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【読書】マンネリシリーズに吹き込まれた新風~『遺跡発掘師は笑わない 君の街の宝物 西原無量のレリックファイル』(桑原水菜)~

*この記事は、2018年11月のブログの記事を再構成したものです。


西原無量が主人公の、「遺跡発掘師は笑わない」シリーズの番外編です。4本の短編が収録されているのですが、予想以上に面白かったです。

↑kindle版


このシリーズ、ここのところ『悪路王の右手』と『悪路王の左手』、『元寇船の眠る海』と『元寇船の紡ぐ夢』と、2巻で1つのエピソードを語るのが続いていました。その結果、長い分登場人物の多さと伏線のややこしさで、面白さが削がれていたところがありました。しかし今回は何せ短編なので、構成が良い意味でコンパクトで、面白さが引き立ったのかも。


以下、1本ずつ見てみます。



「君の街の宝物」

表題作ですが、昭和のものだって立派に歴史的遺物になりうるんだなということを再確認させられました。一方で、ゴミか遺物か、遺物か個人的な宝物かの境目も曖昧だなと思いました。


「フタバスズキリュウに会う日」

幼い無量と父親の幸允のぎこちない関係が描かれており、結構切なかったです。

現在二人の関係は最悪ですが、無量の子ども時代のちょっとしたボタンの掛け違いが、今の関係につながってしまったわけですね。子ども時代は無量はちゃんと父親を慕っていたし、幸允も不器用ながら子どもを可愛がっていたのに……。

でも本編でも、幸允は遠回しに無量を気にかけているそぶりが描かれているので、二人の関係が修復される日も、ひょっとしたら来るのかもしれません。


「夢で受けとめて」

夢枕に立った死者に、鏡の捜索を依頼される話ですが……。結末が、脱力しました。なるほど、そういうことだったのね(^-^;

ただこの話も、さりげなく遺物と個人的な宝物の境目を問うている気もします。歴史的に価値あるものを、個人が宝物として抱え込んでしまっていることの問題を、遠回しに問うているのではないでしょうか(いやあの結末に、そんな固い解釈はいらないに違いない)。


「決戦はヒストリーツアーで」

萌絵ちゃんの大暴走ぶりがすごかったです。家とはいえ、声上げて、涙流して笑っちゃった。若い女の子らしさが皆無で、そこが愛すべき点なんだけど、でももう少し女の子らしくなった方が良い気もします。

でも無量もなんだかんだいって、萌絵ちゃんのことが気になっているということが示唆されており、今後の二人の関係が気になります。しかし無量から「新八っつぁん」呼ばわりされても(名字が永倉だから)、否定しない萌絵ちゃん、大丈夫か?


ともあれ、ちょっとマンネリで続きを読むか迷っていたシリーズに、新風が吹き込まれた気分です。


見出し画像には、ひょっとしたらこの本の陰の主役とも言えるおさるさんの写真を使わせていただきました。


↑文庫版



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margrete@高校世界史教員
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