謎の多い「エーラー式クラリネット」
今は昔。ボクがクラリネットを始めたのは1985年で吹奏楽部から。最初のクラリネットはNikkanという日本のメーカー。その後、YAMAHAのカスタムCS、Buffet CramponというフランスのメーカーのR13、RC、Prestigeと続く…
最初に聴いたクラリネットの録音は、モーツァルト作曲クラリネット五重奏曲で奏者は当時ベルリン・フィルのカール・ライスター氏。自分のクラリネットと違って、透明感のある音が衝撃的でした。それがはじまりでした。
自分のクラリネットの音との大きな違いが楽器の種類の違いだというのを当時の雑誌「バンドジャーナル」で見つけた。クラリネットは大きく2種類あって、ボクが吹いているクラリネットはフランスのボエム式(Boem system)、ライスター氏のクラリネットはドイツのエーラー式(Öehler system)ということが分かった。
ボエム開発の背景には、ナポレオンの平民教化政策があったとも伝えられています。フランス軍楽隊の沢山増やす為にメロディーを受け持つクラリネット吹きを促成栽培する為の運指の簡素化(増産のためキィの部品点数を減らす狙いもあったとか)、更に野外演奏のため音質でなく、音量に重きを置かれたそうです。
幻であり謎のクラリネット
1985年当時、ドイツ管を演奏する日本プロ奏者とえばNHK交響楽団の磯部周平先生と東京藝大の村井祐児教授でした。お二人ともライスターと同じH.Wurlitzer(ヴーリッツァー)というメーカーの使い手だったが、ドイツ管のままで、指使いだけをボエム式に改良した改良ボエムという特注品だった。ドイツ管は、幻であり謎のクラリネットだった。
その後、石森楽器やドルチェ楽器が取り扱うようになったが、それはあの改良ボエムだった。↓はドルチェ楽器でのWurlitzerの改良ボエムの試奏した時の動画です。この改良ボエムを吹くアマチュア・プレイヤーは時折見かけますが、エーラー式指使いのドイツ管クラリネットを使うアマチュア・プレイヤーは見たことがなかった。
そして、2017年ついにその転機が来た。石森楽器に中古品があるという連絡が入った。それはライスターの使っているH.Wurlitzerとは別で、Oskar Neidhardt(オスカール・ナイトハルト)社の楽器だった。しかも、オケで必要なBb管とA管と両方揃っていた(元の持ち主は分からない)。
購入の決め手はもう一つあって、ヴァンドレンに代表されるフレンチ・マウスピースが使える点だった。ドイツ管はボア(内径)が細い為、フレンチ・マウスピースが入らないが、この楽器はフレンチ・マウスピースが入る専用バレルが1つ同梱されていた。
最初はフレンチ・マウスピースで慣らす
実は、↑の動画のように何度か改良ボエムを試奏した時のこと。ドイツ管は楽器もマウスピースもボア(内径)が細いため、詰まった感じの貧弱な響きになってしまう。しかも、Zinner やViotto等の優秀なマウスピース・メーカーが次々と生産中止になったこともあり、国内在庫は極小でハズレばかり。
そこで、最初はフレンチ・マウスピースでの慣らし運転しつつ、気長にドイツ・マウスピースは探そうと考えた。↓の動画はドイツ管を吹き始めたころもので、同じフレンチ・マウスピース(Alexander Willscher 40B)でボエム式とエーラー式を吹き分けた演奏です。あまり音質に変化がありません。
ドイツ・マウスピース+フレンチ・リード
今や、すっかり良い時代になり、フェイスブックやツイッター等で国内外問わず、エーラー式クラリネットの情報がだいぶ入手しやすくなりました。
そんな矢先、スイス在住の日本人クラリネット奏者より、フェイスブックを通じてWurlitzerの3WZの選定品を譲ってもらいました。これはWurlitzer吹きでよく使われているマウスピースで、形状こそドイツだがフレンチ・リードのヴァンドレンのV12向け。それでもドイツっぽい音になってきた。
ドイツ・マウスピース+ドイツ・リード
その後、2019年にウィーン放送交響楽団首席クラリネット奏者のヨハネス・グライヒヴァイト氏が“グライヒヴァイト・マウスピース”を開発し、これが石森楽器取り扱われるようになり、BW 9-5というモデルを購入しました。リードは同じくドイツのアルンドス社のマノン3番です。
追記
Oskar Neidhardt社についての希少な記事を見つけました。アルバート オスカー ナイトハルトさんというドイツの職人さんがいて、1899 年 10 月 17 日に工房ができたようです。ワタシの楽器には、この工房があったシェーネックがロゴの隣に刻印されてます。以下、とあるドイツの記事の抜粋です