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正月二日のみかん投げ

漁師さんたちが漁の安全と豊漁を願って行われる、正月二日のみかん投げ。
浜に大漁旗を掲げてずらりと並んだ漁船では、みかん投げの前に一升瓶で船に御神酒をお供えして、船とその周り、海などにお酒を撒く。
午前10時から投げ始められる「みかん投げ」行事は、漁師さんたちの船の上から陸上に向かってみかんや駄菓子などが投げられるのだが、逗子マリーナ側の船からスタートし、最初の船から投げ終わる頃に隣の船、隣の船と順番に投げ始めるため、黒い人だかりもずらずらと順番に浜に沿ってみかんを追うように進んでくる。
ビニール袋を持っている人はたくさんいるし、大きな網や背負籠を持って1人で大量にみかんを獲得する人も多い。子供達は主に船の上から投げる方の役割に回っているので、みかんや駄菓子に群がっているのは正月二日から必死に走る大人たち。中には持ちきれないくらいのみかんを拾ってもなお、目が吊り上がって真剣に手を伸ばしている大人もちらほらいて、なんだか凄まじい勢いだ。

我が家は夫が2個、みかんを獲得してくれて、たくさん取った近所のお友達が2個分けてくれた。私と老犬ウイリアムは、人ごみを避けてちょっと遠く、ぶつからない場所で避難しながら見学していた。

「なんとか投げ」という習慣は、私は仕事を通して初めて知ったのだが、地域によって投げるタイミングや投げるものの種類が全く違って面白い。私が経験させていただいた「なんとか投げ」で最も多かったのは「餅投げ」。面白いものは「わかめ投げ」だった。餅もわかめも、プラスチック袋の個包装がされているものを投げる。「餅投げ」は投げではなく「餅まき」と呼んでいる地域がほとんどだったように思う。みかんは投げるもの、もちは撒くもの、なのだろうか。そういえば投げてはいるが、2月の節分も「豆投げ」ではなく「豆まき」だ。

我が家はみかん投げも楽しんだけれど、そのタイミングで浜まで降りれば地域の人たちに一気に新年のご挨拶ができるというので朝から行ってみたのだが、今年はとてもたくさんの人たちが参加していた。夏のお祭りよりも大混雑していたのではないだろうか。ここに長く住む人たちの話によればコロナ前はもっと混んでいたから来年はさらに人が増えるんじゃないかしら、との話。なるほど、おそらくこの日の午前から昼というのは全国のお茶の間はテレビ中継に釘付けなのだろうけれど、ここは箱根駅伝もそっちのけでみかんに夢中。そのあとは地元の人たちが缶ビール片手に商店の前や浜で盛り上がっているという、全国的にみたらおそらくレア地域なのである。

私たちもいつもお世話になっている商店で食料品を買ったりしていたら、久しぶりにお会いできた近所の人たちもいて、和やかな雰囲気を味わうことができた。昨日の地元の神社の初詣と今日のみかん投げを合わせて、新年のご挨拶を無事に済ませられたので、賑やかなお正月行事も今日で一旦一息ついたところだろうか。
お正月飾りを外すタイミング、鏡開き、お正月飾りを浜で燃やす日、神社の冬の例祭など今月は地域の行事が続く。忘れないように新しいカレンダーに書き込んだ。

老犬ウイリアムはといえば、もちろん初詣もみかん投げも参加しに行ったのだけれど、昔は好きだったみかんを、もう体が欲していないらしく、帰宅後は茹でたてのササミを堪能し、抱っこバックに入っていただけだったのに人混み疲れしたようで、そのあとはぐっすり眠っていた。

奇跡的に2025年にも生きているウイリアムは、少しずつ、体内にあるエナジーのような何かが減ってきているのを日に日に感じる。穏やかに、何かが消えていく感覚は、理解していても見ていると寂しくなってしまう。
最期まで穏やかに過ごせますようにと、毎日祈っている。


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MariKusu
温かいサポートに感謝いたします。身近な人に「一般的な考えではない」と言われても自分の心を信じられるようになりたくて書き続けている気がします。文章がお互いの前進する勇気になれば嬉しいです。