【読書】『山月記』の李徴を思わせる主人公~『かめれおん日記』(中島敦)
また中島敦作品を読んでみました。
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生徒から預かったカメレオンを数日の間飼った、というだけの話ですが、その間の主人公の身辺で起きたこと、考えたことが盛り込まれており、なかなか面白かったです。
主人公の身辺をある意味で彩るのが、同僚の吉田です。
言うまでもなく主人公は、本心から彼を「模範とすべき人物」と思っているわけではありません。何というか、身近にいたら結構うっとうしいタイプの人なので。でも体も弱く気力にも乏しい主人公としては、吉田のパワフルさをうらやましく思っていることも、やはりある意味では事実です。
だいぶ長い引用になってしまいましたが、これ、よく分かります。かえって起きだしてしまったほうが良いのかもしれませんが、翌日のことを考えるとできません。
結果はというと……。
さすがにこうは、ならないようにしなければ……。
この主人公、すごく自尊心が強いのです。『山月記』の李徴を思わせる部分もあります。
しかしカメレオンを入れていた籠の前の住人たち、哀れです。主人公は動物を飼うに向かないタイプなのに、そしておそらく自分でもそれを分かっているのに、つい飼いたくなるんでしょうね。そういう意味ではカメレオンについて下した決断は、賢明と言えるでしょう。
あと、我ながらおかしかったのは、途中まで主人公が勤めているのは男子校だと思っていたこと。中島敦が勤めたのは女子校であることは知っていたのに、なぜか出てくる生徒はすべて男子だと思っていたんですよね。最後の方になって、誤解に気づきました。
ちなみに作中に増徳院というお寺が出てきて、知らないなぁと思って調べたら、現在の元町プラザの位置にあったものの、関東大震災で倒壊し、南区に移ったそうです。元町には薬師堂だけ残っていたものの、それも現在は増徳院薬師堂ビルに建て替えられたということ。お参りが出来るのかは、ちょっと不明です。
見出し画像は、港の見える丘公園から見下ろした横浜港です。主人公というか、中島敦が見た光景とは、だいぶ違いますが。