給食業界のナイチンゲールが教えてくれた、厨房改革のコツ!
1)ナイチンゲールと呼んでる(私が勝手にw)厨房コンサルタントさんとは?
そもそコンサルタントとは・・・
モルツウェルが食品を加工する「調理施設」を一から作り始めたのは、2003年6月でした。第二創業として高齢者向けの食品を製造販売(当時はお弁当)を始めた頃。創業からのフランチャイズの持ち帰り弁当業で習得した衛生知識はあるものの、設計は当時知り合った厨房機器メーカーさんにお任せし、私は6歳の息子と3歳の娘の子育てをしながら、献立作成、仕入れ、調理、盛り付け、配達をしながら、事業を軌道に乗せることに奔走していました。
手洗いや消毒は、それなりにできているとはいえ、確実に衛生管理ができている自信は全くありませんでした。
清掃などの薬剤選びから、制服の管理、食中毒予防対策は、創業のほっかほっか亭フランチャイズオーナーとして、店舗に回ってくるSVから教えてもらった薄ぺらい知識で何とかしのいでいました。
2)玄関で事務所兼工場を見るなり、「私には無理です」と帰っていった工場長採用候補・・。
創業間もない頃、徐々に注文が増えて、受注業務から製造、請求業務すべてを事務所兼工場で行わざるを得ない状況になりました。
納品された段ボールは棚に納める時間も取れないほど、多忙を極め、作業は煩雑になっていました。
専門知識や経験のある食品製造工場経験者または専門職の方を採用しよう!と、ハローワークに求人を出し、50代前半くらいの男性の衛生コンサルタント経験者の方が応募してくださったことがありました。
しかし、面接当日、その方は玄関に入るなり、納品された食材や段ボールが山積み、その横で調理をしている、その脇では事務作業の伝票が散乱している・・そんな光景を見た瞬間、
「私も長らくこの仕事をしていますが、これは酷い。私には責任が持てません。辞退します。」と回れ右をして帰っていかれたことがありました。
渦中の私自身は、目の前のことしか見れておらず、状況の恐ろしさに気付けていませんでした。
3)菌検査が教えてくれた、ヤバさ。
あるとき、食品細菌検査会社の営業マンが、製造環境の菌検査のお試しいかがですか?と持ち掛けてくれ田ことがきっかけで、試しで検査してみたところ、驚きました。
なんと、「菌が見える!」
内容は人的被害が出るような結果ではなかったものの、予想通り、とても推奨できるような衛生環境ではありませんでした。
それから、保育園の調理経験のある栄養士のパート職員さん等とともに、食中毒に関するニュースや書籍などを調べ、朝礼でお話したり、保健所から食中毒についての出前講座などに来ていただいて勉強会を開いたり、社内の啓蒙活動を行いました。
菌検査を抜き打ちで行い、衛生環境の状態を作業をするみんなに見えるようにしました。
学びを深めるごとに、「出荷するまでは大丈夫だけど、工場を出た後、配送の温度管理が業者によってまちまちの状況下のことも考えられるし、お客様の保存設備や保存状況もそれぞれの場合がある。このままクックチル製法の食材でよいのか?」という疑問がでてきました。
私たちがお届けるする商品は、体が決して丈夫とはいえない高齢のお客様が召し上がっていただくもの。
届ける私たちも、配膳する施設職員様も、召し上がられるお客様も安心してお届けできるものに向上させていきたいと思い、『真空調理製法』に製法自体を変えていくことを決心しました。
そこからというもの、考えることは盛りだくさん・・・頭はパンクしそうでした。
製造方法は誰に教えてもらうのか
今の建屋でムリ、新工場を建設?
設備の投資額は
工場内の動線設計は
HACCPに対応した工場にするには
・・・・
まずは食品工場の衛生管理についての専門家の派遣を支援機関に依頼した。
そこで出会ったのが、私が勝手に「ナイチンゲール」と呼んでいる、株式会社ジャスタウェイの大西 直已先生。ちなみに、先生は男性ですが、私たちに指導いただいたことを振り返ってみると、給食業界のナイチンゲールじゃん!と思うわけで、勝手にそう表現させていただきました(笑)
4)なぜナイチンゲール?
