〔少女庭国〕を読みました
〔少女庭国〕 は、ハヤカワSFシリーズJコレクションとして2014年に発行され、この2019年6月に早川書房の百合SFフェアに合わせて文庫版が刊行された。百合SFフェアについては早川書房さんのnoteへ。(関連作品全部欲しい!)
この作品も「事前情報なしにぜひとも読んで欲しい」タイプなので、「百合SFで少女なんてタイトルをつけるだけで完璧だぜ」という種族の方はいますぐそのままAmazonをポチるか書店に向かっていただきたい(なんなら上記ハヤカワ文庫の紹介すら見ないでほしい)。
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あらすじを見てみよう。
卒業式会場に向かっていた中3の羊歯子は、気づくと暗い部屋で目覚めた。隣に続くドアには貼り紙が。“下記の通り卒業試験を実施する。ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ”。ドアを開けると同じく寝ていた女生徒が目覚め、やがて人数は13人に。不条理な試験に彼女たちは……。中3女子は無限に目覚め、中3女子は無限に増えてゆく。これは、女子だけの果てしない物語。日本ホラー小説大賞作家が描く、度肝を抜かれるアンチ・デスゲーム&百合SF建国史!
※上記「早川書房、百合はじめます。ハヤカワ文庫の百合SFフェア」より引用。
アンチ・デスゲーム&百合SF建国史。この強いワードを見てほしい。これだけで読みたくなった方は以降の文章をすっ飛ばしてAmazonをポ(同文)
以下、ネタバレをバリバリ含むので閲覧注意です。
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あらすじの通り、物語は中3の羊歯子が卒業式に向かう途中に、石造りの何もない部屋でふと気が付くところから始まる。部屋の中にあるのは2つの扉と張り紙。1つの扉にはドアノブがない。貼り紙には、“下記の通り卒業試験を実施する。ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ”。という文言と学園長の名前が書かれている。
この時点で、よく訓練されたエンタメ好きは「なるほどそういうデスゲームか」と思うわけだ。私だってそうだった。
片方の扉は開き、扉の向こうには自分と同じ制服をきた女子生徒が眠っている。部屋は羊歯子が目覚めた部屋と全く同じ。そして扉を開けた瞬間に目覚める。同じ学校、同じ卒業生のようだが、扉の向こうの少女と面識はない。二人は情報を共有し、そしてまた次の扉を開く。扉の向こうには同じ部屋と眠る少女。三人は情報を共有し、そしてまた次の扉を――
そして少女の集団が13人にまでになると、13人は1人を残して死ぬ。“ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ“という卒業試験が無事にクリアされる。
「なるほど、女子中学生が出てくる密室デスゲームかあ」と思うじゃん???
これで最初の短編「少女庭園」が終わる。そして続く「少女庭園補遺」。
本編は、ここからだ。
引き返すのは早い方がいい。だってここからは本当にネタバレだから。
なるほど、この作品は百合SFデスゲームではなく、百合SF建国史。
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■そして自動生成デスゲームへ
そしてまた少女が目覚める。
ここからなのだ。何度も何度も、何人も何人も少女は目覚める。そしてあの例の貼り紙を見つける。
それぞれの少女の物語は、時には数行で終わる。
考えてみれば簡単なことだ。例の条件“ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ“は、n=2で確定してしまえばm=1で済む。扉を開け続ければ続けるほど、mの値は大きくなるのだ。ときに卒業生は相手を殺し、時に卒業生は自害し、このデスゲームはあっさり幕を下ろす。そして次の少女が目覚める。
なにこれ。
3行で終わる章。目覚める少女。小さな事件が起きたり、起きなかったりする。そして突如現れるやけに長い章。
その時の私「ついに百合が……?」
ある少女群は、その開拓を選んだ。
少女たちは数少ない持ち物――たまたま制服のポケットに入っていたようなものたち――を用いて、壁を壊し、扉を壊そうとしていく。刻一刻となくなっていく体力。彼女たちは何かを食べなければいけない。まず彼女たちが選んだのは食糞である。しかし、別の食材に目を付けるのはすぐだ。食人。食糧があり、開拓という目標により社会が生まれる。少女だけの社会。
なんなのこれ。
しかしながら、彼女たちも些細なきっかけで集団が崩壊し、結局はn-m=1の条件を満たすことになる。そして次の少女が目覚める。
■自動生成されるデスゲームと少女の”少女性”
やばいものを読んでしまった感覚があった。
次から次に少女が目覚め、それぞれのn-m=1の条件を満たすまでが淡々と語られていく。そして時々、稀に、ヤバい物が混じる。
※上記の通り、ある程度グロテスクな表現(グロが主眼ではないのでグログロではない)があるので、潔癖だ!という方は避けた方がいいかもしれない。※
いわゆるデスゲームの文脈に、ものすごく乗っかっている。よくある「裏で操る黒幕がわからず終わる」パターンのやつ。嫌いじゃない。すごくやばいゲームを作った人が「裏テレビ局のエンタメショーで金持ちが見てまーす!」とか見飽きたもんね。それよりふんわりするの、わかる。でも、それならば、自動生成される物語になるのか。
まさに「アンチ・デスゲーム」であり、「アンチ・物語」である。
作中で小説を書くという少女が現れる。彼女曰く、「出る人物に何か欲しがらせて、手に入れるために行動させんだよ」とのこと。まさにこの通り。自動生成デスゲームであり、自動生成お話でさえある。
さて、適当に”少女性”と題打ってしまったが、ここで少女性に関して云々語るつもりはない。少女庭園に登場する少女たちは、個性的でありながら同じ制服を着た同じ中学三年生の卒業式前の卒業生である。そうしたひどく没個性的な少女たちが、続々と目覚めては死んでいく。
レビューを見ると「あまりにも思考実験」という感想がよく見られるのは、そうした少女性によるところが大きいのではないだろうか。
キャラクターに感情移入をして、一緒に成長して、そんな読書体験をしたような気はしない。少女はあまりにもコマであり、しかしコマでありながら少女である。自動生成されていくゲームの、物語の中の1ピースにすぎない。
■つまり
百合だと思って読んだらヤバいものをつかまされてしまった。みんな読んでこの条件で一緒に妄想続けよ……。