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『日本史は「嫉妬」でほぼ説明がつく』を読む

今日も朝から出掛けて、長野県内をドライブしつつ、その合間、合間に読み進めて読了した、加来耕三『日本史は「嫉妬」でほぼ説明がつく』(方丈社2017)の読書感想文を残します。

羨望と嫉妬

著者の加来耕三氏は、本書で日本史上の有名な事件の真相を、人が簡単には克服できない『嫉妬」という感情に着目して読み解く、というユニークな手法に取り組んでいます。

加来氏は、嫉妬を似た感情である「羨望」とは区別して扱っています。嫉妬が発生する条件(嫉妬の力学)について、以下の四つを挙げています。

① 自分と同等か、劣っているものが優位に立った時
② 自分が軽蔑し、嫌っているものが優位に立った時
③ 自分と同性のものが優位に立った時
④ 自分より明らかに優れたものが優位を誇示した時

P105-106

一般に、嫉妬はよくないものと考えられがちですが、加来氏は嫉妬を一様に悪いものと決め付けて断罪している訳ではありません。嫉妬の発露が原動力となって、人類や社会の成長や発展に繋がったというポジティブな面もある、と考えているようです。

抑制され、無言のうちに禁止を強いられる嫉妬より、むしろ表面に出して社会的に許容され、推奨される競争、進歩、改革にこそ、心をむけるべきではあるまいか。

P190

名言の引用が巧み

血生臭い歴史上の事件の裏側に、当事者同士の嫉妬感情が介在したどろどろとした確執があった、と考えざるを得ない事例があるのは確かでしょう。謀叛の原因が完全に特定されているとは言えない、本能寺の変についても、織田信長と明智光秀の間に複雑な感情のもつれ=嫉妬の感情があった、という説を否定することはできないでしょう。

加来氏は、自説を補強する目的で、本書の中で多くの引用を援用していて、これらが非常に興味深いものがあります。一例ではありますが、

嫉みは憎しみよりも解き難い

ラ・ロシュフコー『箴言集』より P63

げに怒りは愚かなものを殺し、嫉みは馬鹿者の生命を奪う

『旧約聖書 ヨブ記』より P27

年寄りは、悪い手本を示すことができなくなった腹いせに、良い教訓を垂れたがる

ラ・ロシュフコー『箴言集』より P151

われわれは見慣れていることだが、人間というものは、自分にわからないことはこれを軽蔑し、また自分にとって煩わしいとなると、善や美に対してもぶつぶつ不平を言うものだ

ゲーテ『フォウスト』より P187

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