最後まで予想のつかない展開を見せる作品~『心淋し川』(西篠奈加)~
どぶ川のような心川(うらかわ)が流れる、心町(うらまち)の長屋に住む人々を描いた、連作短編集です。
↑kindle版
運に見放されてしまったような人々、「はじめましょ」の稲次の言葉を借りれば、「はみ出し者ばかりが吹き溜まる」場所の話ですから、読んでいて心楽しいとはとても言えません。それでも何だか、魅力がある作品です。本人のせいではないのに、なぜか運が悪い人もいれば、自業自得かなと思う人もいますが。
それぞれの短編に脇役として出てくる差配の茂十が、最後の「灰の男」で主人公となり、彼が差配となった事情が明かされます。事情も、そして結末も、予想がつかないものでした。そういう意味で直木賞に相応しい、読者を楽しませる作品です。
最後、まるでカーテンコールのように、それまでの短編の登場人物が出てくるのが良いです。お話の後の心町は、良くも悪くも変わらないだろうけど、でも少しは明るい方向に向かうのかなと思えます。
印象に残ったのは、表題作の「心淋し川」の中の「修行に後戻りなし」という言葉。「続けている限りは、腕が鈍ることもねえ」というのを信じ、noteやブログを続けているのですが、私の文章の腕は維持されているのでしょうか。
あと、同じ「心淋川」のヒロインの「ちほ」の「縫い目の顔がだいぶ穏やかになった」という表現が面白かったです。「以前は不細工で、怒ったり泣いたりしていたのが、最近はちょっと笑って見える」とか。
見出し画像には、「みんなのフォトギャラリー」から美味しそうな卵焼きの写真をお借りしました。収録されている「はじめましょ」に、卵焼きが出てくるので。
↑文庫版
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