地味だけど大切な基礎研究~『愛なき世界』(三浦しをん)~
*この記事は、2019年11月のブログの記事を再構成したものです。
植物、中でもシロイヌナズナを愛する院生の女性と、そんな彼女を愛する料理人の男性の物語です。愛なき世界とは、感情を持たない植物が生きる世界のことです。
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また、植物という強大なライバル相手に、苦闘を強いられる男性の物語とも言えるでしょう。あるいは、何かに打ち込みすぎると、どこか変になる人々の物語でしょうか。でも研究者が何かに打ち込み、地味だけど大切な発見をしてくれるからこそ、私たちの生活は成り立っているのですが。
しをんさん、相変わらずうまい! 綿密な取材に基づく物語ですが、取材内容を過度に盛り込みすぎることなく、上手に取捨選択したのだろうなぁと思います。
心に残った言葉。
「私たちがやっている基礎研究は、地味豊かな食材のようなものです。おいしく、栄養満点で安全な食材がなければ、料理を作ったり食べたりすることができないのと同じく、私たちの研究もまた、ひとの役に立つような研究の土台になるものなのです」
目に見えるような成果ばかりを追求し、基礎研究への予算を削る文科省への異議申し立てが、さりげなくなされています。学問にプラグマティズムを導入することは許されません。
次はしをんさんはどのような世界に興味を持ち、どのような物語を紡いでくれるのか、楽しみです。
見出し画像には、「みんなのフォトギャラリー」で「ナズナ」で検索して出てきた写真を使わせていただきました。おそらくシロイヌナズナだと思うのですが……。
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