金曜日の随筆:凍りついた日本の価格と賃金
また運命を動かしていく金曜日が巡って来ました。2023年のWK26、水無月の肆です。本日は気鋭の経営学者、渡辺努氏の著作『世界インフレの謎』(講談社現代新書2022)を拾い読みした感想文を軽く記します。
慢性的なデフレが染み付いた国
東京大学大学院経済学研究科教授の渡辺努氏は、マクロ経済学者として以前から政府に提言を行なってきた偉い先生ですが、2022年1月出版の『物価とは何か』(講談社選書メチエ2021)が話題となり、一躍注目される存在になったように思います。
講談社現代新書として発売された本書は、かなり読み易く、ポイントをかいつまんで現在世界で起きている経済現象を読み解くヒントを与えてくれているように感じます。
特に臨場感を伴って読めたのが、第4章 日本だけが苦しむ「2つの病」-デフレという慢性病と急性インフレ でした。
日本の価格・賃金ノルム
長引くデフレの中で、日本社会の支配的な空気は、賃金も物価も「横這い」が当たり前、というものでした。渡辺氏は、「値上げ嫌い」と「価格据え置き慣行」がセットで両立していて、その価値観は、ソーシャル・ノルム(社会的規範)になってしまっている、と分析しています。
突出が許されず、横這いが当たり前で、無理矢理そこへ着地させられる社会が行き着く先は、停滞と地盤沈下で社会全体がゆっくりと貧しくなってゆく、活力を欠いた世界です。これは、私の肌感覚的にもその通りで、2010年代、とりわけ東日本大震災以降に顕著に感じるようになりました。当時は、頻繁に海外出張に出向く立場だったので、最初は訪れた国と比べての日本の凋落傾向を真剣に嘆いていたものの、最後の方はもう諦念感の方が強くなっていました。そして、落ちぶれながらも、人々があくせく働かずとも、倹しくやっていけるのなら、それでいいのではないか、という悲しい感覚に到達しました。
その雰囲気を象徴するような渡辺氏の「凍りついた価格と賃金」は見事な表現だと感じました。
そしてインフレの直撃
ところが、必死に脱却を図ろうとあらゆる政策を打ち出しても変わらなかった日本に暮らす人々のマインドが、この一年くらいで豹変しているようです。これは、アンケートの数字でも顕著に現れていて、渡辺氏も驚くほどのようです。やっと凍りついていたノルムが変化しようとしているのかもしれません。
しばらくは、面白い局面になりそうです。正直な所、意識的に収入を減らす選択をした身としてはインフレは結構厄介な問題ですが、何とかマネージしていくつもりです。残る章もしっかり読み込んで、この状況に挑む基礎体力を付けておこうと思います。
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