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【読書】シリーズ全編読み返したくなる~『炎の蜃気楼アンコール』(桑原水菜ほか)~

『炎の蜃気楼』は若い頃、結構夢中になって読んでいたシリーズです。本編完結20周年&昭和編開幕10周年記念ということで、小冊子等で発表された作品の「拾遺集」が発売されたと知り、迷いつつも思わず買ってしまいました。

↑kindle版(書籍版はありません)


発売を知ったきっかけは、水菜さんのブログです。


本書は、書籍版だったら、買わなかったと思います。今更コバルト文庫(しかも上記のような表紙の)を家の本棚に並べるのは、抵抗があるので(^-^; その点、kindle版はかさばらなくて良いです。そもそも、電子版しかありませんが。


とはいえ、2,200円という値段に第2の抵抗を感じましたが、期間限定のアマゾンポイント500ポイントが付くので、実質1,700円だと思い、購入に踏み切りました。本編の途中からは購入せず、すべて図書館で借りて済ませていたこともあり、罪滅ぼしのお布施ということで、


正直、途中までは1,700円で妥当だなぁと思っていましたが、最後まで読んで、2,200円の価値はあるなと納得しました。あくまで個人の感想ですが(^-^;


以下、印象に残ったところを挙げていきます。なお以下の感想は、ミラージュシリーズを読んだことがない方にとっては、意味不明かと思いますので、その点はご容赦ください。


ショートストーリーはどれも、本編には書かれない裏側の話という感じで、良かったです。同人誌的な自己パロディ作品と感じて、好かない人もいるかもしれませんが。

邂逅編を扱った「ある正月の風景」は、子どもの六郎太になった景虎が「大人」の夜叉衆たちに面倒を見てもらったり、可愛がられたりする様が描かれていて、ほっこりしました。

「古寺逍遥」は、以下の記述が印象的です。

石段をあがっていくと、南円堂には巡礼の老夫婦が手を合わせていた。杖の底がだいぶ減ってめくれあがっているところを見ると、だいぶ長い旅路を徒歩で紡いできた巡礼者なのだろう。

p.53

こういう細かい描写をさり気なく盛り込むところが、水菜さんのすごいところ。ミラージュシリーズが「コバルト文庫」であることをもったいなく感じるのは、こういう時です。大人向けに「集英社文庫」に入れれば、新たな読者を得られるでしょうに。

昔以上に人はせっかちになった。電化製品に囲まれて人間がなすべきことは減ったはずなのに、逆にやれることが増え、やるべきものも増えたせいか、ちっとも楽になったとは思えない。時間の流ればかりが速くなる。

p.54

昭和30年代を描いているのですが、令和の世の中は、もっと大変なことになっております。


「この手いっぱいの真珠」は、加瀬だった時の景虎を覚えている人が大勢いるという、当たり前の事実に改めて気づかされ、瞠目しました。

 

「赤い鯨と室戸のこうもり」は「室戸水軍首領・兵頭隼人の誕生する、十日前の出来事」を描いているのですが、兵頭が本編の兵頭になるきっかけが描かれており、興味深いです。


「桑原水菜&編集エリーのバックヤード対談」は、まさにバックヤードの話という感じで楽しかったし、発見もありました。

エリー:夜叉衆は四百年も生きているのに、やっぱり若造なんです。

p.196

確かに!

桑原:そう考えると本編は景虎の晩年だったんですね。
エリー:高耶さん自身は若いけれど、景虎としては四百年の人生のラストスパートってことですよね。

p.196

なるほど~。


ほたか乱さんの「のうまくさまんだ こんぷり~と」は、いろいろおかしかったです。結構シリアスに描いている場面と、お笑いの場面の落差が秀逸。「景虎様の笛は横笛だった……」とか。

いのうえさきこさんの「炎の蜃気楼昭和編 桑原先生とブラリ銀座歩き!」の「秋刀魚のサンバ」、「車海老のトランス」、「太刀魚のデスメタル」、「虎河豚のオペラ」、「伊勢海老のタンゴ」と延々畳みかけてくるのも、頭がぐらぐらしつつも、ウケました。挙げ句の果てに、「子守熊のマーチ」に「大王烏賊のセレナーデ」ですか……。コアラの漢字表記が子守熊とは知りませんでした。


「桑原水菜&編集エリーのバックヤード対談アンコール」が、これまたすごかった。昭和編で本編の伏線を回収して回収して、回収しまくっているんですね。昭和編の後、本編を読みなおそうかと、ちらっとは考えたのですが、時間がなくて……。シリーズを全編読み直したら、ものすごい量の発見があるんでしょうね。


もう歴史小説を書く気持ちじゃないと。そういう気持ちで書いていたと思います。信長が本能寺で亡くなるみたいに、直江が美奈子にすることも絶対に変わらないから。それは歴史的な事実だから。二十七年前に自分が書いたんですけどね。そういう歴史的事実を踏みつつ、この人たちはどういう気持ちで動いていたのかっていう……昭和編の書き方はそこが違いました。

pp.411-412

歴史小説か―。ミラージュは、そんな境地にまでいっていたのですね。


エリー:まさに『環結』ってことですよね。終わっているけれど終わっていないですもん。ごく単純に、二十代で読むのと、三十代で読むのと、四十代で読むのと、感じ方が全部違うじゃないですか。年齢だけでなく、それまでの経験やその時の状況によっても変わりますし。そういう意味でも新しい発見や意味が生まれますよね。

p.427

ほんと、時間さえあれば全編読み返したいです。


名残惜しくて、ちょっと検索していたら、こんなものを見つけました。


そしてこんなものも。これが発売されていたことは、知りませんでした。

↑kindle版

kindle版で3,762円、書籍版で4180円ですよ。今回の「アンコール」以上に購入のハードルが高いです。買うかもしれないし、買わないかもしれない、という感じですね。


見出し画像は、東大寺の中門の兜跋毘沙門天です。ミラージュシリーズを教えてくれた友人と、奈良・京都をめぐる「炎の蜃気楼紀行」をしたことがあります。テキストはもちろん、これ。


その時に、もちろん東大寺は行っているのですが、兜跋毘沙門天は多分見ていません。後年、存在を発見した時の記事は、これ。

それこそ伏線回収したわけです。



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margrete@高校世界史教員
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