さくらももこ著『やきそばうえだ』を読むと自然に泣けてくる
たまに新聞を念入りに読むととても良いことがあります。8月29日の朝は多分余裕があったのだと思います。日経新聞の真ん中のページあたりに紹介されていたのが『やきそばうえだ』でした。その時はふぅん、と思った程度でした。
数日後、本屋さんでみるともなく見ていて背表紙が目に飛び込んできました。まるで竹やぶでかぐや姫の竹だけが光っているかのように。あ、これが『やきそばうえだ』! これも運命と思ってお買い上げ。新聞の記事がなかったら一生巡り合わなかった本かもしれません。
早速読むとまるこちゃんの声優さんの声が聞こえてきます。大きくなったまる子ちゃんが話してるみたい。やっぱりももこさんがまる子ちゃんその人なんだと再確認。なんでも男友達の一人のうえださんのためにみんなでバリに焼きそばのお店を開く遊びについての書いてあるらしい。
寝る前に読みはじめて灯りが暗かったせいで、「パリ」に焼きそば店を開くと勘違い。日本食ブームとはいえ、なかなか奇抜な発想だと思いつつ寝落ちしてしまいました。朝起きて続きを読むと「バリ」でした。バリなら十分考えられます。その昔一度行ったとても田園風景がきれいな島です。今も人気があり物価も安いのでまた行きたいと思っているバリ。
うえださんはあんまり冴えないサラリーマンで、飲み仲間が彼のために出資してバリに焼きそば店を開くノンフィクションなのですが、当の本人うえださんは全く望んでいないところがミソです。はずみで言い出した面白いことをただ面白いというだけで面白がりながら実行してしまう面々です。ちょっと乱暴かもしれません。
結果的に、今はもう無くなっていますがとても良いオーナーが物件を提供してくれて開業に漕ぎ着けてしまうのです。本業か副業かはわからないけれど。なんでもバリでもちびまるこちゃんは放映されていてとても人気があるそう。国際的漫画家さくらももこさんなのです。その時バリで描いた看板は今もあるそうです。
ももこさんのことですからブラックユーモアの連発。そこまで言っちゃう?というギリギリのラインを超えそうな許せそうな、とにかく普通の人は封じ込めておくであろうところを臆面もなく言い放つのがさくらももこさん。読み方によってはうえださんたちがいじめられているようにも取れてしまいます。そんな毒舌すらもう聞けないのは寂しいことです。
特にバリの鳥インフルエンザのことを心配する章『停滞』を読むと、もともと体がそんなに強くないけれどなんとしてもタミフルを手に入れてどうにかしてインフルエンザにかからず生き延びようとする思いが綴られていてやりきれない気持ちになってしまいます。類まれなる才能を開花させて成功を収めたももこさんは、もっともっと生きたかったのだ…奇しくも私と同い年。53年間とは今の医療では短い命と言っていいでしょう。彼女がどんなに欲しくてもかなわなかった命を与えられていることのありがたさを改めて思い返して1日1日を大切にしようと思いました。
ちょうど昨年の秋、バス旅行で三保の松原あたりに行った時、ちびまる子ちゃんランドに立ち寄りました。小さいスペースながらもももこさんワールドに浸れるかわいらしい美術館のようなところです。今も愛され続けていました。それからももこさん一行が滞在して絶賛されていたバリのアマンダリ、いつかは行ってみたい場所の一つになりました。そしてももこさん作の看板も見てこようと思います。
限りある命を大切に。