テンポよく読めた~『遺跡発掘師は笑わない あの時代に続く空』(桑原水菜)~
「遺跡発掘師は笑わない」シリーズの第12弾(番外編)です。すでに第13弾も発売されているのですが、図書館でようやく順番が回ってきました。
↑kindle版
前回の番外編の『遺跡発掘師は笑わない 君の街の宝物 西原無量のレリックファイル』の時も思いましたが、水菜さんは短編のほうが実は実力を発揮できるのかもしれません。今回も話のテンポが良く、スラスラ読めました。
以下、印象に残ったところです。
「佐々木家の庭、掘るべからず」
庭からお宝が出てくるかも、という欲望に駆られ、無量たちに発掘を依頼した佐々木家の夫婦ですが、発掘が進むにつれ、妻の桃子に変化が出てきます。桃子が、無量の先輩の柳生にかけられる言葉が印象的でした。
「行き先は今からだっていくらでも決められますし、いくらでも漕げますよ。自分がオールを握っていることさえ忘れなければ」
桃子と共に、何となく私も励まされました。そうですよね、オールを握るのは自分自身であることを忘れてはいけません。
あと、以下の記述も心に残りました。
こちらが読み取ろうとしなければ、何も見えてはこない。当時の人々がこれ(注:供養塔)を残したのは、後世の者に何度でも想像力を喚起させるためでもある。死者の霊を慰めながら、いまを生きる人々に「教訓を忘れるな」「想像することを怠るな」と告げているかのようだ。
先祖が残したメッセージを受け取る努力を怠ってはいけないなと思いました。
「あの時代に続く空」
表題作でありながら、無量は事実上の脇役です。戦時中と現在を結ぶ遺物をめぐる話で、なかなか味わい深かったです。
「神がかりの少年は笑った」
無量の少年時代のエピソードで、なぜ彼が遺跡発掘に携わるようになったかが明かされます。閉ざされていた心が、少しずつ開かれていく様子がうまく描かれていると思いました。
「縄文カフェへようこそ」
縄文カフェ、実際にあったらぜひ行ってみたいです。本当にこういうカフェがあったら、間違いなく流行ると思う。
ちょっと面白いなと思ったのは、無量の以下の言葉。
「風景って遺物がもってた情報そのものじゃん。風景があってこそ遺物は語れるし、生きられる。風景から切り離された途端、ただの記号になっちゃう」
無量の持論は「博物館に陳列してある遺物はよそゆきの顔してる」というものだそうですが、なるほどなと思いました。東博や何かの展覧会ももちろん良いけど、確かに地元の出土品を展示してある地方の博物館にしかない魅力ってありますものね。
見出し画像は、2018年に「縄文 1万年の美の鼓動」展で撮った縄文土器です。
↑文庫版