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高齢者の『家に帰りたい』願望にどう対応する?
介護の現場でよく耳にする言葉のひとつが、**「家に帰りたい」**という高齢者の声です。この言葉を聞いたとき、介護職員としてどのように対応すればよいのか、戸惑うこともあるでしょう。
この「家に帰りたい」という気持ちの裏には、寂しさ、不安、過去の幸せな記憶への思いなど、さまざまな感情や理由が隠されています。特に認知症の方の場合、記憶が混乱することによって現れるケースも多く、対応には理解と寄り添いの姿勢が必要です。
今回は、高齢者が「家に帰りたい」と話す理由を理解し、その気持ちにどう寄り添い、安心感を与えるかについてお話しします。
なぜ「家に帰りたい」と思うのか?
1. 過去の記憶と安心感への願望
高齢者にとって、「家」とは単なる建物ではなく、家族との思い出や安心できる居場所の象徴です。
認知症の方の場合、記憶が昔の時点で止まっており、「帰るべき家」が現実とは異なることもあります。たとえば、若いころに暮らしていた実家を思い出し、「帰りたい」と言う場合があります。
2. 不安や孤独感の表れ
環境の変化や慣れない施設での生活が続くと、「自分の居場所ではない」と感じることがあります。
特に夜間や静かな時間帯には、孤独感が強まり、帰宅願望が現れやすい傾向があります。
3. 自立心の表現
「家に帰りたい」という言葉は、自分の生活を自分で管理したいという自立心の表れでもあります。
誰かに頼る生活に対する抵抗や、「自分はまだできる」という思いが背景にあることもあります。
4. 家族への思い
家族に会いたい、家族の役に立ちたいという気持ちから、「家に帰りたい」と言うこともあります。
家族と離れて暮らすことへの寂しさや、家族の存在が日常の支えになっていたことを思い出しているのです。
「家に帰りたい」という言葉への具体的な対応方法
1. 否定せず、気持ちを受け止める
「ここがあなたの家ですよ」や「帰るところはもうないですよ」という否定的な言葉は避けます。
代わりに、**「家に帰りたいんですね」「お家にはどなたが待っているんですか?」**と、気持ちに寄り添う言葉をかけます。
相手の言葉を否定せずに受け入れることで、安心感を与えます。
2. 会話を通して気持ちを探る
「お家ではどんなことをされていましたか?」
「帰ったら何をしたいですか?」
こうした会話を通じて、「帰りたい」という言葉の裏にある気持ちや思い出を引き出します。話すことで気持ちが落ち着くことも多いです。
3. 気持ちをそらすための提案をする
「お茶を飲んでから考えませんか?」
「お散歩に行って気分転換しましょうか?」
一時的な願望であれば、別の楽しい活動や話題に切り替えることで気持ちを和らげることができます。
4. 安心できる環境を整える
家族写真や思い出の品を身近に置くことで、「家」に対する思いを少しでも満たすことができます。
お気に入りの座布団や毛布など、本人が安心できるアイテムを使うことも有効です。
5. 家族との関わりを増やす
家族との面会や、ビデオ通話などを活用して家族とつながる時間を作ることが、「帰りたい」という思いを和らげる助けになります。
家族からの手紙や写真も、気持ちの安定に役立ちます。
「家に帰りたい」という気持ちへの対応で気をつけるポイント
1. 感情の裏にあるニーズを理解する
「帰りたい」という言葉は、「安心したい」「誰かに寄り添ってほしい」という気持ちの表れかもしれません。
「今、何を必要としているのか?」を探る視点を持つことが重要です。
2. 一人で対応しようとしない
「帰りたい」という訴えが続く場合は、チームで共有し、対応方法を検討します。
他の職員や家族と連携を取り、最適な支援方法を話し合うことが大切です。
3. 安全を最優先にする
本当に帰ろうと施設の外に出ようとする場合もあります。
その際は、無理に制止せず、「一緒に行きましょう」と付き添い、落ち着いた場所で話を聞くなど、安全を確保することが重要です。
60歳から介護職を選ばれた方々へ
60歳から介護職を始められた皆さん。「家に帰りたい」という高齢者の言葉に向き合うことは、決して簡単ではありません。しかし、この言葉は、その方の人生や思い出、家族への愛情が詰まった大切な気持ちの表現です。
皆さんが持つ人生経験や人との関わりの中で培った思いやりの心は、きっと利用者さんの心に寄り添う力になります。「帰りたい」という言葉の奥にある気持ちをくみ取り、その人の心に安心を届けることが、何よりの支援となるでしょう。
特別なスキルがなくても、心を込めた声かけや、相手を思いやる気持ちがあれば十分です。「あなたがいるから安心できる」と思ってもらえる存在を目指して、これからも自分らしいペースで介護の仕事に取り組んでください。
まとめ
「家に帰りたい」という言葉には、安心感や家族への思い、不安などの気持ちが隠れている
否定せず、気持ちを受け止める声かけを意識する
会話を通して思い出や気持ちを引き出し、心の整理をサポートする
気持ちをそらす活動や、安心できる環境作りで心を和らげる
家族との関わりを増やし、心の距離を縮める工夫を行う
安全確保を最優先にし、チームで対応を共有する
「家に帰りたい」という言葉の奥にある気持ちを理解し、安心して日々を過ごしてもらうためのサポートを続けていきましょう。
その思いに寄り添う優しい時間が、利用者さんの心を温めます。
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