見出し画像

奇跡を呼び込む見仏コンビ~『見仏記 メディアミックス篇』(いとうせいこう、みうらじゅん)~

今回の『見仏記』はメディアミックス篇ということで、テレビ(DVD)の「見仏記」と合わせると、倍以上に楽しめそうです。残念ながら私は、テレビ版は観たことがありませんが。



口絵の写真から、目を奪われました。みうらじゅんが欲しいと言っていたロータスクッション(柄が蓮なのではなく、仏像が座っている蓮の形)、「国宝興福寺仏頭展」でグッズ化されたのですね。写真を見て、私もちょっと欲しくなりました。


なお、本書は文庫では『見仏記7 仏像ロケ隊がゆく』にあたりますが、文庫だと写真が白黒なんですよ。写真のためだけでも、単行本の『見仏記 メディアミックス篇』ご覧になることをお勧めします。図書館で借りるのでも良いかと思うので。

ちなみに文庫の『見仏記7 仏像ロケ隊がゆく』は、別に感想記事をアップしましたので、よろしければ合わせてお読みください。


いきなり笑ったのは、ロケのメイクについてのいとうせいこうの言葉。

十五年以上、私の髪の毛はみうらさんが自分のブラシでといてくれていた。気持ちの悪い話である。

「気持ちの悪い話」と言いつつ十五年以上って、いったい……。


胸に染みた言葉、いろいろ。

私たちは今、自然を”お世話させていただく”感覚を持っているだろうか。勝手に開墾し、伐採し、危険なエネルギーを開発し、人と人が切り離され、決して幸福とは言えない時代を生きているのではないか。(中略)人間は欲望に駆られて非道なことばかりする。

本当にそうですね。


千手千足観音は大忙しになったが、きっと我々のことを怒ってはおられまいと思った。

千手千足観音とは、滋賀の正妙寺にあるそうで、みうらじゅんの絵で見ても、何とも言えない迫力があります。「TV見仏記」で取り上げ、ことあるごとに2人が千手千足観音の話をしたところ、いつの間にかブームになっていたそうで、それについての言葉です。もちろん見てみたいですが、アクセスがね……。


尾道にせよ鞆の浦にせよ、驚くほど普通に仏像が揃っていた。そしてそれを守る何人かが戦火のことを口にした。同じ広島で何があったか、そこに何も残っていないことを彼らは意識して生きているのだと思った。


御堂には計六十八本の太い柱があるのだが、それが一定の樹木ではなく、それぞれツツジや杉や梨などなど、様々に分かれているのだそうだ。これは本当に興味深い事実であった。思わず興奮して、「御堂が森ってことなんだ!」と私は叫ぶように言ったはずだ。そう口に出した途端、金峯山寺の蔵王堂が一気に森になった。
森にまったく同じ樹木が一本もないように、仏も様々なのだ。多様であることが自然のありようなのだから、その力を抽象的に示す仏像もそうである。
元々吉野の桜はこの蔵王権現のためにその目の先に植えられたのだった。なぜなら、役行者は感得した権現を桜の木で彫りだしたのだから。桜が花を咲かせていた頃の自分を見る構造にもなっているわけだ。

これらは吉野の金峯山寺の蔵王堂についての描写ですが、巨大な蔵王権現共々、ぜひ見てみたいと思いました。


見てみたいといえば、ならまちの福智院の地蔵座像も。

光背の地蔵は五百六十体あり、化仏六体と座像本体を足せば五百六十七、という数字が出てくる。それは五十六億七千万年後にやってくる弥勒の秘数そのものであった。


しかし尾道・鞆の浦での見仏コンビの運はすごいです。

なんだかわからないがとにかく自分たちには運がある(仏像に関してだけは)という確信が、我々の背中を押していた。いや、正確にいうと背中をそっと抱かれているような感覚だ。
尾道では建築に仕方なく興味を寄せることで奇跡を呼び込んだのだった。そんな事情もあって、我々はお堂も庭も襖絵も見る用意があった。

という、いとうせいこうの言葉通りです。

結果、庭についての洞察も深くなっています。

そもそも枯山水は水を引き込んだ庭をあえて水なしで見せるものであり、その究極が龍安寺だった。だから抽象化する前は、まさに対潮楼(注:かつて朝鮮通信使を迎えていた迎賓館)から見る海の絶景そのものだったと言ってもいい、と私は思った。それを屋敷の中に取り込んだ末の末に、日本人の庭は枯山水に至ったのだ。
宇宙と精神の構造を、あたかもバーチャルリアリティーで体験するがごとき仕組みが庭にはある。


「もはやどこまでが仕事でどこからが趣味なのか、まったくわからなかった」と言いつつも、この巻の最後に至った境地が素晴らしいです。

生きればその分だけ、決まりごとが多くなると思っていた。だが、みうらさんと好きなことだけやってきた私は、むしろ境界を軽々超えられるようになっていた。それゆえに自分たちが一体何をしているのか、自分たちさえわかりにくくなっていたのだ。


見出し画像は、浜松の方広寺のお庭の石仏たちです。


この記事が参加している募集

記事の内容が、お役に立てれば幸いです。頂いたサポートは、記事を書くための書籍の購入代や映画のチケット代などの軍資金として、ありがたく使わせていただきます。