【読書】「文字の霊」がもたらしたものは~『文字禍』(中島敦)~
*この記事は、2020年1月のブログの記事を再構成したものです。
アッシリアのアシュル・バニ・アパル大王(一般的には、アッシュール・バニパル)から、「文字の霊」についての研究を命じられた老博士ナブ・アヘ・エリバの物語です。
30分くらいで読める短編ですが、なかなか面白かったです。文字とか文章についての、「そうそう!」と言いたくなるような鋭い洞察があちこちにあるので。例えば、以下のような感じ。
特に漢字を書いていると、そういう感覚を持つことってありませんか? すごく簡単な漢字なのに、突如として自信がなくなり、「え、これで合っているのかな?」と思うことが私は時々あります。
ちなみにこれ、ゲシュタルト崩壊ってやつですね。
あとおかしかったのは、文字を覚えたことで何か変化がなかったかを、博士が町の人をつかまえて調査するくだり。シラミを捕るのが下手になった、空の色が以前ほど碧くなくなった、咳が出始めた、頭髪が薄くなった、などなど、関係があるような無いような、微妙な証言が集まります。
でもだんだん、深刻な事実が分かってきます。文字が普及したことで人々の頭は働かなくなり、書きとめておかなければ、何一つ憶えることが出来ないし、知識だけはあるのものの、今日の天気が晴れか曇りかも気づかない。
これって、スマホが普及した現代において、ますます深刻になっている問題ですよね。まぁスマホがもたらした影響は、文字の比ではありませんが。
研究を通じ、次第に自分が文字の霊にとりつかれていることを自覚した博士は、王に対し「文字への盲目的崇拝を改めるべし」という勧告をします。その結果文字の霊に復讐された博士は、王に謹慎を命じられ、そして……。
結末が結構衝撃的です。「ええ、そうくるか!」という感じ。これを思いついた中島敦は、やっぱりすごい! kindleさえお持ちであれば無料で読めますので、一読をお勧めします。
見出し画像は、2021年9月に行った、「北斎づくし」展の最後の方にあった、北斎の言葉の一部です。何か文字の写真はと思っただけなので、『文字禍』の内容とは無関係です。