柳田麻里

メディカル・出版翻訳者として活動中。出版翻訳の活動報告や、著作権切れの英語作品の和訳を中心に投稿したいと思います。https://linktr.ee/mari.yanagita

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マガジン

  • Oヘンリー短編集:四百万

    Oヘンリーの短編集『四百万』(原題:The Four Million)の邦訳をお届けします。

  • よい翻訳ってなんだろう?

    よい翻訳ってなんだろう?という疑問について、私なりに考えたことがもやもやとたくさん溜まっているので、ここに吐き出そうと思います。翻訳の奥の深さを感じてもらえれば幸いです。 半分ぐらいは修論の焼き直し、半分ぐらいは実際に翻訳者として活動するようになってから思ったことがベースになる予定。

  • 翻訳FAQ

    翻訳Frequently Asked Questionsの題名どおり、翻訳についてよく聞かれる質問集です。更新頻度は私の気分次第です。。。

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自己紹介

経歴 海外転勤族で育ち、通算で11年半、海外3か国に在住。サバイバルのため、英検1級レベルの英語と独検3級レベル(英検で言うと4級相当。日常会話もままならない)のドイツ語を習得。いまでは絶滅危惧種となりつつある欧米帰りの帰国子女。 日系企業の海外支社で働く父の背中を見てきたので日本と海外をビジネスでつなぎたいと考え、東京都内の大学を卒業後、コンサルティングファームに入社。だが3年目を迎えるころには「私のやりたいことこれじゃなかったかも」感が募り、たまたま通い始めた翻訳学校で

    • 【新刊報告】ソーンダーズ先生の小説教室

      久しぶりに新刊を出すことができました! 原作者のソーンダーズは、シラキュース大学で創作講座を持つ作家です。本書はその授業をベースにしており、読者はひとりの生徒としてソーンダーズ先生と一緒に、ロシア語文学の巨匠たちの短編7編を読み解いていきます。いまの時代にロシア文学に触れる意義は大きいと思いますし、ロシア語が読めないアメリカ人作家の視点からロシア文学を考察するとこうなるのか、と興味深い1冊になっています。 作家志望者、ロシア文学好き、ロシア文学初心者、ソーンダーズファン、読

      • 【後編】春のアラカルテ

        <前編のあらすじ> ある日の午後。ニューヨークでフリーのタイピストとして働くサラは、メニュー表に突っ伏して泣いていた。なぜか。 サラは、隣のシューレンベルグ・ホーム・レストランのメニュー表を毎日タイプする代わりに、三食を部屋まで届けてもらっていた。サラの住むニューヨークの街は、まだ冬の名残を感じさせつつも、少しずつ春が近づいている、そんな様相だ。窓から煉瓦の壁を眺めながらサラは、桜や楡が木陰を作り、ラズベリーやナニワイバラの並ぶ小路の風景を思い出していた。  去年の夏、サラ

        • 【前編】春のアラカルテ

           三月のある日のことだった。  小説を書くとき、絶対に、絶対に、このような書き出しで始めてはならない。これよりもひどい書き出しなどないだろう。想像をかきたてられるものもなし、盛り上がりに欠けるうえ、無味乾燥な、風だけを描写するような単純なものになってしまう可能性が高い。だがこの場合は許される。と言うのも次の段落が、本来であれば語り手を就任させなければならないのに、前振りなしでは盛りすぎかつ唐突すぎて、なんとも読者に押しつけがましい文章になっているのだ。  サラはメニュー表

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        • Oヘンリー短編集:四百万
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        記事

          【第五回】延原の苦難

          さて、前回は「シャーロック・ホームズ」シリーズの翻訳者として知られる延原謙が、雑誌『新青年』の編集長に就任したところまでをご紹介しました。 が、このあとが苦難つづきなんです。 苦難その1:雑誌をたらいまわし 編集長としての実績を買われたのか、ただ人手不足だったのか、延原は次々といろんな探偵雑誌の編集長を任されます。 昭和3年(1928年)10月号~ 『新青年』 昭和4年(1929年)10月号~ 『朝日』 昭和6年(1931年)創刊号~ 『探偵小説』 この3誌とも、同

