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📖#3 千年前の和風シンデレラストーリー『和泉式部日記』


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弟宮、お忍びで突撃訪問!

弟宮様は事前連絡もなく、お忍びでこっそりと和泉の家にやってきました。
和泉はとても困りましたが、昼間もお返事をしているので居留守をつかうこともできず、お話だけならと思い、外の廊下に丸い敷物を敷いて、和泉は御簾みす(ブラインド)の後ろで弟宮様をお招きしました。
御簾越しに拝見する弟宮様のお姿は、普通の人とはかけ離れていて、とても美しくて気品のあるものでした。

ついに、弟宮がやってきました!
天皇の息子が自ら和泉ちゃんに会いに来ました!
この国最上級の美青年が、中流階級の和泉ちゃんのところに! わざわざ!

皆様のお家に突然、王子様が馬車に乗ってやってきたところを想像してみてください。

………。

いや、困るわ!!
近所迷惑だし、王子様にあがってもらえる立派な部屋もないし!
せめて事前に連絡してくれ!!
王族だろうと、アポは大事でしょうが!!

和泉ちゃんが困るのはもっともですね。

弟宮は上品なイケメンだったので、さすがの和泉ちゃんも緊張気味。
弟宮がイケメンってことは、兄宮もイケメンだったんでしょうね。

イケメン超セレブ兄弟から愛される和泉ちゃん……羨ましすぎます。
どうすれば、中流階級に生まれて最上流階級の皇子二人のハートを射止めることが出来るんでしょうか。

平凡って設定だけど、どう見ても美少女な顔をしている昔の少女漫画のヒロインなのかな?

月が昇って光が差し込んできました。

弟宮「ここはとてもまぶしいな。私は奥に引き込もりがちなタイプだから、このような明るい場所には慣れていないのです。落ち着かないので、あなたのいる御簾の内側に座らせてください。あなたがこれまで会ってきた男性たちと同じようなことはしません」

とおっしゃいましたが、和泉はそれとなくはぐらかしました。

弟宮、部屋の中に入りたいのがバレバレです。
「私は外に出て光をあびることは、めったにないくらい高貴な身だから、月の光がまぶしくて困るよ」
って、もっともらしい言い訳が腹立つわー!

「あなたがこれまで会ってきた~」は、和泉ちゃんの恋愛遍歴が多いと知っているからこその発言。
「私は他のチャラ男たちとは違うよ」ってことですね。
……まあ、そういうことを言うヤツにかぎって、同じチャラ男なんですけどねー。

このまま何も進展せずに朝になってしまうのではないか。
焦った弟宮様は、

弟宮「はかない夢もみずに夜を明かしてしまったら、何を思い出として語ればいいのでしょうか(だから、今夜あなたと結ばれたいです)」
和泉「私は亡き宮様のことを思って泣いてばかりいて袖が濡れているので、はかない夢をみる夜などありません(だから、今夜あなたと結ばれるなんて出来ません)」
弟宮「私は軽々しく外出が出来る身分ではありません。あなたに対して配慮がないと思われるかもしれませんが、自分でもこわいほどに、あなたが好きなのです」

と言って、御簾みす(ブランド)の中にすべり込んでしまわれました。
そうして、二人は結ばれたのです。

ほらね! やっぱりね!
やりやがりましたよ、こいつ!

弟宮はとうとう亡き兄宮の恋人だった和泉ちゃんをゲットしました。

一年間悲しんでいた和泉ちゃんも、兄宮に申し訳ないと思いつつも、弟宮に心惹かれてしまったのです。

和泉ちゃんは恋愛依存症っぽいから、いつでも恋人が欲しいタイプなんでしょうね。

釣った魚にエサはやらない

弟宮様からの「今夜行きます」というお手紙を心待ちにしておりましたが、なかなか来ませんでしたので、和泉はがっかりしてしまいました。
弟宮様は身分がとても高いので、他の男性貴族のように自由に外出は難しいのです。
弟宮様と正妻の仲は普通の夫婦のように上手くいっていないとはいえ、毎晩お出かけされたら変だと思われてしまいます。

弟宮「亡き兄宮様が世間から非難されたのは、この女のせいだったな」

と思って、弟宮様が和泉のところへ来てくださらないのは、和泉のことを本気で好きになっていないからでしょう。

弟宮、来いよ! なにやってんだ!

想いが通じた途端にこれです。
「私は他の男たちとは違うよ」って言ってたのにー! 嘘つき!

言葉ではなんとでも言えますよねー。
行動にこそ、その人の本心が見えます。

あんなに熱心に口説いておいて、結ばれたら態度一変。
世間から非難されるのを覚悟で口説いてきたんじゃないんかい!

傷ついた和泉ちゃんの仕返し

数日経っても弟宮様は和泉のところにいらっしゃいませんでした。
五月になって、ようやくお忍びでいらっしゃいましたが、和泉はお寺に詣でようと思い、心身を清めようとしているうちに、

和泉「弟宮様が全然来てくれないのは、私への愛情が薄いからだわ」

と思ったので、弟宮様とお話もせず、仏様のために心身を清めようとしてるので性的なことはしませんと理由をつけて、二人は何もせずに夜を明かしました。

翌朝の弟宮様からのお手紙には、

弟宮「せっかくお会いしたのに何もせず夜を明かしてしまうなんて滅多にないことです。さすがにあきれました」

と書いてあり、和泉は、

和泉「毎晩さびしくて悲しい思いをしている私にとって、何もなく明かす夜なんて珍しくありません」

とお返事しました。

和泉ちゃん、やり返す!

お寺にもうでるときは、仏様の前で清い自分でいるために俗っぽいことは避けて数日間心身を清めます。
当然ながら、夜の営みも駄目です。

あれだけ熱心に口説いてきたくせに、口説き落としたら全然来なくなった弟宮への和泉ちゃん流仕返しです。
よくやった! 和泉ちゃん!


続きます。


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