『古本食堂』
この本を読んでいると、昔の素晴らしい本がまだまだたくさんあるだろうなと想像が膨らみ、新刊を追いかけるだけではない読書を味わいたくなる。
『古本食堂』
原田ひ香さんの小説なのだが、最近続編が出ているらしい。私はまだそちらは読んでいないのだが、シリーズ1冊目のこの本は、とても穏やかな空気感に包まれた、静かな読書を楽しめる物語だった。
舞台となるのは神保町の古書店「鷹島古書店」。店主が亡くなったところから話は始まり、その後の鷹島古書店の様子が描かれていく。
相続によって店に立つことになった妹の珊瑚さん。店主の生前から店に通っていた店主の姪の美希喜さん。そして古書店が入るビルの会社の人たちやその周りの人々。
物語に時々登場する古書のタイトルはどれも興味をそそられる。
本好きの登場人物が活躍する物語では、大抵その登場人物たちが熱く語るお気に入りの本というのがある。思い出の本からのエピソードがあったり、この本のこの部分特に気に入っているという話があったり。
私はものすごい読書家なのかと言われればそういうわけでもないように思うし、しかしお気に入りの本が全くないわけでもなく、それなりにこれまでに読んだ中で好きだった本のストック、自分の心の中にある本棚というものも無いわけでもない。
けれどこの物語を読んでいて、改めて、自分の大切な本、というリストを作っていきたくなった。物を多く持たないように心がけてはいるが、人生で何冊か厳選に厳選を重ねればそれくらいは特別な本を手元に置いて棚に並べてもいいのでは無いだろうかという気持ちになっている。自分を表現できるような本棚を作れたら良いだろうなと夢想する。
しかしそれにしても、あらゆる方面にコロナというのは影響を残していったのだなと痛感する。様々な本や芸術、その他小さな部分にまで、コロナとその後の世界を全世界共通として経験してしまった影響が感じられることがある。この『古本食堂』もその香りがする物だった。
これは登場人物たちが仮にそんな世界が来たらどうなるかという仮定の話の中で出てくる美希喜のセリフなのだが、現にそういうものが社会にはあるようにも思う。それは望ましい変化でもあり、しかし一度変化したものを元に戻そうにも困難であるような変化でもあるのだが、変わることへの抵抗はどんな時代でも大きいもので、なかなか難しい。
実際のコロナ禍では最初の頃は図書館も閉鎖されていたものの、比較的早い段階で復活したように思うのだが、自宅隔離で図書館も閉鎖という状況は、なかなか辛いものがあったように記憶している。東日本大震災後の計画停電と自粛が叫ばれる期間は、図書館は開いており、そして書店も営業をしていた。書店は普段見たことがないような混雑ぶりで、どこの書店もレジの前に長蛇の列ができていたのを覚えている。
さて神保町も久しく行っていないが、素敵な写真集の店「スーパーラボ」もあることだし、暑くならないうちにたまには神保町に寄るのもいいなと読み終えて思っていた。
注:「スーパーラボ」は古書店ではありません。こだわりの新刊写真集を出し続けている素敵な写真集の会社です。店舗では写真展と写真集出版記念のサイン会やトークイベントなども定期的に開催しています。