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静岡県内の書店員さん・図書館員さんに伝えたいこと

大変有難いことに、私のデビュー小説『ぬくもりの旋律』が第12回静岡書店大賞の小説部門で大賞に選ばれました。
12月に行われた授賞式でのスピーチで本当は書店員さんや図書館員さんにもっと伝えたいことがあったのですが、時間も限られていたためすべてをお伝えすることができなかったので、ここでできる限り綴っていきたいと思います。


静岡書店大賞とは

最初に、書店員さんや図書館員さん以外の方も読んでくださっているかもしれないので、「静岡書店大賞」とはどんなものかを簡単に説明させていただきます。
静岡書店大賞が誕生したのは2012年。現在、掛川市で「走る本屋さん 高久書店」を営んでいらっしゃる高木久直さんが静岡県内の大手書店に勤務していたころ、ほかの書店さんや図書館などに呼びかけたことが誕生のきっかけだと聞いています。
事務局には、県内に本社のある書店の社員さんや全国区の大型書店の書店員さん、町の小さな書店さんや県内の図書館員さんなどこれまで様々な方が関わり、「静岡から出版業界を元気に!」という夢を共有しながら、毎年の開催に向けて皆さん力を合わせて準備をされているそうです。
静岡書店大賞には「小説部門」「児童書・新作部門」「児童書・名作部門」「映像化したい文庫部門」があり、選考対象となるのは前年の9月1日からその年の8月31日に刊行されたすべての本(名作部門以外)で、静岡県内の書店員さんと図書館員さんの投票によって選出されます。

本来であれば”商売敵”とか”ライバル”という関係性の方々が、出版業界を盛り上げるために一致団結している姿は、県外の出版関係者さんたちからすると「全国的に見ても、きわめて珍しい(そして美しい!)光景」だということでした。
私自身も「静岡の書店員さん、図書館員さんはみんな横のつながりを大事にされていて、こんなに結束力が強いんだ!」と驚きました。そして、商売敵なんて器の小さいことは言わず、みんなで盛り上げていこうよ!と言わんばかりに楽しそうに授賞式を進行されている事務局の皆さんが「めちゃくちゃカッコいい大人たち」として私の目に映りました。

本屋さんへの思い

ここでは、書店さんのことを親しみを込めて「本屋さん」と呼ばせていただくことにします。
私が小学校時代から高校を卒業するまでよく通っていたのは、静岡市の呉服町通りにかつてあった谷島屋書店さんと江﨑書店さん、そして七間町にあった吉見書店さん。大人になってからは紺屋町に最近まであった戸田書店さんにもよく行きました。小学生のころは、駒形通りのブックス駒形で毎月「りぼん」を買っていました。

大学進学を機に上京してからは、通っていた立教大学の近くにある東武百貨店の旭屋書店さん、西武池袋本店にあったリブロ池袋さんの常連でした。社会人になってからは東中野に住んでいたので、紀伊國屋書店さんの新宿本店と新宿南店によく行っていました。いずれの本屋さんも、どのフロアのどこの棚に何の本が置いてあるかほぼすべて把握しているくらい頻繁に通っていました。

改めて振り返ってみると、私の人生は本屋さんとともにあったと言っていいほど、自分にとって身近な存在でした。

特に思い出すのが、高校時代、学校の勉強についていけなくて悩んでいたときのこと。学校には自分よりも優秀な人がたくさんいて、自分が「何者でもない」ことに気づいてしまった。そんな時、谷島屋書店さんの(たしか)3階にあった映画関連書籍の棚が、自分にとって光になりました。当時は洋画がとても流行っていて、その棚からシナリオブックを手にとった私は「いつかハリウッドでシナリオを書いてみたい」と夢を抱くようになったのです。
今の自分は何者でもない、学校では落ちこぼれかもしれない、でも輝ける場所はきっとある!そう確信できた場所が、まさに谷島屋書店さんの3階でした。それ以降、私は勉強がうまくいかなくて行き詰まると必ずそこに行って、お小遣いで新しいシナリオブックを買いました。当時購入した「パルプフィクション」は、何者でもなかった自分に特に希望を与えてくれた一冊です。今となっては、自分の脚本家としてのルーツはあの棚にあったんだなと感じています。

そういえば大学時代にスポーツの道を目指してみようと思ったのも、会社を辞めてスポーツライターになろうと決めたのも、本屋さんをウロウロしていたときに「一冊と出会えたこと」がきっかけでした。
これからの人生、どうしようかな?何をして生きていこうかな?そんなことを思ったときはいつも本屋さんに行って、アンテナを張って「本に呼ばれる」のを待っていました。そういうとき、必ず本のほうから「ここだよ!」と呼んでくれていたような気がしたのです。

