📖#9 千年前の和風シンデレラストーリー『和泉式部日記』

マリナデシコ｜さいたまの大和なでしこ

2023年5月9日 17:05

↑の続きです。

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その後の弟宮と和泉ちゃん

『和泉式部日記』のあとの二人はどうなったのかといいますと、和泉ちゃんはそのまま弟宮のお屋敷に住んで、二年後に弟宮との子を出産します。

あんなにもコロコロと気持ちが変わってしまう弟宮でしたが、和泉ちゃんと一緒に暮らすようになってからは、ちゃんと信じられるようになったんでしょうね。

めでたしめでたし。

とは、ならないのです！
残念ながら！

子どもが生まれて幸せだった弟宮は、その一年後、27歳の若さで亡くなってしまうのです。

なんで『和泉式部日記』を書いたのか

『和泉式部日記』が書かれたのは、弟宮が亡くなってから喪に服した一年の間（1008年）といわれています。

物語調になっているので、和泉ちゃんではない別人が書いたのでは？とも言われていますが、そうなると弟宮が亡くなってからの一年で書くのは早すぎる気がします。

当事者の和泉ちゃんが生きているのに、噂と妄想だけでここまで書けるとしたら、よっぽどの天才か、おかしい人ですよね。
（同時代に『源氏物語』を書いていた紫式部先生よりも物語を作る才能があるかも？）

このnoteでは、日記は和泉ちゃん本人が書いたとして考えますね。
和泉ちゃん本人が、弟宮が亡くなってすぐに『和泉式部日記』で二人の恋を赤裸々に書いたのだとしたら、なんとなく理由が分かる気がします。

正妻を追い出してしまうほどの大事件になった和泉ちゃんと弟宮の恋は、たった３年、しかも弟宮が早死にしてしまうことで終わりを迎えました。
しかも、その前の恋人だった兄宮も、和泉ちゃんと恋人になってから僅か一年で病死しています。

世の中の人にとって、これほど格好のスキャンダルはないでしょう。
「男好きで奔放な和泉式部が、自分の立場をわきまえもせず、身分違いの恋で二人の皇子を破滅させたのだ」とか「兄宮と弟宮が若くして他界されたのは、あの和泉式部とかいう女のせいに違いない！」とか、散々非難されたのだと思います。

今の時代だって有名人の恋愛は世間の話題になって面白がられていますし、平安時代の貴族は暇つぶし出来るものが少ないのでゴシップは大好物でした。

和泉ちゃんと弟宮の恋は色々ありましたが本気だったので、和泉ちゃんは世間からの誹謗中傷に耐え切れなかったんだと思います。

「それは違います！　私と宮様はお互いに愛し合っていました！」
と一つ一つに反論したいけど、それは不可能。

となれば、残された方法は弟宮との恋を自分自身で書きとめること。
周りがなんと言おうと、二人は真実の愛で結ばれていたってことを発信したいと思ったのかもしれません。
だから、弟宮とやりとりしたたくさんのお手紙や歌を読み返し、思い出しながら書き残したのだと思います。

ラストがふわっとした感じで終わっているのは、正妻がいなくなってからの幸せいっぱいラブラブ生活を書いたら、読んだ人からねたまれてしまうので、自分が切なくつらい思いをしているところで、やめておいたのかも？
または、弟宮が亡くなるシーンを書きたくなかったからなのかもしれません。

驚きなのは、このお話、1003年4月～1004年1月のわずか十ヶ月たらずの出来事だってことです。

同じことを繰り返してはすれちがってばかりだったので、何年も中途半端な関係を続けているのかと思いきや、一年にも満たなかったんです！

数日お手紙がない・訪問がないからって、和泉ちゃん情緒不安定なんじゃ？
いやいや、当時は電話もメールもＳＮＳもない時代。
のんびりした時間だけはあるので、今よりも一日や一時間が、とてつもなく長く感じたのでしょう。

そう考えると、全然会えないしお手紙もそんなにやりとりしなかった『更級日記』のむすめパイセンは、和泉ちゃんからすると発狂してしまいそうなくらいのスローペース恋愛ですよね。

▼『更級日記』はコチラをご覧ください

さらに、その後の和泉ちゃん

■『和泉式部日記』後の和泉ちゃん年表
　1004　1月に正妻が出ていく
　1006　弟宮様との子（岩蔵の宮）を出産
　1007　弟宮様27歳で亡くなる　和泉30歳
　1008　『和泉式部日記』執筆　和泉31歳
　1009　和泉、中宮彰子しょうし（天皇の正妻）に仕える
　（紫式部先生と同僚になる）
　1013　藤原保晶と再婚　和泉36歳
　1025　最初の夫との娘、小式部内侍こしきぶのないしが亡くなる