ナイチンゲールについて調べてみると、
クリミア戦争下の状況と現代では、そのころの想像できないほど凄惨な状況とは全く違うかもしれません。
がしかし、私たちが当時おかれていた状況も、先が見えない不安な様子は変わらなかったと思います。
ナイチンゲールは統計学に基づいて、現代の病院の設計の基礎をつくったといわれています。
そんな風に、専門家として指導をしてくださったのが、大西先生。
まずは、工場の設計について相談をしました。
それまで生産が増えたらプレハブで建物を増設してしのいでいた私たちに、私たちが誇りをもって新工場で適切な衛生管理ができるように、まさにナイチンゲールのように、的確にアドバイスをしてくださいました。
作業者の動線、設備の選定検討、何より衛生面での人材育成。性悪説で育成しがちだった私たちを性善説で、どうやったらよい商品づくり、人づくりができるか、導いてくださいました。
5)人財育成については、作業手順書の作成から
厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルに沿って、それまでも記録簿への記載や、ゾーニングなど行い、作業を何とかしていましたが、特に衛生区域と非衛生区域などは旧工場では何とかつじつま合わせをしていた部分が多分にありました。
作業手順も大まかなものはあったものの、新工場でのしっかりゾーニングされた工程ごとの区割りとともに、膨大な量の作業手順を明確に成分化する作業に途方に暮れていました。
そこで先生に寄り添っていただきながら、チームを作り、まずはSSOP(衛生標準作業手順書)作成プロジェクトをスタート。
そうして、ついに2014年1月、モルツウェル㈱にとって最初の、真空調理済食材製造工場黒田工場が完成しました。
真空調理製法という新しい製造方法への切り替えと、作業環境の整備、その人材育成が目的として大西先生にご指導をいただき、黒田工場も無事に生産活動がスタートできたため、先生とのコンサルタント契約は終了しました。
ご指導いただく中で私はこんな質問をしたことがあります。
「先生、見えない食中毒菌との闘いで神経をすり減らし、夜も眠れない時があります。何をよりどころにしたらよいですか?」
先生の答えは一言、
「菌検査ですよ。」
そっか、見えなくて不安なら、見えるようにすればいいんだ!
それからの、私の経営者としての考え方にこの言葉は大きく影響していると思います。そのころの私には、資金繰りや経営状況も含め、社員の評価や情報共有、世の中には解像度が低いものがたくさんありました。
その一つ一つを、考え方を明確にして、見えた結果を一緒に働く仲間に開示し、目指す目標とのギャップを限りなく無くしていく活動をすること。それがまず大切なんだと教えていただいた気がします。
先生に寄り添っていただき、真摯に品質向上に努めた商品はお客様に認めていただけるようになり、現在は黒田工場の3倍の生産能力のある北陵工場を昨年竣工し、さらに付加価値の高い商品づくりに邁進できています。
それから10年たった今、全国各地の介護現場や病院の厨房で、起きていること。
現在日本全国の介護施設や病院の厨房では、そこで働く人材の平均年齢が上昇、平均年齢は72歳とも言われています。そしてその運営は、管理栄養士やベテランパートスタッフの「自己犠牲」から成り立っている現実が少なからずあります。
モルツウェルは、2016年から厨房受託事業をスタートし、真空調理食材の製造からその先の配膳業務を行う中で、介護施設厨房の「命をつなぐ食事」を提供する現場で、悲喜こもごもを体験してきました。
とかく、日本の女性が担ってきた台所と似た環境の厨房現場は、男性が多い介護施設経営者には、見えない(見ないようにしているとも思える)ブラックボックス。施設経営の改善のためのタネは、実はそこにたくさんあるようにも私たちは思えます。生産性を上げて、介護施設スタッフの給料や厨房に充てる費用にももっと還元できるのでは?と。
「構成員の自己犠牲のみに頼る援助活動は決して長続きしない」
というナイチンゲールの考え方は、現代の介護施設厨房現場にも通じることのように思えます。
持続可能な厨房現場をつくりたい。
黒田工場竣工から10年たった2023年、名古屋の試食会会場の繋がりで、大西先生と奇跡の再会をしました。大西先生も、私たちとのコンサル終了後、全国各地の病院や施設の厨房改革に尽力をされていました。
全国の給食現場が人手不足で破綻していっている現状の話をする中で、共感できるものが数多くあり、今ともに「みんなが幸せになる厨房」を目指して活動をスタートしています。
次回は、その大西先生の「全国の給食現場の実情と改善策」についてインタビュー。皆さんにお届けし、一緒に考えていけたらと思います。
つづく
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