じいちゃんを通報した日:2021年9月11日(警察相談の日)
じいちゃんは75歳を過ぎても白髪一つないことが自慢だった。
「昆布を食べているからだ!」と言って、毎日ばあちゃんの作った昆布の煮物を美味しそうに食べたり、毎日2キロ歩いて運動したりと髪の毛と健康には人一倍気を遣っていた。
もともと銀行員で細かい性格のじいちゃんは礼儀作法や成績に厳しかった。男兄弟3人の末っ子だった父は、母であるばあちゃんには人一倍可愛がられていたけれど、じいちゃんからは食卓でも毎日説教だったそうだ。
父と母が共働きだったので、子どもの頃は妹と一緒にじいちゃんの家にいることが多かった。ばあちゃんからは縫い物を教わったり、一緒に絵を書いたりと遊んでもらった思い出が沢山ある。
でも、じいちゃんとの遊びの思い出はほとんどない。
じいちゃんは毎朝机に座って、朝日新聞を隅から隅まで読み、昼を過ぎると縁側に置いてある籐椅子で昼寝、夕方は相撲中継、夜7時になるとNHKニュース、野球がある日はテレビで野球中継の観戦が毎日のルーチンだった。
小学校に入学する前、「110」に電話して、じいちゃんを通報した。
「110」に電話して、
「助けて!」とだけ言い、私は電話を切り、その後すぐにうちにパトカーが来た。
もちろん、じいちゃんは犯罪者ではない。
その日は、ばあちゃんが妹と一緒に出掛けていて、私はじいちゃんと2人きりだった。1人で絵本を読んだり、テレビを観たり過ごしていたけれど、じいちゃんも留守を頼まれているものだから私から目を離さなかった。
そんなじいちゃんとの時間は、子どもの私にとっては窮屈でしかなく、じいちゃんの目を盗んで「110」番に電話をして助けを求めたのだった。
もちろん、じいちゃんは何もしていない。
ただ、ばあちゃんから慣れない留守番を頼まれて、孫の私が危ないことをしないように見張っていただけだった。
とんだ冤罪だった。
今思えば、この日は田舎の警察署は大騒ぎだったのではないか?と思う。
子どもの声で「助けて!」という「110」通報は大事件でもおかしくない。
到着して、子どものいたずらだということが分かった警官のお兄さんは「何もなくてよかったです」と言って帰って行った。
9月11日は警察相談の日。警察への電話相談番号「#9110」の数字にあわせて警察庁が1999年に制定した日だ。「#9110」に電話すると警視庁と各道府県警察本部に設置されている総合相談室につながり、一年中、各種事件に関する困りごとなどの相談を受け付けているそうだ。
警察への電話と言えば「110」番だとずっと思っていた。
「110」番と「#9110」番の違いを調べると、「110」番は緊急通報用で、「#9110」は緊急の対応が必要でない相談事案を受け付けている。
「#9110」番の主な相談内容は、「刑事事件」、「犯罪などによる被害防止」、「家庭・職場・近隣関係」、「迷惑行為」、「サイバー関係」の5種類が全体の5割だそうだ。
現代の社会生活の中では、いつどこで思わぬトラブルに巻き込まれるか分からない。実際に面と向かって人と接することがなくても、インターネット上での繋がりから発展してしまうトラブルもある。
人同士のことだから、うちのじいちゃんと私の場合のように、冤罪や勘違いももちろんあるだろう。
じいちゃんも実際は「何もないように、安全に留守番を完遂する」という思いだったし、私も私でじいちゃんとどう接していいか分からなかっただけだ。
厳しいじいちゃんは少し近寄りがたかったけど、家に餌をもらいに来る猫の親子の世話をするじいちゃんを見るのは好きだったし、じいちゃんにしか懐いていなかった猫もいた。
ただ、人同士がゆえに難しいこともある。
そこにはやはり「法」や「ルール」での強制力も必要で、「#9110」での相談があることは心強い。
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