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『20年目の真実』
俺たちは、ライバルだった。
超高校級の本格派と、超高校級のスラッガー。
地方紙は、
「彼らはどうして同じ高校に入学しなかったのか、彼らのどちらか一人しか甲子園に行けないのは不幸なことだ」
そんなことを書きたてた。
懐かしいだろう。
意識しなかったといえば、嘘になる。
お前が、俺を想定してバッティング練習をしたと聞けば、俺も、お前を想定して、ピッチング練習をした。
同じような背丈のやつを左バッターボックスに立たせて、膝元にこれでもか、これでもかと投げ込んだ。
そんな俺たちは、県大会の準決勝でぶつかった。
事実上の決勝戦と言われたよな。
この戦いを制した方が、甲子園の切符を手にするだろうと。
覚えているか。
地方大会にしては、珍しくスタンドは満員だった。
試合は、3対2で俺たちがリードした。
俺が失った2点は、お前が打ったライト線上の二塁打だ。
俺は1点でおさえられると思ったが、ライトがクッションボールをファンブルした。
あんなに速い打球は初めてだと、ベンチで言ってたよ。
そして、迎えた最終回の裏。
ツーアウトから、お前たちのチームは粘った。
ヒットとフォアボール、エラーで満塁にした。
一打サヨナラ。
俺は、深呼吸をしてバッターボックスを見た。
お前がいた。
ツーストライクと追い込んでから、慎重になりすぎた。
ボールが3つ続いた。
お前のチームの応援団はお前の名前を連呼していた。
そして、俺の方からは、あと一球。
今さら青春などというつもりもないが、あの時、俺ちたちを包んでいた、ドーム型の空間、あれは何かそんなようなものではなかったのかと、後になって考えることがあるよ。
最後の一球。
俺は投げた。
引っかかりは申し分なかった。
お前の膝元で、球は伸びた。
お前は見送り、主審は拳を突き上げた。
試合終了のサイレン。
俺は、仲間と抱き合いながら、お前の目を見ることができなかった。
結局、俺たちも決勝では敗れて甲子園は夢に終わった。
俺とお前だけが知っていることだ。
あの球は、ボールひとつ外角に外れていた。
押し出し同点。
試合は終わらなかった、本当は。
勝ったのは俺で、正しかったのはお前だ。
20年経って、父を失ったお前の息子にこの話をしてやろうと思うよ。