私の好きだった曲⑲:渚の誓い
本日は、私の好きだった曲(1980年代洋楽しばり)シリーズ第19回目として、エア・サプライ(Air Supply)『渚の誓い Making Love Out of Nothing at All』(1983)を取り上げてみたいと思います。
中学時代に買えた貴重なアルバムの中の一曲
私が洋楽を聴き始めたのは、中学時代です。限られた小遣いをどのアーティストのどのアルバム盤に費やすかは、一大事でした。ネット検索などない時代、自分なりに情報を集め、真剣に吟味をし、購入した数少ないアルバムの一枚が、オーストラリアのロックバンド、エア・サプライが1983年夏に発売した『渚の誓い グレイテスト・ヒッツ』でした。発売元はアリスタレコードで、2,000円の特別価格。しかも、日本版にはボーナストラックとして、『あなたのいない朝 I'll Never Get Enough of You』と『レイト・アゲイン(ライブ)Late Again 』が収録されていて、お得感に魅力を感じて選んだ記憶があります。
『渚の誓い』(なぜこの邦訳なのかは謎です)は、Side1の4曲目に収められていた新曲で、シングルカットもされて、ビルボード全米シングルチャートで2位を記録する大ヒットとなっています。彼らの代表作の一つです。
エア・サプライについて
エア・サプライは、1976年にオーストラリアのメルボルンで結成され、1980年に『ロスト・イン・ラブ Lost in Love』の大ヒットによって、世界的にその名を知られるようになりました。バンド形態を取ってはいるものの、ギタリスト兼ボーカルのグラハム・ラッセル(Graham Russell 1950/6/11-)と高音域ののびやかなボーカルが印象的なラッセル・ヒッチコック(Russell Hitchcock 1949/6/15-)の二人プロジェクトという色彩の濃いバンドです。
パワー・バラード系のヒット曲が多く、爽やかな海や夏を連想させるイメージも強いことから、日本では『ペパーミント・サウンド』などとも呼ばれて、ソフト路線で親しまれていました。本人たちはソフトロック系のバンドとして位置付けられることが不満だったようで、もっとハード系のロックを志向していたとも言われています。
改めて聴くと歌詞が深い
この曲は、ミートローフ(Meat Loaf)との数々の仕事で知られるアメリカ人のジム・スタインマン(Jim Steinman 1947/11/1-2021/4/19)の作品で、作詞・作曲に加え、プロデュースもスタインマンが担当しています。
スタインマンが作ったこの曲と『愛の翳り Total Eclipse of the Heart』は、元々ミートローフのニューアルバム用に提供される予定だったものでした。ところが、契約トラブルから不採用となり、代わりにエア・サプライとウェールズ出身の女性シンガー、ボニー・タイラー(Bonnie Tylor 1951/6/8-)にそれぞれ提供したところ、三週間にわたって、全米ビルボードチャートの1、2位を『愛の翳り』『渚の誓い』が独占する大ヒットになった、というエピソードがあります。
スタインマン好みに制作され、従来のエア・サプライ・サウンドとはやや異なるテイストを持つこの曲を、二人は気に入っていなかったのではないか、という説もありましたが、今では、ライブでも頻繁に演奏される一曲となっており、彼らの代表曲として認知されています。また、この曲は多くのアーティストにカバーされており、様々な異なるバージョンも楽しめます。
今、改めてこの曲の歌詞をよく聴くと、ロマンチックな曲調とは裏腹に、屈折した世界観が描かれていることがわかります。原題をそのまま訳せば、『何も存在しないところから愛を育くむ』というような意味になります。『渚の誓い』というさらっと夏を連想させる邦題にはない、もっと重厚でシリアスな世界観が織り込まれているように感じます。