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【通信販売・私論】新商品開発

通信販売会社の永遠の課題と言えば、新規顧客獲得と新商品開発の二つが挙げられます。
いずれも難易度が高いのですが、個人的には難易度では新商品開発の難易度の方がより高いと感じています。とにかく作って売ってみないことには何も分からない度が高い!時間もかかるし、予算もかかる。でも全く売れない結果もあり得る。しかしやらなければ会社は存続できなくなる。
そんな商品開発についての私論を今回はしたためてみます。

ちなみに前回の通信販売・私論はこちらです。

新商品開発の基本的な進め方

会社によって進め方は様々だと思いますが、おそらく一般的なのは開発の担当部門、担当者が「売れそうな」商品を探しまわる、というところかと思います。
メーカーや卸会社を回って「何か売れる商品ないですか?」と聞く。
百貨店や専門店などを回って売れてそうな商品を探す。
同業他社の広告を集めて販売頻度の高い商品などを研究する。
日々こうした毎日を繰り返し、
そして「これは売れる!」と思った商品はもちろん、
「もしかしたら売れるかも?」や
「本当に売れるか自信はないけど、なにか持って帰らないとまずいぞ」などにも目星をつけて企画会議で提案する。
却下されることもあれば、承認されることもあったりで、
承認されたら実際に広告を作ってみて新商品テストを実施。
その結果、
「売れた!」
「売れんかった(涙)」
という答え合わせをする。
売れたらいいのですが、
新商品開発の場合、そうそう簡単に売れたとはならない。
そして
「もっと売れる商品探して来んかいっ!」となって最初に戻る。

何回かに1回の割合で売れてくれれば報われますが、
連敗が続くと精神的なダメージが増してくる。
「我が社の辞書に失敗の文字はない!」というスローガンがあることは以前にも書きましたが、
それはこのような経験を私自身が幾度も経てきたからこそ生まれたフレーズでもあったのです。

大手であれば業者側が毎日のように売り込みに押し寄せるというケースもあるでしょう。
むしろ業者からのオファーをさばくだけでも大忙しという話もあります。それもそれで大変そうです。
我が社にもそうした売り込みは日々ありましたが、経験則でいえばこちらから探して、足を運んでという進め方の方が結果はよかったかなという認識が強いです。

新商品開発の部門に憧れて入社する人も多いのですが、
実際にはこうした繰り返しになるので、とても経験の浅い若い社員には任せられません。
ビギナーズラックもないわけではないでしょうが、
失敗体験ばかりが積み重なっていく部門のため、
新入社員だとメンタルがもたないからです。
そんなわけで、ある程度経験を積み且つメンタル強めの人が担う部門でした。

良い商品とは何か?

新商品テストが上手く行かなかったとき、要するに売れなかったときに、
なぜ売れなかったのか?という分析を避けて通るわけにはいきません。
会社の経費で実施した業務ですから、相応の結論付けというか教訓を残すことが求められます。

そんなときによく出る言葉があります。
「商品はそのものは良いんだけど…」

商品は良いのだから売れないのは他に理由があるという意味です。
売れなかったのは広告のせい。
売れなかったのは媒体のせい。
売れなかったのは価格のせい。
ということですね。

そんなことが想像できるので、
我が社では新商品開発担当者が媒体を選定し、価格を決め(上長の承認は必要)、広告案も自ら作ります。言い換えれば担当者の企画がそのまま実現しやすい構造です。
もちろんその商品を承認した上司や社長がいるので、担当に責任を取らせるとかはありません。
売れなかった商品、響かなかった広告がひとつ分かった。経験やノウハウという財産を積めた、
というロジックで責任論を収めていたわけです。

すると次に今度はこんな理由が出てきます。
売れなかったのは時代があってなかったからだ。
売れなかったのは不景気のせいだ。
売れなかったのは天気のせいだ。
商品も企画も良い商品なので、売れないのはあくまでも他に理由があるということです。

実は私も社員時代、こうした理由を言ったことがあります。
ただし、言う前から分かっていたんです。
「なんの解決にもならないし、なんの教訓にもならない」と。

なので、社長になってから良い商品の定義を決めました。
「良い商品とは売れた商品である!」
です。
このフレーズを大きな紙に印刷して会議室に貼り出しました。

これですべてが解決するわけではないのですが、
言い訳的な理由ではなく、きちんと分析して次なる仮説を立てる流れにはなったかと思います。

逆転の発想で開発する

あちこちを探し回っても売れそうな商品が見つからないと、
探し回るのも段々と疲れてきます。
まるで砂丘で砂金を探しているような感じです。
なにか道しるべが欲しいと思っていたときに、あるひとつのアイデアが浮かびました。