          【第五回】延原の苦難

          【第四回】シャーロック・ホームズの翻訳と言えばこの人

          『新青年』で翻訳者デビューした延原謙(1892年生まれ1977年没)。現役翻訳者として活躍されていたのは戦前から戦後にかけてでしたが、いまでも新潮文庫で延原謙の訳が採用されています。そのおかげで、「シャーロック・ホームズの邦訳と言えば延原謙」というイメージはいまだに強いのではないかと思います。 そんな延原が『新青年』に初めて訳文原稿を持ちこんだのは大正10年(1921)のことでした。この頃、延原は逓信省電気試験所(昔の通信省の研究所)の研究員でした。 そう、延原は理系なん

          【第四回】シャーロック・ホームズの翻訳と言えばこの人

          【第三回】「翻案」VS「翻訳」論争

          前回、青年誌『新青年』が「シャーロック・ホームズ」シリーズの邦訳史において重要、と前出ししました。 ミステリファンなら、『新青年』を知っている人も多いかもしれません。この雑誌は江戸川乱歩や横溝正史を発掘し、日本の探偵小説ブームを創出した雑誌なんです。 『新青年』が創刊されたのは大正9年(1920年)、第一次世界大戦後のことでした。探偵小説専門誌ではなく、戦後の「新しい青年」たちへ時事情報を提供する啓蒙的な雑誌という立ち位置で、海外の情報なんかも載せていました。 そこで、読者

          【第三回】「翻案」VS「翻訳」論争

          【第二回】昔の「シャーロック・ホームズ」の邦訳

          「よい翻訳とはなにか」というテーマで修士論文を書くにあたり、私は「シャーロック・ホームズ」シリーズの邦訳をケーススタディとして見ていこうと決めました。 なぜ「シャーロック・ホームズ」か? なぜビジネス文書をケーススタディにしなかったのか? 実際のビジネス文書を例にすると、原文・訳文を載せないといけないわけですが、ビジネス文書って基本的に機密文書なので許可をもらうのは現実的に無理…許可が下りたとしても、結論が「訳文が仕事で使えるかどうか」の一言で終わってしまって、つまんなさ

          【第二回】昔の「シャーロック・ホームズ」の邦訳

          【第一回】よい翻訳ってなんだろう?~はじめに

          私は、「「シャーロック・ホームズ」シリーズの邦訳における翻訳規範~延原謙の訳文を中心に~」という題で修士論文を書きました。この修士論文、非常に苦戦しました(遠い目)。その経験談を、大学院の電子マガジンで以前に取り上げていただきました。 なんとか、無事修士号は取れたので、この修士論文はこれで完成でいいのだとは思うのです。でも、修士課程修了から数年経ったいまだに、なんだかもやもやするのです。もやもやの正体を突き詰めて思ったのが、 「本当は、同じ研究者じゃなくて一般読者に向けて

          【第一回】よい翻訳ってなんだろう?~はじめに

          【おまけ】キプリング作「ボンベイの街に捧ぐ」

          私が先日訳したOヘンリー作A Cosmopolite in a Cafeで、キプリングの「To the City of Bombay」という詩が何度か引用されています。 とてもいい詩なのに、邦訳があまり流通していないようなので、おまけで私の訳を掲載します。詩のセンスが皆無な私の拙訳だけでは申し訳ないので、キプリングの原文のあとに参考という形で私の訳を載せます。 To the City of Bombay, by Rudyard KiplingThe Cities are f