図書館への思い

小学校に入学してまもなく、静岡市立図書館のカードを親にお願いして作ってもらいました。理由は、同じクラスの友達がカードを持っていたのが羨ましかったから。
当時の静岡市立図書館は、バスターミナルのある新静岡センター(現在の新静岡セノバ)の向かいの教育会館1階にありました。私は静岡市の駿府城公園の近くにある小中学校に通っていて、友達もみんなバス通学だったので、学校帰りにみんなで図書館に立ち寄るのが習慣になりました。


これが小学1年生のときに作ってもらった図書館カード。40年前ですね。
今も使えるんでしょうか?さすがに無理かな。笑  でも、今でも大事に持っています。

私は社会人生活のほとんどを”取材者”として過ごしていますが、「調べる」そして「知る」という楽しさを教えてくれたのが図書館でした。わからないことがあれば今ならインターネットで何でも調べられますが、当時は図書館へ直行。自分で調べて何かを発見すること、知らなかったことを知ることは楽しい、だから調べたい、もっと知りたい。その思いは、のちに取材者となった私のエネルギー源になってくれました。
そしてもちろん「読む」ことの楽しみもたくさん教えてもらいました。市立図書館が静岡市役所の2階に移転してからも、そこは私の大切な居場所であり続けました。
図書館に通うという習慣がなかったら、私は取材者にも、物を書く人間にもならなかったと思います。本屋さんとともに、私の人生の根幹を支えてくれた存在なのです。

小説家デビューしたときに感じたこと

それだけ本屋さんと図書館に思い入れのある私ですから、書店員さんと図書館員さんの投票によって選出される静岡書店大賞をいただけたことがどれだけ嬉しかったか、おわかりいただけるかと思います。しかも、自分が実際に通っていたところに今いらっしゃる方々が選んでくださったわけで、「感激」という言葉では足りないくらいの思いなのです。

そして、もう一つ。『ぬくもりの旋律』の刊行時に私が感じたことをお伝えさせてください。
刊行時の昨年6月から7月くらいにかけて、いくつかの書店さんにお邪魔しました。当時は現在放送中のTBS日曜劇場「御上先生」の脚本の打ち合わせで東京にいることが多かったので、なかなか自分の思い通りにはお伺いできなかったのですが、それでも東京に行く際に新幹線を途中下車したり、SNSでPOP展開をしてくださっている投稿を発見しては出向いたりと、できる範囲でお邪魔しました。ときには急に「時間できた!」と思ってアポなし、お土産も持たず手ぶらで行ってしまったりもしてしまいましたが、どの書店さんも本当に温かく迎えてくださいました。

小説家として初めて書店さんを訪ねてみると、書店員さんが直筆で書かれたPOPや創意工夫された陳列(それは私の本以外のものも含め)がたくさん目に留まりました。そしたら急に、涙が出て来てしまいました。
私はお客さんとして本屋さんに行っていたとき、ずっと「自分がアンテナを立てていたら本に呼ばれた」と思っていたのですが、実は書店員さんがこうして導いてくれていたのだということを、心で深く感じ取ってしまったからです。
私が過去に悩んでいたときも、顔の見えない書店員さんがこうして棚やPOPを作ってくれて、それによって私が手にとって、そのおかげで一歩前に踏み出せていたのだと実感しました。

POPを見ていると、書店員さんたちは足を運んでくれたお客さんに「この一冊で元気になってほしい」「疲れた心を癒して、また明日から頑張ってほしい」「なんてことのない日常であっても、この本でワクワクしてほしい」そんな思いでいらっしゃることがひしひしと伝わってきました。
書店員さんて、人に幸せを届ける仕事なんだなぁ、と。それは、いつも来てくれるお客さんに対しても、初めての訪問者に対しても同じ。お客さんが一冊の本の助けを借りて幸せを見つけられることを、書店員さんは心から願っている。そんなことを、POPを見ながらしみじみ感じました。そして、その思いはきっと図書館員さんも同じではないかと思います。

そんな素敵な方々に「誰かにオススメしたい一冊」として選んでもらえたこと。その喜びをお伝えするには、授賞式のスピーチでは時間が全然足りませんでした。。。

書店員さん・図書館員のみなさんへ

改めまして、『ぬくもりの旋律』を静岡書店大賞に選んでいただき、本当にありがとうございました。
私も、静岡から出版業界を盛り上げるという皆さんの夢を、なんらかの形で少しでも共有させていただきたいと思っています。

そのためには、最高の作品を世に送り出すことはもちろん、本を愛する方々に少しでも本屋さんに足を運んでもらえるような工夫も、作家側として仕掛けていきたい!と意気込んでおります。

そして私はこれからも、心が疲れている人には「本屋さんに行くと立ち直れるよ」と、心が元気な人にも「本屋さんに行くともっとハッピーになれるよ」と伝えていきます。

これからもたくさんの人たちに、本でしか味わえない幸せをいっぱい届けてください。

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