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丸裸の価格戦略:Price transparencyがもたらす効果とリスク

過去2回のnoteでは、アメリカの企業のマーケティングの実例を取り上げましたが、今回はひとつテーマを絞ってnoteを書きたいと思います。

過去note
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今回のテーマは価格戦略です。マーケティングの4Pのひとつ、Priceです。私は広告会社出身ですが、広告会社ではマーケティングの中でも価格戦略に関わることはほとんどありません。よって私にとっても新しいジャンルであります。 


では早速行きましょう。


今回のノートのハイライト
・価格の透明性は、ブランド価値を高め消費者の購買意欲を高める
・とはいっても価格 x 品質の価値が最も重要。つまり価格の透明性はNice-to-haveであるが購買を決める決定的な要素にはならない
・価格の透明性が表すものは商品の売り方にとどまらず、企業としてのあり方、つまり顧客との関係性を表している

最近個人的にアパレル業界に興味があり、色々調べているのですが、そこで起こっているひとつのトレンドが、大きなインパクトがあると感じています。

価格の透明性 (Radical transparency)

それがEverlaneを代表とするアパレル企業の価格戦略です。
皆さんにとって、普段アパレルを購入する際に、何が一番重要でしょうか?
ブランド、価格、それともセール?
いずれのケースでも納得してその金額を払っていますか?

モノが売れなくなっているこの日本で、どのようにすればもっと売れるようになるでしょうか。そのヒントが「丸裸の価格戦略」に隠されています。

では、その価格戦略とは何か。具体的事例をもとに見ていきましょう。

アパレル業界を中心に高まる価格の透明性
価格の透明性を打ち出しているアパレル企業はひとつではありません。
代表的なものが、 San Franciscoに本社を構える Everlane です。

2011年創業、シンプルなデザインとリーズナブルな価格はユニクロに例えられることもあります。Everlaneの特徴はRadical transparency(革命的な透明性とでも訳しましょうか) と表現される企業姿勢にあります。とにかく全ての情報を開示し顧客が納得した上で買い物する。これがコアコンセプトです。

そもそものきっかけは、ファウンダーが自分が着ている服に一体いくら払っているかわからない。調べてみれば実際にかかっているコストの何倍もの金額を上乗せして払っていることがわかった。さらにコストを抑えるために東南アジアなどの発展途上国で安価で労働力を使い商品を作っている。そんな実状が見えて来たことでした。

Everlaneの特徴は、価格の透明性を非常にわかりやすいインフォグラフィックスで示していることです。生産にかかる材料費・労務費・関税・配送費など全ての費用を図解し、消費者に開示しています。 下記は$68で販売されているジーンズの例です。

そして、もうひとつがサプライヤーである工場の情報をテキストおよびグラフィックの両方で開示していることです。

もうひとつ面白いエバーレーンの取り組みとしてはセール時の価格設定にあります。基本的にエバーレーンをセールを行いません。なぜなら巨大アパレルチェーンが行っているような大量生産、大量販売の逆を行っているため、セールを行う必要がないからです。大手が季節の変わり目で売れ残りをセールとして販売する一方、エバーレーンのアイテムはベーシックなものが中心となっているため季節問わず、一年を通して販売しています。

しかし、いくら小ロットで生産しているとはいえ在庫が発生する場合もあります。その際にエバーレーンが行なっているプライシングはPay-What-You-Wantと言うユニークなものです。これは例えば30%オフと言うディスカウントをあらかじめ設定するのではなく、三段階の価格を設定し、その名の通り顧客にいくら払うかを委ねるとてもユニークなコンセプトと言えます。 

エバーレーンの他にも丸裸の価格戦略を採用している企業はあります。その一部もご紹介しておきます。

honest by

OLIVER CABELLE

NOAH

では価格に透明性をもたらすことにより、どのような効果があるのか?

それを考える前に、ミレニアルズの価格に対する意識をデータをもとに見ていきましょう。

Coupon Followの調査がミレニアルズとそれ以外の違いを浮き彫りにしています。ミレニアルズにとって最も重要なこと、それは価格です。 実はこの部分は他の世代と同様です。全ての世代にわたって価格は最も重要な購買決定要因であります。私の妻もギリギリミレニアルガールズですが、常にお気に入りのブランドの EC サイトを眺めては、欲しかったものが割引になっていないか血眼になって探しています。そして、前から欲しかったお気に入りの服が割引になっていた暁には、即購入し、大変満足げな表情で嬉々としてその成果を報告してくれます笑。