最初の夫との娘の小式部内侍こしきぶのないしは、和泉ちゃんよりも先に20代で亡くなってしまうのですが、母譲りの和歌の才能があり、百人一首にも選ばれています。

百人一首に選ばれた小式部内侍こしきぶのないしの歌には面白いエピソードがあります。

とある歌の会に、まだ15歳の小式部ちゃんが参加したときのこと、若いのに歌が上手なので「母親の和泉式部が代作してるのでは？」と噂されていました。
そこで意地悪な藤原定頼さだより（この人の歌も百人一首に選ばれてます）が、

定頼さだより「丹後たんごの国にいるお母様に歌の代作は頼みましたか？　使いの者はお母様の手紙を持って、まだ戻ってないのですか？」

とからかって立ち去ろうとしたときに、彼を引き留めてさっと詠んだ歌がこちら。

大江山　生野の道の　遠ければ　まだふみも見ず　天の橋立
（母がいる丹後までは、大江山を越えて生野を通っていく道が遠いので、まだ天の橋立の地を踏んだこともなければ、母からの文（手紙）も見ていません）

『百人一首』（60）

小式部「だから、お母様に代作なんて頼んでないっての！」

これに返歌もできずに、定頼さだよりは退散しました。ダサッ！
15の女の子に、こんな意地悪なことするなんてかっこ悪い！

即興で歌を詠めちゃう小式部ちゃんは、やっぱり和泉ちゃんの才能を引き継いでますねー！
小式部ちゃんも恋多き女性だったのだとか。

ちなみに、意地悪をした藤原定頼さだよりの百人一首の歌はこちら。

朝ぼらけ　宇治の川霧かわぎり　たえだえに　あらはれわたる　瀬々の網代木あじろぎ
（だんだんと夜が明けるころ、宇治川の川面にかかる朝霧が薄らいでいって、その霧が切れた間に現れてきたのが川瀬に打ち込まれた網代木だよ）

『百人一首』（64）

……で？

申し訳ないんですけど、だから何って感じ。

小式部ちゃんをいじめたわりに、自分はそこまでいい歌は詠んでない気がしますけどー。
少なくとも、私の心にはさっぱり響きませんでしたわー。

藤原定頼さだよりファンの方はごめんなさい。
私は大和なでしこの味方なので。

そしてそして、小式部ちゃんが選ばれているのなら、当然、和泉ちゃんも百人一首に選ばれています。

あらざらむ　この世のほかの　思ひ出に　今一たびの　逢ふこともがな
（私はもうすぐこの世を去るでしょうから、思い出になるように、せめてもう一度だけでも、あなたにお逢いしたいのです）

『百人一首』（56）

複雑な歌の技巧なんてない、和泉ちゃんの感情がストレートに伝わる素直な歌。

娘の小式部ちゃんが亡くなったあとの和泉ちゃんの消息は一切不明。
いつどこでどのようにして亡くなったのかは分からないので、この歌が残っていることが不思議です。

「今一たびの　逢ふこともがな」
和泉ちゃんは誰に逢いたかったんでしょうか。

離婚した最初の夫？
たった一年だけ続いた兄宮様？
それとも、十人以上いた恋人たち？
やっぱり、最後の夫？

いやいや、弟宮様でしょう！
色々すれ違いもあったし、わざと試すようなことしたり、自分勝手だったりしたけど、でもお互い孤独だったからこそ分かり合えた、最愛の弟宮様にお逢いしたかったんじゃないかな？

極楽浄土では和泉ちゃんが弟宮様にお逢い出来ていますように。
あ、でも、兄宮様が先にいらっしゃるから取り合いになるかも？

兄宮「え？　なんで弟が和泉と？　私が亡くなってから一年で？　さすがに早くない？」
弟宮「兄宮様と私は同じ声だから同じようなものです！　私には和泉だけなんです！　息子もいるんです！」
最初の夫「ちょっと待ってください。私には和泉との娘がいますよ。なんたって百人一首にも選ばれてる才女なんですから」
その他恋人たち「我々だって和泉と相思相愛だった！」
最後の夫「いやいや、最終的に和泉が選んだのは私ですから」

和泉「………（やっぱり私は物思いが絶えない運命なのね）」

なんて、思ってるかもしれませんね！(笑)

あらあらかしこ(*ˊᗜˋ*)ﾉｼ

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