          【おまけ】キプリング作「ボンベイの街に捧ぐ」

          【訳者感想】私の考えるコスモポリタン

          O Henry作"A Cosmopolite in a Cafe"を翻訳し、ドはまりしてしまいました。 本編よりも長い解説まで書いてしまいました。 でも、まだまだ語り足りないので、以下感想です。 解説にも少し書きましたが、100年以上前の作品とは思えないぐらい、本作はいま読んでも「ぷっ」と笑ってしまう話なんです。いまでも共感できるセリフがたくさんあります。 「出身はどちらですか?」と聞かれて、内心ため息をついたことのある人は今もたくさんいるはず! とはいえ、コグラン氏

          【訳者感想】私の考えるコスモポリタン

          【調査報告】自称コスモポリタンの話のネタ

          「とあるコスモポリタン」(原題:A Cosmopolite in a Cafe)の柳田訳、いかがでしたでしょうか? 本作のオチ自体は解説するまでもないぐらいわかりやすいし、100年以上前の作品とは思えないぐらい、いま読んでも笑っちゃいます(柳田は大爆笑しました。個人的にはツボにめちゃくちゃはまっています)。 でも、舞台となっているカフェの情景や、コスモポリタンぶるコグラン氏の話のネタは、現代日本人にはよくわからないものも多いです。話の筋には関係ない部分が多いうえに、本文よ

          【調査報告】自称コスモポリタンの話のネタ

          【後編】とあるコスモポリタン

          <前編のあらすじ> ある夜。主人公はニューヨークのカフェで、初めて会うE・ラシュモア・コグラン氏と相席することになった。彼は「真のコスモポリタン」と言える人物だった。コグラン氏が見て回った世界の話を聞いているとき、南部出身者らしき若い男も同席してきた。主人公が自分の推測があっているか確かめたくて出身地を尋ねようとしたら、コグラン氏はバンとテーブルをたたいた。 「失礼」と彼は言った。 「その質問を聞くのが大嫌いでしてね。出身がどこかなんて、意味があるのでしょうか?住所で人間を

          【後編】とあるコスモポリタン

          【前編】とあるコスモポリタン

           真夜中のカフェは混んでいた。なぜかこれまで客の目を逃れたために私が座れることになった小さなテーブル席には、空席の二脚の椅子が到来するパトロンらにゴマをするように腕をのばしていた。  そのうちの一脚に一人のコスモポリタンが座ったので、アダム亡き後に世界市民と呼べる人類は存在していないという持説を試すときが来たと、私は嬉しくなった。昨今コスモポリタンの名を聞くようになり、手荷物の多くに外国のタグが目につくようになったが、その持ち主を見ても、コスモポリタンではなく旅行者ばかりだ

          【前編】とあるコスモポリタン

          Q4:どうやったら英語が上達しますか?

          え、それ私が聞きたい笑 いやー、「これをやれば必ず上達します」なんていう必殺技があったら、あなたも私も苦労しないんじゃないですかね。と思いますが、これでは回答になっていないと思うので、私なりに自信を持って言えるポイントを3点、お伝えします。 自分に合った目標を設定する あなたはなぜ、英語を上達したいのでしょうか?  外国人との会議が多いから?  外国人の友達が欲しいから? 会議ピンポイントであれば、「英語の会議で発言できるようにする」が目標になるでしょう。カタカナ発音

          Q4:どうやったら英語が上達しますか?

          Q3:翻訳できるんだから、通訳もできるんでしょ?

          一言でいうと、答えは「私はできません」です。 そもそも翻訳と通訳を混同されている方が多いので説明しますと、翻訳は書かれたもの、通訳は発話(スピーチや会話)が対象になります。わざわざ翻訳と通訳を区別するのは、仕事内容と求められる能力が異なるからです。 翻訳と通訳の違い 翻訳は独学である程度勉強できてしまいますが、通訳は独学は厳しいです。特に同時通訳(あの聞きながら同時にしゃべるやつです)は、最低でも1年は訓練を受けないと無理、と通訳学校で聞きました。 私の場合は「帰国子

          Q3:翻訳できるんだから、通訳もできるんでしょ?