それは、先に広告を作ってみよう!というものです。

通販は商品と広告がセットです。
商品だけで買う訳でなく、むしろ広告に書かれた情報で消費者は買う判断をします。
面白いと思う商品を見つけても、広告のイメージがわかないとか写真映えしないとかでボツになるものも結構あったのです。

なので逆手に取って、こんな広告が作れる商品があったらいいのにと思う広告を先に作ってみたのです。
もちろんゼロからというわけではありません。
注目していたり、話題になったりしている商品、商材をベースにして、
そこにこんな機能がつけば、こんなコピーが書けるとか、
こんなデザインにしたら、商品写真のインパクトが強まるとか、
こんな開発エピソードがあれば、付加価値になるとか、
そんなイメージを広げて妄想の商品の妄想の広告を作ったのです。
イラストレーターを使って、レイアウトのラフにキャッチコピー、サブキャッチ、リード、小見出しを並べ、一部のボディコピーも書き上げました。

出来上がったラフを見直すと、我ながらよくできている!
こんな広告を出したらきっと売れるという手応えが感じられたのです。

そして、この妄想広告を新商品を探す手掛かりにしたのです。
全く同じ商品はな実在していないので、似たような商品や欲しい機能、デザインなどを探します。
するとパーツ的には世の中にすでにあったりするものなんです。
というか、妄想商品と言っても結局はどこかで見たものを寄せ集めたものだったからです。

そんな寄せ集めと妄想広告をもとにメーカーさんと打ち合わせを重ねます。
すると、メーカーさんからも、ちょっと違うけどこんな感じならうちでも出来ますね。
なんて声が出始めてくる。

こんな開発エピソードはあったりしませんか?という私の妄想の無茶振りに対しても、
こんなエピソードなら私にもありますが、これって通販的に売りの要素になります?なんて
提案も頂けたこともありました。

メーカーさんもいつもと異なる開発アプローチが楽しかったようで、かなり盛り上がりながら試作を進めることができました。

最終的には当初の妄想広告とはだいぶ異なる見栄えになってしまったのは事実なのですが、
今までのアプローチでは作ることの出来なかった商品だったことは間違いありません。

ちなみに結果を言うと、
そこそこのヒットでしかなかったのですが、
新商品開発の進め方としては、新しいアプローチを見つけたという満足感はありました。

実は大手メーカーも取り入れていた?

それから10数年後かのことです。
たまたまラジオのインタビューで流れていたのを聞いた話です。
某大手電機メーカーの新商品開発のエピソード、
技術、製造、マーケティングなど各部門から集まったプロジェクトで
先に理想の商品パンフレットを作ってから開発を進めたという話を聞きました。
おそらくオンライン会議なども今ほど普及していない時代のはずです。
全国に散らばっている各部門が共通のゴールイメージを持って開発を進めるために、
先に皆で広告を作ってみて、その内容にそれぞれが納得してから進めたのだそうです。
そのおかげで意思疎通がスムーズになり開発スピードも上がったとかの話でした。(ソースになりそうな記事を探したのですが、見つかりませんでした。残念)
しかもその商品の場合は実際に大ヒットだったとか。

誰もが知る大手メーカーさんも行っていた開発手法だったんだなと、
ちょっと嬉しく思ったものです。

開発手法として定着したのか?

妄想広告から商品開発を進めるこの手法。
最初に試してアプローチとして発見はしたことから、
その後何度か試してみました。
すると妄想広告はあまり作りこまない方が良かったことが分かりました。
やはり作りこみ過ぎると後で融通が利かなくなり、
結果として実商品を見つけられずに途中でボツになってしまいました。

全体にとらわれずに、商品スペック、メインキャッチ、小見出しで展開させる商品のストーリーや、消費者が実際に使って感じるだろう体験ストーリーといった広告のパーツに応用するという感じで取り入れるのが使い勝手がよかったです。
商品写真のインパクト感や、商品が届いた購入者が最初に手に取って感じて欲しい衝撃的な感想といったイメージなどをもとに開発した商品がありました。
この商品は大ヒットとなり、
発売後10年以上経った今でも続いているロングセラーとなってくれました。

この手法は社員にも勧めたのですが、
妄想広告作りは結構向き不向きもあるようで、
社内的にはあまり普及しなかったかなというのが実際のところではありました。

ただ、発想の転換とか、視点を変えるとかの時に、
部分的に活用するのはありかなと感じています。

通販業界の人にとって参考になるような記事だったかは心許ないですが、
新商品開発ってやっぱり大変だよなあ、と感じていただければ幸いです。

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