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元コンサル的フリーランス1年目の振り返り

「#2022年のわたしと仕事」というお題を見つけたので、せっかくですから2022年フリーランス1年目の振り返りをしたいと思います。
私は2022年からフリーのメディカル・出版翻訳者として活動していますが、新卒で最初に入社した会社は某コンサルティングファームで、経営コンサルタントとして3年ほど働いていました。というわけで、本記事は視点が翻訳者というよりは元コンサル的になってしまうこと、そして少しでも閲覧数を増やしたいという下心もあり、記事タイトルは「元コンサル的フリーランス1年目の振り返り」にしています。ただし、事例は私の翻訳事業ですのであしからず。

ビジョンは小さな事業でも作るべし

経営ビジョンは「なんだかよくわからないけどスローガン的なもの」程度に思われることが多い気がします。第三者から見た場合に、特にそうなりがちです。
経営ビジョンは、本当は第三者が見てもわかりやすいのが理想ですが、私自身も、社内の人間が同じ方向に進めるように設定されていれば最低限OKかなと思っていました。。。コンサル時代何を見ていたんだ、私。
そんなわけで、私は個人事業だし小規模でスタートするから経営ビジョンは要らんだろ、と甘い見積もりでフリーランス1年目をスタートしてしまいました。
ビジョンがないせいで、私がどうなったかと言いますと。。。

  • 「数打てば当たるだろう」の非効率な行き当たりばったりの営業
    私は大したコネや人脈がないので、仕事をもらうためにはまず営業しなければいけません。ひとまず製薬業界で働いていた時に知った翻訳会社に片っ端からアプローチしましたが、大して仕事を受注できなかったので、次の営業候補先を探しました。
    メディカル翻訳を営んでいる翻訳会社は、私が調べられるだけでも数十社ありました。製薬企業も含めれば、営業候補先は数百社に及びます。時間は有限です。数百社片っ端から営業をかけるわけにはいきません。さて、どうするか。

  • 営業先の選定に手間取る
    そう、選定(優先順位づけ)しなければなりません。でも、選定するにもなにがしか基準がないとできません。ビジョンがあれば「私がやりたいのはこういう案件だから、こういう会社に優先的に営業する」と決めやすいのですが、ないと「う~ん・・・取引額が多いところにしようかな?」と頭を抱え、迷走してしまいます。

  • 企画書の作成が進まない
    これはメディカル翻訳にはあてはまらず、出版翻訳の話になります。出版翻訳は、人気翻訳者になれば向こうから仕事の依頼が来ますが、実績もコネもない駆け出しの翻訳者は企画書を作って出版社に持ち込まなければなりません。ただし、持ち込んで実際に出版までつながる確率は数パーセント。たくさん企画を作って、たくさん持ち込まないといけません。
    それは前々からわかっていたので、私も「こんな本を翻訳したいな」という候補作は複数あたためている状態で開業しましたが、ビジョンがないのでまずどれから企画書を作成するかで悩んでしまいました。通りやすそうな企画から始めるのもいいのですが、フリーランスのメリットでもある「仕事を選ぶ自由」を活かすのであれば、自分がやりたいことを明確にビジョンとして設定しておき、それを基準に企画書を作る優先順位を決めるべきかと思います。

以上を踏まえて、私はメディカル翻訳と出版翻訳それぞれで次のビジョンを設定しました。

メディカル翻訳

  • 製薬業界のさらなる発展に翻訳で貢献する

  • 翻訳をとおして、さまざまな病に苦しむ患者を幸せにする

出版翻訳

  • 異文化に親しみ、世界平和に貢献できるような本を後世に残す

  • 単純に楽しく読める翻訳作品で、読者を幸せにする

  • 社会問題を提起し、解決に貢献するような翻訳書の出版を企画する

どちらの領域も、一言で言ってしまえば「翻訳で社会に貢献したい」ということです。その一言だけだと曖昧なので、具体的に、そして欲張ってたくさん設定してしまいました。ビジョンと言うよりミッションになってしまっていますし、教科書的にはあまりよくない例かもしれないですが、これがあれば営業先や案件の選択に迷うことが減るかなと思い、自分では満足しています。これを開業前に設定しておけばよかったです。。。

事業計画は安易にテンプレを使わず、事業にあわせたものを自分でデザインすべし

経営ビジョンは用意していなかった私ですが、事業計画はさすがに開業前にテンプレートをネットで検索し、作ってました。ただし、使ったテンプレートが資金調達が必要な店舗経営や製造業向けのものでした。事業計画書の構成としては、起業の目的や動機、起業者の経歴、取引予定先、必要な資金予定と調達方法、売上見込み等を書く形でした。
翻訳事業は、パソコンさえあれば基本的に資金ゼロです(領域や取引先によっては辞書や翻訳ツールなどに金がかかりますが)。資金調達はあまり心配しなくても大丈夫な事業です。一方で、売上見込みを立てるのは店舗経営や製造業に比べると非常に難しいです。どれぐらい翻訳案件が入ってくるかは営業次第です。特に出版翻訳は、翻訳作業開始から収入の現金化まで数年かかり、しかもそのタイミングは契約・交渉次第で、しかも平均値など取れないぐらい案件ごとにばらばらです。売上の目標(というか希望値)は立てられますが、現実的な見込みの数字は立てられません。早々に、「この事業計画使い物にならないな」と気づきました。

