スクリーンタイムに驚愕する
図書館の棚を何気なく見ていた時に目に入って手にする本は、
不思議なことにその時の自分にぴったりな選書になることが多い。
脳内妖精が勝手に本棚を検索してくれているのだろうか。
2019年に出版され今は図書館の開架に普通にポンと収納されている、かの有名な『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン著・久山葉子訳・新潮新書)を、すっかり読み損ねているうちに時は2023年の10月になってしまった。
10月と聞くとそろそろ年末に向かっていくなと感じられる時期なのだが、
今年はどうにも暑くて、今が10月であるということを忘れてしまう。
10月というのは、長袖で、そろそろ薄手のショールをマフラー代わりにしたくて、
手袋はまだだけれど靴下くらいは履こうかなという頃のはずで、
なんでこんなに暑いんだよ、まだ昼間は半袖で間に合うよと思いながら
それでもカレンダーは確実に10月2週目ですけど何かと言っているので
仕方なく受け入れている。
さて『スマホ脳』(新潮社)
私のように実は読んだことがなかったという方も、タイトルだけはどこかで見たり聞いたりしたことがあるのではなかろうか。
ビジネス系や社会的な本は時期を逃すと情報がどんどん古くなって、時代のずれを感じたりするものなのだが、読んでみて驚いたことに、この本は未だ全く古くなっていない。
もちろん、具体例として扱われるガジェット類などには書かれた時代を感じなくもないのだが、そこを鑑みたとしても、今からでも十分読むに値する内容だった。
著者のアンデシュ・ハンセンも、スマホやデジタル機器の全てが悪いと言っているわけではない。ただ、それらの道具を介して世界中からアクセスできる場には、あまりにも巧妙に作られた消費や経済の仕掛けが、あちらこちらにばら撒かれていて、いつの間にか自分の望んでいない方向に巻き込まれているかもしれないから気をつけてね、という話だ。
もちろん、一般的にスマホ中毒と言われるような状況だったとしても、それが自ら望んでいる姿であるならば、その人にとっては問題ないかもしれない。
肝心なのは、「知らないうちに」「いつの間にか」そこに巻き込まれているかもしれないことが問題だということなのだ。
今年に入ってスマホの契約を見直し、ギリギリまで通信費を抑えるために使えるギガ数は少ないものの料金も安く済ませられる契約に変更した私は、以来、外出にスマホを持ち歩く習慣が減った。ちょっと近所のスーパーまでくらいの外出なら、スマホは家に置いたままにすることが多い。もちろん、それでは本当に緊急連絡が必要な事態になったら困るので、思い出した時にはなるべくカバンに入れて外出するようにはしているのだが、一度スマホを身から離したことに慣れてしまうと、もう持ち歩くことが億劫になってしまったのだ。
最初の頃は、スマホが外で使いづらいことに違和感を覚えていたし、不安にもなっていた。ちょっとしたことをすぐに調べられない。調べるためにはわざわざ通信費をかけてまで接続するのかと考える。そしてWi-Fiに繋いだ時に調べようと後回しにする。その調べ物はそれほど重要ではなかったのだろう、結局は調べないままで終わることが多い。
そんな生活に慣れていくうちに、自然と家でのスマホ使用時間も減ったように感じていた。
さぞかし減っただろうと思い、スクリーンタイムを確認してみる。
以前がどうだったか、調べたことがないので比較ができないのだが、先週の私のスマホスクリーンタイムは合計で31時間だった。1日の24時間を余裕で超えている。
ここ最近の1日のスクリーンタイムは大体平均3時間。多い日で5時間ほどだった。
この時間を見て、多いと思うか、少ないと思うかは人それぞれで、私は正直に言えば「多すぎる」と感じた。
1週間のうち1日と7時間も無駄にしてしまったのかと。
正確には必要な情報収集や、必要は連絡のための時間もスクリーンタイムに含まれているため、全てが無駄だったとは言えない。しかし、それにしても31時間は人生の時間配分を間違えているとしか思えなかった。
一番大きな問題を感じたのは、私自身がそれほどスマホを使っていないと思っていたことだ。『スマホ脳』を読めば納得できる話なのだが、いかにこれらの機器が世界的天才たちによって素晴らしく巧妙に素晴らしく高性能に発明されてしまったのかを改めて思い知った。
そこで試しに昨夜は日没後はスマホを触らないことにチャレンジしてみた。
スマホを手放すことにそこまでの抵抗が既になくなっている私は、この本に出てくるような禁断症状や不安感は現れなかったし、何より夕食後の奇妙な時間に小腹が減って、お茶を飲んで誤魔化すということをせずに済んでいた。
スマホを特に夜に触らないことによって、本当に睡眠と食事のサイクルが正常化されるのかもしれない。
脳は覚えなくてもいいことは覚えない、という話も妙に納得させられた。
台本を暗記しなくてはいけない時、絶対に暗記しないとどうにもならないと思うと、長いものでも四苦八苦しながらも結局はどうにか暗記できるのだが、手元に台本を持っていていい状況だと思うと、短いものでもどうしたって暗記できない。これが本当に不思議だと思っていた。全ては脳の仕組みのせいだったのだ。
この他にも「なんだ、そういう脳の仕組みだったのか」と納得する話がたくさんあり、そして「今からでも遅くないスマホ時間の見直し」というのを考えさせてくれた良い本だった。
無意識に時間を浪費して良いほど、人生長くはないのである。
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