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【読書】知識や教養という栄養~『プリニウス 3巻』(ヤマザキマリ、とり・みき)~

*この記事は全12巻を読んだ上で再読した時の感想です。よってネタバレに相当することも書かれていることを、ご承知おきください。


『プリニウス』の再読、3巻目です。

↑kindle版


「我々の生まれたのは ただ一度きりで 二度と生まれることはできない…
これきりで もはや永遠に存在しないものと定められている…」
「ところが君は明日の主人でさえないのに 喜ばしいことを後回しにしている…」
「我々は皆ひとりひとり忙殺のうちに死んでいくのに…」

p.24

プリニウスが「セネカにもう一度聞かせてやりたい言葉ばかりだ」というエピクロスの言葉ですが、私自身が心にとめておきたい言葉です。


「そんな獣の子を観察するような目で見るからですよ?!
この子は人間の子供なんですよ!!」
「同じ地球上の生き物であることには変わりない」

p.40

プリニウスが甥の小プリニウスを泣かせてしまうシーンですが、おかしかったです。


人間というのは これだけ弱虫に生れておきながら やがては全ての生き物に対して主人面をするようになる…
素っ裸で こんな無防備な姿で生れてくるのに 誇りだけは高い生き物に育っていく…

p.41

本当にね。


「人間だけが教育に頼らなければ何一つ知る事もできない
生れながらにできる本能といったら泣く事のみだ…」
「でもそれは神の決めた事…しかたがないのでは」
「確かにその通りだ…
だからこそ私は他の動物に対して恥かしくないように生きようと決めたのだ
人間の特性である知性をできる限り磨こうと
自然にも他の動物と同様に受け入れてもらう為にな……」

p.43

プリニウスとエウクレスの対話ですが、1巻・2巻に引き続き、ここでも神より自然を畏れるプリニウスの姿勢が感じられます。


時がもたらすものは何であれ贈り物として受けよと かのホラティウスも申しておりますし…

p.99

小プリニウスの家庭教師となるアンナの言葉ですが、金言です。それにしてもこの作品では家庭教師や水道技師など、働く女性が活躍しますね。


死ぬ時に総括して幸せだったと思えれば それでいいではないか!

p.111

12巻で描かれるプリニウスの最期を思うと、この時のプリニウスのセリフが心にしみます。


知識や教養を排除して 人間の社会の平和が望めるとでも…?
人間は知識 教養という栄養なしでは健全に育たぬ生き物
無知や無学程 人間の社会を脅かすものはありません
プリニウスという男は社会の中枢にいるわけではない
…でも書物で人間達にその重要性を示唆している教養人です
…優れた人間の社会をもしあなたが望んでいるのなら
あなたがあの方の書記をしているのは その足掛かりとなる事…
決して意味のない事ではない…

p.116~117

知識に疑問を抱くエウクレスへのアンナの言葉ですが、教員である私にとって、心に留めておきたい言葉です。教えることは、意味のある事だと。


「お前がいないと あいつの変な発見やら考察が記録されんのだろう?」
「…別に僕じゃなくたって…」
「ったく若いっていうのはロクでもねぇ事だな!! 薄気味悪くなるよな! 『自分がどうの』じゃねえっての!!」

p.128

プリニウスを追いかける決意ができないエウクレスへの、シレノスの言葉です。それでも決意ができないエウクレスの背中を、「あ、(プリニウスに)ぜんそくの薬を渡し損ねちまったなぁ…」という独り言で押すシレノスには、大人のかっこ良さを感じます。


エウクレスが追い付いた後のプリニウス一行は、巨大なタコがあがる、水道が止まる、突然温泉が湧く、赤い大きな月などの異常事態を経験し、プリニウスは「何か尋常じゃないことが地下で起きている」(p.151)と判断します。ウェスウィウスが火山であることにも、プリニウスはうすうす気づいています。水道が止まること、そして有毒ガスによる羊の大量死のエピソードは、12巻でのウェスウィウス噴火直前の場面でも繰り返されますね。水道技師のミラベラが、どちらの巻でも居合わせることも……。


とり・みき 「マンガ家同士の合作の場合、一人で描くのと比べて労力は二分の一で済む」なんていうのは始まる前の甘い見通しで、いざ初めてみると、一人の時より大変。
マリ しかもお互い手を抜きませんから。「影響を与え合っている」というよりも、「首を絞め合っている」と言った方が適切かもしれない(笑)。

とりマリ対談(5)より

いや、本当に完結までたどり着いたことに、何度でも「お疲れ様」と言いたいです。


マリ 並行してスティーブ・ジョブズの伝記マンガも連載していますが、描いていてジョブズとネロが見事に重なるんです。
とり どういうところが似ているんですか?
マリ 芸術志向が強いところですかね。PCを開発するにもジョブズは実用性だけを追求するのではなくて、多少不便であってもデザインを重視する。ネロも皇帝という立場でありながら、政治よりも芸術優先。二人とも周囲と不協和音が生じても自分の意見を徹底して通す。そこが魅力。

とりマリ対談(5)より

2巻の「とりマリ対談(4)」でもマリさんは、「周りから『性格破綻』とさえ思われる歪みや、繊細さ、孤独に対する強靭な免疫という点で、ジョブズとネロが重なり合うんですよ」と言っています。こうなると『スティーブ・ジョブズ』も読みたくなってしまいますが、でもその時間があれば、別の本を読みたいしなぁ。


とり ローマの都市を俯瞰で描くのも大変ですが、猫の視点にすると仰角で背景を描かなければいけないのでそれも大変。
マリ でも、その「猫目線」だからこそ、人間には及ばない視点でプリニウス邸の妙ちくりんなところとか、標本や書物、庭に植えているさまざまな植物や虫などをスマートに描写できるわけです。それらは全てプリニウスの趣味嗜好を表しているから、結果的に彼の人間性を描くことができる。

とりマリ対談(5)より

この「猫目線」の部分、2巻の「とりマリ対談(4)」の表現を借りれば、なるべく画を「読む」ようにはしましたが、見落としだらけだと思います。


見出し画像は、四半世紀前のポンペイ遺跡です。背後にうっすらと、ウェスウィウス山が写っています。


↑コミック(紙)版



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