・ドーナツぐらいですか。けっこう好きな人は多いと思うんですけど、あんまり日常で食べるものにならないのが不思議なぐらいです。一方、アメリカはすごいですよ。朝食でも食べるぐらいで、年間消費量は約100億個、1人当たりだと約31個ですから!食べすぎだろって(笑)で、アメリカ全土では25,000店以上もドーナツショップがあって、そのうち5,000店舗がカリフォルニアにあるらしく。その中の95%がカンボジア人が経営してるそうなんですよ。カンボジア人がドーナツ店って、日本にいると全然想像つきませんよね。
<すべてはひとりの難民から始まった>
その出発点となったのが、さっき書いたテッド・ノイです。彼はカンボジア内戦の影響で、家族と共にカリフォルニアに移住してきました。そこでドーナツの魅力に惹かれて、ウィンチェルというドーナツチェーンで修業。働き者だった彼はすぐに店長となり、やがてそれとは別に自分の店も持ちます。
その店が繁盛したきっかけとなったのが、梱包する箱なんですよ。経費削減にと、白い箱をピンク色にしたらそれが大ウケし、瞬く間に人気店になって。まあ、これは偶然の産物としか言いようがないですけどね(笑)あとは、妻のおかげですかね。当時はアジア人そのものが珍しかったらしいんですけど、妻のフレンドリーな接客も商売繁盛の要因だったみたいです。
テッドが偉いのは、後から移住してくる同じカンボジアの難民たちにも、ドーナツ店のノウハウを伝えたことですね。きっと同じ難民として辛い境遇を味わった者同士、ほっとけなかったんでしょう。そうやって、カンボジア人のドーナツ店がどんどん増えていきました。しかも彼が商売上手なのは、その人たちが店を出すときに、自分の店をそのまま賃貸に出したこと。これで1985年当時、月に10万ドルは入ってきたようなので。
なお、皮肉にも、ウェインチェルはその勢いに押され、店舗数がどんどん縮小していったそうです。テッドを修行させたことは、敵を育てたようなものですね(笑)
<アメリカンドリームの栄光と転落>
テッドの資産は2,000万ドルを超え、まさにアメリカンドリームを体現しました。プール付き3階建ての豪邸も建て、順風満帆な生活を送ります。難民から大富豪になるって、日本じゃ考えられないステップアップですね。しかし、ラスベガスでギャンブルにハマったことで状況は一転。最終的にはお金がなくなり、妻からも見放される事態に。結局、お店は全部手放して、それぞれ独立していき、テッドはカンボジアへ帰郷しました。
ただ、彼を憎む人は誰もいません。彼がいなければ、ここまでカンボジア人がドーナツ店で成功することはなかったのですから。まさに生ける伝説、"ドーナツ王"ですよ。
<移民2世の活躍>
現在もカリフォルニアには、多くのカンボジア人が経営するドーナツ店があります。かつてドーナツ店を立ち上げた移民第一世代は、そろそろ引退の時期で、彼らの子供たちにバトンタッチしています。ただ、第一世代は若い頃に余裕がなくて学校に通えなかったこともあってか、ドーナツ店で成功したことで、子供たちには教育をしっかり受けさせているんですよね。その結果、子供たちは別の職業に就きたがり、ドーナツ店の跡継ぎはしたくないという後継者問題もあるようです。
ただ、大学でマーケティングを学び、それを店舗経営に生かす2世たちもます。かつてはモノがない時代だったので、働けば働いた分だけお金を稼げました。しかし、今の時代はそうはいきません。工夫が必要です。そこで、SNSを使った集客や"映え"るメニューの開発など、現代に合う形でヒットを出している店もあります。DKドーナツのクロナッツ(ドーナツとクロワッサンを合わせたもの)もその例ですね。これ、ドミニク・アンセルという人が考案したことになっているようですが、DKドーナツではその前から作っていたらしいです。
<その他>
これらの事実を知れただけで、有意義なドキュメンタリーだと僕は思いました。今よりも何かと下に見られがちなアジア人という立場で、アメリカ人が大好きなドーナツでのし上がったのはすごいですよね。まあ、昔の方が「作れば売れる」時代だから、今よりも人海戦術が通用する時代だったってのはあるかもしれませんが。でも、すべての元を作ったテッド・ノイの功績は大きいでしょう。
ちなみに、和菓子ってアメリカで人気なんですかね?すごく安直な考えですけど、和菓子とドーナツを掛け合わせたら、向こうで流行ったりしないのかなって(笑)