方向転換し、期中にKPI目標値を立てました。KPIとはKey Performance Indexの略で、事業や個人の成績評価のために用いる指標です。
たとえば、私はこんなKPI目標値を設定しました。

  1. 稼働率(実稼働時間÷営業時間)80%

  2. 1か月あたりのnote投稿数2本

  3. 年間企画書作成数6本

どれも、顧客や案件次第で変わってしまう売上見込みとは違い、ある程度自分でコントロールできるものです。補足すると、
1.の実稼働時間は、勉強時間や営業活動にかけた時間も含みます。私は土日祝日も営業時間に含めたので、健康管理のために稼働率低めに設定しました。休日もしっかりとった営業時間を設定した場合、90%以上が目安になるかと思います。実稼働時間は、時間簿(タスクごとに作業開始時間と終了時間を記録する)をつけて管理しました。自分の仕事のスピードも把握でき、仕事の受注し過ぎを防げるのでお勧めです。私はマイペースな性格のため、自分を焚きつけるために新卒のころから時間簿をつけ、作業スピードを速めるように工夫してきました。
2.は、出版翻訳の勉強(文章力と翻訳力の向上)と営業活動の目標値として設定しました。
3.は出版翻訳の企画書数です。コンテストの参加も含めました。
このKPIの設定を開業前に作っておけばよかった。。。期中で作ったので、今年はぎりぎり達成できなさそうです。

勉強(特に会計や業界研究)は「これぐらいでいいか」で満足してはだめ

生きている限り、一生勉強が必要なのは常識かとは思いますが。あらためてその必要性を感じたフリーランス1年目でした。
もともとコンサル時代に簿記2級は取っていましたし、翻訳者を目指すようになってから翻訳業界誌を読んできたので、会計や業界研究はそれなりに勉強できていたつもりでした。あまかった。
コンサル時代の仕事や簿記受験で学んだ内容は、製造業や小売業の会計業務が中心でした。サービス業、しかも個人事業主の帳簿付けはちょっと特殊です。企業では使わない個人事業主特有の勘定科目も多いですし、私が簿記を習った頃にはなかったインボイス制度が来年2023年から施行されるので、それの勉強も必要でした。途中で気づいて慌てて勉強したので、今年の帳簿は我ながらちょっと汚い。。。悔しい。。。年明けの確定申告大変になるだろうな。。。
業界研究も、業界誌を読んで満足してはいけませんでした。インターネットを広く検索するのはもちろんのこと、四季報や経済研究所等が出しているレポート、出版翻訳であれば書店でのリサーチ、それから業界内の交流会やイベントに参加してコネづくりをすべきでした。この基礎がなかったので、ただでさえ苦手意識のある営業活動に苦戦しました。
もちろん、翻訳の勉強も並行して続けてきましたが、翻訳以外のこうした勉強もないがしろにせず、力を入れないといけなかったな、と反省した1年でした。

おわりに

反省ばかりになってしまったので、最後によかった点も書いて振り返りを締めたいと思います。

  • ビジョンや事業計画を柔軟に変更・設定できた

  • 翻訳事業で収益を得る難しさを事前に理解し、製薬業界勤務時代の人脈から紹介されたアルバイト等も積極的に引き受けたため、経済的な不安なく1年を過ごせた

  • 会社員時代は体調が崩れることが多かったが、フリーランスになってから健康状態が明らかに改善した

フリーランス1年目、予測不能なことばかりなのは当然だと思います。都度、柔軟に対応できるかどうかが大事だと思います。とりあえず今年1年、自分はうまく乗り切れたのではないかと自画自賛です。
そしてフリーランス1年目で黒字化は、ケースバイケースですが全体的に難しいのではないかと思います。黒字になるまでは、アルバイトで生計を立てるのも選択に入れるべきでしょう。私の場合は、アルバイトを積極的に探したわけでなく、会社員時代にお世話になっていた方々からお声がけいただいてたくさん仕事をいただけました。会社員生活はしんどいことも多かったですが、その努力が報われ、評価された結果だと自分では思っています。非常に幸せで、ありがたいことだなと感謝の気持ちでいっぱいになりました。
そして仕事は身体が資本。脱サラしたおかげで自分のペースで仕事をできるようになったのは、フリーランスのメリットとして大きいなと思いました。ただ、案件が毎日次から次へとくるような状態、それからアルバイトなしで低い翻訳料で生計を立てないといけない状態になってくると、体調管理はかなり難しくなりそうです。今後の課題です。

以上、私の翻訳事業を例に、フリーランス1年目の振り返りをしました。これから独立する方、私と同じように駆け出しのフリーランスで今後の方針に迷っている方々の参考になれば幸いです。


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柳田麻里
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