下記の表は「購買に影響する要因は?」に対するミレニアルズの答えです。


では違いは何でしょうか?それはブランドに対する姿勢です。多くのミレニアルズはソーシャルメディア上において少なくとも一つのブランドをフォローしています。そしてその主な理由はディスカウントの情報を得るためです。 彼らは極めてプライスドリブンな消費者と言えます。 調査によると3分の2のミレニアルズが30%以上の割引があった場合、ブランドスイッチする(少なくとも試す)と答えています。

ここから見えてくることは、旧来のブランディングの概念がミレニアルズには必ずしも当てはまらないと言うことです。一般的にブランディングにおいて、より強固なブランディングを築き上げたブランドは、より高い金額をカスタマーにチャージすることができ、ブランドスイッチされづらいと考えられています。しかしデータが示すようにミレニアルズにとって、ブランドとは価格次第でいとも簡単にスイッチされてしまうもの、と言えるのではないでしょうか。 

ここまでで、マーケティングにおいて価格戦略がもつ重要性が、以前にも増して高まっていることがおわかり頂けたのではないでしょうか。

では価格に透明性をもたらすことにより、どのような効果があるのか?
ハーバードビジネススクールの研究によると、価格の透明性を高めることにより、いくつかのメリットが見えてきました。
1.価格の透明性は購買意欲を高める 
2.古くからの顧客でさえも新規顧客のようにポジティブに反応 

消費者は、企業が自発的にそのコストを開示すると、そのブランドに対してより魅力を感じるようになり、それが購入意欲につながります。実際下記のデータでも示されているように、価格に透明性がある場合の方が、より購入意欲が高まることが実験により証明されています。 

Source

では実際のところ、消費者はどう受け止めるのか?
過去2回のnoteでも書いたように、ミレニアルズのような消費者は、企業のマーケティング活動に非常に敏感です。価格の透明性は好意的に受け入れられるものの、それすらも企業のマーケティング活動のひとつだ、と冷静に受け入れられているのも事実です。エバーレーンや honest by で購入するユーザーによると「価格の透明性はNice-to-haveだが、購入を決める絶対的な理由にはならない」と語っています。むしろ、今まで秘密にされていた企業が一体いくら利益をのせて消費者に販売しているかという部分が明らかになったため、よりシビアに消費者から、本当に欲しいものかどうかという目線で、商品や企業が判断されることになります。つまりマークアップを正当化するだけのクオリティ、ブランドストーリーなど顧客の満足度をあげることが、より必要となるのです。

リスクは?
透明性の高い価格戦略は、メリットだけでなくリスクも伴います。上記のハーバードビジネススクールの調査によると、価格が見える化されたことにより、アパレル各社間の金額の比較が容易となり、価格競争が見える化されました。また消費者は原価にアドオンされるアパレルの利益が大きければ大きいほど、価格の透明性が逆効果となる結果も示されました。

また価格の透明性を求めることは、つまり価格以外での透明性も求められる。具体的に言うとアパレルビジネスの場合は、どのサプライヤーを使っているか、そしてそのサプライヤーはどのような環境下で業務を行っているのか、そこに深く踏み込んだ説明責任が発生するのです。この部分に関して言えば、かつて安価な労働力を酷使していると批判された H&MやZARAも取り組んでいて、明確にどのサプライヤーに業務を発注しているのか、またその具体的な住所など全てを公開しています。 

まとめです。

透明性の高い価格戦略、それはつまり単なる綺麗な言葉ではない、顧客との約束です。 コストを下げるために中間業者を排除し、そして実際に削減できた部分も含め、すべてのコストを明らかにする。その上で、質の高く消費者が満足するものを作る。これが今のこの時代にミレニアルズに支持される商品・企業・ブランド像であります。(ただし、透明性の高い価格戦略は”必須”とまではまだ言えないと思います)

価格の透明性はアパレル業界だけに適用できるものではなく、保険・旅行・引っ越し・葬儀など様々な業界において適用可能なインパクトの大きいマーケティングの戦略といえます。そして、単にコストを伝えるということだけではなく、それをビジュアル化して伝えたり、またなぜこの材料にこだわり、なぜこのコストがかかっているのか、コストという切り口を元に、そのプロダクトやブランドのストーリーを語っていくこと、それこそが有効な透明度の高い価格戦略ということになっていくと考えます。

お読みいただきありがとうございました!

追伸
最近色々なところで「音声入力による文章作成が便利すぎる!」という話を聞いたので今回このノートはほぼ Google ドキュメントの音声入力にて作成しました。体感としてはタイピングに比べ2〜3倍早いと思います。多少精度の問題はあるものの、これは圧倒的におすすめです。

さすが Google!

広告会社を経て、Los AngelesにてBusiness School在学中(現在2年目)アメリカ企業のMarketing関連のことをまとめていきます。