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📖#3 天皇に身も心もお仕えした乙女の打ち明け話『讃岐典侍日記』
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立派な僧侶が来て、帝のためにお経を読んで、仏様のご加護をお願いしていると、帝が意識を取り戻して、大臣様を呼んでおっしゃいました。
帝「私の代わりに、院に申し上げなさい。『もうこうなってしまっては、何をしても効果はありませんから、尊勝寺で護摩(火をつかう祈祷)と、私の冥福を祈る儀式を行ってください。それから、しなければいけないことは、今夜のうちにおこなってください。私は明日明後日まで生きられないと思いますから』と」
大臣「護摩など、大げさではございませんか」
帝「なんてことを言うのだ。私はこんな状態になっているというのに」
大臣様は着ている装束の袖を顔に押し当て、涙を我慢して退出されました。
意識が回復した帝は、部下の大臣を呼び寄せて、父である白河院に伝言を頼みます。
「しなければならないこと」というのは、天皇の位を別の者に譲る=譲位のことです。
明日明後日まで命がもつか分からないので、今夜のうちに譲位に必要なすべてのことを済ませてください。
そして、自分のために尊勝寺(父上である白河院が建てたお寺)で立派な仏教の儀式をしてください。
という、帝の最期のお願いを、こともあろうに、大臣は「仏教の儀式だなんて、大げさじゃないですか?」と申し上げました。
死に際の人、しかも、国のトップである帝に対して、こんなことを言ってしまえる大臣の神経はどうなってるんでしょうか。
このあとに訪れる武士の時代だったら、打ち首ですよ!
イラッときたから、長子ちゃんも大臣のこの発言を覚えていて、日記に書き残しているんでしょうねー。
私は寝ないで、帝のご様子をお見守りします。
帝はとても苦しそうで、私の体におみ足をかけています。
帝「天皇である私が、今日明日にも死のうとしているのに、誰も心配しないなんて、そんなことがあるだろうか。どう思う?」
とおたずねになるけれど、私は涙で息がつまってお返事もできません。
私が耐えがたいほどにつらい気持ちをおさえて、お見守りしているのがお分かりになったのか、帝はそれ以上おたずねになりませんでした。
帝は少し離れたところでお仕えしている乳母を見て、
帝「お前は怠けていて働いていないな。私が今日明日にも死のうとしているのが分からないのか」
乳母「どうして怠けることができますでしょうか。私にできることでしたら、なんでもします」
帝「何を言っているんだ。今、怠けていたじゃないか。ちゃんと見ててやるからな」
長子ちゃんの体の上に足を投げ出して苦しそうな帝。
「こんなに苦しい状態なのに誰も心配してくれないなんて、ひどくない!?」
と、長子ちゃんに愚痴ります。
長子ちゃんは悲しすぎて答えられません。
こんな質問、なんて返したらいいか困りますよね。
お返事しない長子ちゃんは賢いです。
長子ちゃんが答えないので、帝は乳母に当たり散らします。
ちなみに、乳母とは、育ての母のような存在で、昔の高貴な女性は自分ではなく、別の女性に授乳から子育てまでお任せしていました。
乳母は「職務怠慢ではありません。私に出来ることがあればやりますよ(帝がこうなってしまっては、お世話出来ることがないんですから、何もしないのは当然ですわ)」と堂々としています。
死に際の人、しかも、国のトップである帝に対して、こんなことを言ってしまえる乳母の神経はどうなってるんでしょうか。
あなたが母乳をあげてお世話したんでしょうが!
このあとに訪れる武士の時代だったら、市中引き回しですよ!
帝はとても苦しそうでいらっしゃるので、私は少しの間もお傍を離れずに、まるで幼い子どもの乳母のように添い寝して差し上げながら泣きました。
(ああ、なんてことなの。帝がお亡くなりになってしまうなんて、とんでもないことだわ。帝は優しくて、こんなにもお仕えしやすい素晴らしい方ですのに……)
と、色々と思いながら、一睡もせずにご様子をお見守りしました。
私は帝の眠っていらっしゃるお顔を、じっと見つめながら泣くことしか出来ませんでした。
苦しみ続ける帝に自分がしてあげられるのは添い寝だけ。
長子ちゃんは寝ないでお傍にいてあげます。
それがお仕事とはいえ、健気ですよね。
現代ではお医者さんに処方された薬を飲んだり、手術したりしますが、平安時代末期に今のような高度な医療技術はありません。
この時代の重病人への看護は、ただ寄り添って体をさすってあげる文字通りの「手当」でした。
メンタルは落ち着くかもしれませんが、手でさすさすしたところで、病気はよくなるはずもなく……。
続きます。
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