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ことばたちの水あそび

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2021年4月の記事一覧

電車賃

蚊が言った。 わたしは電車の中でほんのすこしのスペースしか占めていないのに、300円も払っ…

mariko fukura
3年前
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5時間

明け方、カーテンと窓のすき間にはちみつ色がやってきた。溶けそうなまるい光だった。 お邪魔…

mariko fukura
3年前
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脱皮

ある朝アパートの通路に殻があり、203号室の彼が脱皮したことがわかった。もうここへは戻って…

mariko fukura
3年前
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空いてる場所

空いてる場所 ここどうぞ わたしがいなくなったら ここもどうぞ ただ、いま、いるだけなので…

mariko fukura
3年前
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布巾

卵の殻を割ってしまったら そこにひとつの世界があって あわてて割れ目を合わせて閉じた けれ…

mariko fukura
3年前
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砂と砂浜

砂はいやだった なにか思うと べつの わりと遠くにいる砂も それを思っている なにか悲しい…

mariko fukura
3年前
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土地

しばらくのあいだ 重たかったなあ 百年ほどか さびしくはないですか いまはね お天道様をたのしむよ 猫もおしっこしていくし みずたまりもやって来ては去っていくし 子どもたちが葉っぱをひっこぬいて走ってゆく 一日になんべんも立ちどまる散歩の人もいる そういうのを見てることにするよ わたしのうえに建っていたあいつも いまじゃあちこち飛び回ってることだろう 雨漏りなんて気にしないでさ

みずたまり

あの日 帰り道に見たみずたまりが いまもわたしのなかにある 空を映して 干上がらず わたしを…

mariko fukura
3年前

空気が抜ける

わたしの空気が抜けたとき 空いた穴からぴゅーぴゅーと 空気たちは自由になって わたしはす…

mariko fukura
3年前
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めくってゆくと、 あたたかい頁があった ここにあなたがいたんだな

mariko fukura
3年前

なにいろの

ソーダ色のねこは ぷしゅぷしゅ言ってる からだに泡を浮かび上がらせ つち色の人は しずかに…

mariko fukura
3年前

えっへんえらい人

えっへん えらい人 なんとか市のなんとか地区のなんとか様 えっへん えっへん えらい人 …

mariko fukura
3年前
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このあたり

いくつもの名を持つ この場ではこの名 あの場ではあの名 出したり隠したり変えたり呼ばれたり…

mariko fukura
3年前
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訪問

鍋のなかに風が吹き抜け フリージアの香り 鏡のなかに雲が訪れ 天気雨 指先に いつかのわたしが座ってる 一緒にいきましょう 靴のなかに朝 まぶしい 透明