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『絶頂の一族』を読む

本日は、松田賢弥『絶頂の一族 プリンス・安倍晋三と六人の「ファミリー」』(講談社+α文庫2015)の読書感想文です。

日本政治を知る意義

著者の松田賢弥氏は、『週刊現代』『週刊文春』『文藝春秋』などで執筆しているジャーナリストです。小沢一郎氏に関する著作もあります。

本書は、前内閣総理大臣・安倍晋三氏の華麗なるファミリーに連なる人々を取り上げ、政治家としての源流を探った書物になっています。現役の総理大臣(当時)を扱った書物ということで、話題になっていた記憶がうっすらあります。個人的には「第一章 岸信介」「第二章 安倍晋太郎」を面白く感じました。

父・安倍晋太郎氏の異父弟である西村正雄氏(第三章)と妻の安倍昭恵氏(第五章)には直接取材して得た情報をもとに書き下ろしています。また、第四章では「安倍晋太郎氏の抱えた孤独と葛藤」の問題を、ある母子を登場させて描いています。結構キワドい内容の詰まった一冊です。

安倍晋三氏と、母の安倍洋子氏(第六章)に直接取材をして得た情報はなさそうで、周辺の人物からの聞き取り、過去のインタビュー記事や洋子氏の執筆記事の読み込み情報からが中心となっています。

安倍晋三氏の華麗な系譜

安倍晋三(1954/9/21-)氏は、日本の憲政史上で最も長く政権を維持した政治家です。

【安倍政権】
第90代 第一次(2006/9/26-2007/8/27)
    第一次改造(2007/8/27-2007/9/26)
第96代 第二次(2012/12/26-2014/9/3)
    第二次改造(2014/9/3-2014/12/24)
第97代 第三次(2014/12/24-2015/10/7)
    第三次改造①(2015/10/7-2016/8/3)
    第三次改造②(2016/8/3-2017/8/3)
    第三次改造③(2017/8/3-2017/11/1)
第98代 第四次(2017/11/1-2018/10/2)
    第四次改造①(2018/10/2-2019/9/11)
    第四次改造②(2019/9/11-2020/9/16)
◆通算在任期間:3188日(憲政史上最長)
◆連続在任期間:2822日(憲政史上最長)

安倍晋三氏が、日本の政治史上で要職を占めた政治家たちの血を引き継いでいる政界のサラブレットであることはよく知られています。

父は、衆議院議員で自由民主党・政府内の要職を歴任し「政界のプリンス」と呼ばれた、安倍晋太郎氏(1924/4/29-1991/5/15)。母は、元内閣総理大臣で「昭和の妖怪」と呼ばれた岸信介(1896/11/13-1987/8/7)の娘、洋子氏(1928/6/14-)です。「岸信介の孫」であり、「安倍晋太郎の息子」という人物です。

これだけでも凄い訳ですが、祖父の岸信介氏の実弟(大叔父)は、元内閣総理大臣の佐藤栄作氏(1901/3/27-1975/6/3)であり、父の安倍晋太郎氏の父親(祖父)は、衆議院議員の阿部寛氏(1896/8/31-1946/8/31)です。

遠縁を辿れば、大久保利通(1830/9/26-1878/5/14)、牧野伸顕(1861/11/24-1949/1/25)、松岡洋右(1880/3/4-1946/6/27)、吉田茂(1878/9/22-1967/10/20)ら、歴史上の人物の名が出てきますし、現副総理・財務大臣の麻生太郎氏(1940/9/20-)とも繋がります。

安倍晋三氏の政治姿勢や信条が、秘書として間近で仕事を見る機会のあった父の安倍晋太郎氏よりも、祖父の岸信介氏寄りではないか、という評価はよく聞かれます。その秘密も探った内容となっています。

昭和史のおさらいとして

特定の政治家の人物像を通して、昭和史をサクッとおさらいできたのが、本書を読んでのメリットです。ワンマン宰相に君臨した吉田茂以降の日本政治史は、私がもう一度学び直したいと思っているテーマでした。

私が物心付いた時の総理大臣は、三木武夫氏(1907/3/7-1988/11/14)でしたが、以降の田中角栄氏と福田赳夫氏(角福時代)の主導権争い、ポスト中曽根を争う三人のニューリーダーの時代、”リクルート事件”の混乱などは、オンタイムで記憶しています。当時を掘り下げて学びたい思いがあります。

岸信介氏は、私にとってはライブ感のない時代、安倍晋太郎氏は、自分がよく覚えている時代、に日本の政治の中枢で舵取りをした人たちです。二人の政治家の辿ってきた人生や経歴をおさらいできたことで、別の視点からの歴史観が加わった気がします。

政治家の仕事の評価には歴史的

政権運営の中枢を担った政治家によって行われた仕事、行われなかった仕事の評価は、その後の歴史に委ねるしかありません。2012年から長く続いた安倍政権の歴史的意義を振り返り、評価が固まるまでには、後10~20年の月日が必要になるでしょう。自分もぎりぎりオンタイムで見守っていくことができそうです。

安倍晋三氏の実弟で、岸家の養子に出た岸信夫(1959/4/1-)氏は、現在の菅義偉政権の防衛大臣に就任しており、評価が上昇中です。安倍晋三氏も持病の潰瘍性大腸炎の悪化で総理の地位は退いたものの、引退はせずに依然として影響力を保持したままです。華麗な一族の歴史はまだ続いていきそうです。

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