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こんな職場にいたら2秒で病んで辞めるだろうなと思った『ボイリング・ポイント/沸騰』
【個人的な満足度】
2022年日本公開映画で面白かった順位:66/114
ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★☆☆
映像:★★★☆☆
音楽:☆☆☆☆☆(本編でBGMなし)
映画館で観たい:★★★☆☆
【作品情報】
原題:Boiling Point
製作年:2021年
製作国:イギリス
配給:セテラ・インターナショナル
上映時間:95分
ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:なし
【あらすじ】
一年で最も賑わうクリスマス前の金曜日、ロンドンの人気高級レストラン。
その日、オーナーシェフのアンディ(スティーヴン・グレアム)は妻子と別居し疲れきっていた。運悪く衛生管理検査があり評価を下げられ、次々とトラブルに見舞われるアンディ。
気を取り直して開店するが、予約過多でスタッフたちは一触即発状態。そんな中、アンディのライバルシェフ・アリステア(ジェイソン・フレミング)が有名なグルメ評論家サラ(ルルド・フェイバース)を連れてサプライズ来店する。さらに、脅迫まがいの取引を持ちかけてきて…。
もはや心身の限界点を超えつつあるアンディは、この波乱に満ちた一日を切り抜けられるのか……。
【感想】
90分ワンカット、ノー編集、ノーCG。故に、ドキュメンタリーなんじゃないかと思うほどのリアルさを感じる、とあるレストランの日常を描いた作品です。淡々とした進行ではありますが、次から次へと起こるトラブルから目が離せないのが面白いところです。
<トラブルの原因は、、、人間関係?>
この映画の中で巻き起こるトラブルというのは、不可抗力の突発的なものかと言えばそうではありません。むしろ、日頃から気をつけていれば防げるだろうと思えるものばかりです。なぜなら、"普段から抱えている人間関係の鬱憤"がほぼすべての要因なのですから。なので、誰かひとりが悪いっていう話ではないんですよね。いろんな要素が絡み合ってはいるんですが、、、とはいえ、強いて言うなら共同代表者の2人、店のオーナーとオーナーシェフがほぼ機能していないことが問題ですかね。
<オーナーシェフの問題>
まず、オーナーシェフのアンディはプライベートがかなり足を引っ張っている状況です。「私情を仕事に持ち込むな」と考えるビジネスマンも多いでしょうが、まあそこは人間なんである程度はパフォーマンスに影響しちゃうのも仕方ないと思います。でも、アンディはオーナーシェフという立場を踏まえると、目も当てられないぐらいにひどいんですよ(笑)あらすじにも書いた通り、彼は妻子と別れて憔悴しきっているというメンタル面に大きなダメージがあります。そこから酒とクスリに手を出してるんですよね。その影響下は明示されていませんが、この日も仕事は遅刻するし、発注すべき食材は手配していないし、きちんと管理していなかった高級魚も衛生管理検査官によって破棄されてしまう始末。必要な事務手続きも行っておらず、お店の評価も5点から3点に減点。さらに、前々から依頼されていた部下の昇給の交渉もオーナーにしていません。料理の腕は確かだとは思うんですけど、プライベートを引きずっているせいか、あらゆる業務における抜け漏れが多すぎました。
<オーナー問題>
これも通常のレストラン運営にゆとりがあれば、まだ他の誰かが気づいてカバーできたかもしれません。それができなかったのは、単純に忙しかったからわけですが、そんな状況に陥ってしまったのは、今度はオーナーであるベス(アリス・フィーザム)の自分勝手な運営スタイルにあると言えます。SNSでの評価にご執心で、常にお店は予約過多な状況。客にインフルエンサーがいれば、メニューにない注文も受け付け、ドリンクもサービスしてしまうんですよ。厨房の忙しさも無視して、「それぐらいできるでしょ?」という思いやりのかけらもありません。よく営業担当者がデザイナーやエンジニアに「それぐらいちゃっちゃっと作れるでしょ?」みたいな態度を取って嫌われるみたいな話を聞きますけど、まさにそれでした。
<現場にも問題が>
もちろんちゃんと働いている人もいます。ただ、前職の厨房と勝手が違いすぎてスムーズに業務こなせない人がいたり、遅刻常習犯がいたり、なあなあでやってる部分も多かったりで、チームとしていつ崩壊してもおかしくない状況でしたね。そこは本来オーナーがケアするべきところなのかもしれませんが、先に書いた通り、2人とも自分のことで手一杯なので、他の人の面倒を見ている余裕はありません。結果、業務状況や人間関係はこの90分の間にどんどん悪くなり、最悪の事態を招いてしまうことに。。。
<他人事じゃない内容>
この映画はクリスマス前のクソ忙しいレストランが舞台になっていましたが、描かれていること自体は普通の会社でも起こりうることかと思います。適切な業務量を把握して、1日の集客数の上限を決め、ダブルチェックなどで抜け漏れがないかの確認をする仕組みを作るだけでも、だいぶ違うのではないかなと思いました。別にみんな悪い人ではまったくないですし、接客スキルや調理スキルが著しく低いということでもありません(遅刻癖のある人はどうしようもないですがw)。ただ、オーバーワークすぎて精神的ゆとりがないのが一番の課題かなあと感じましたね。
<そんなわけで>
世の中の忙しいクッソレストランの裏側は、もしかしたらこんなことになっているのかもしれないという興味深い内容であると同時に、人間関係を構築していく上で反面教師にできる部分もありそうな話でした。人々を監督する立場にある人は、より身近に感じられるかもしれません。