ふわふわ会計(番外編)『決算書、計算書類、財務諸表、どれが正しい表現?』
顧問先様からの質問
前回の記事を読んで下さった顧問先様からこんな質問をいただきました。
「決算の書類を『決算書』と表現されることが多いように感じるのですが、
『計算書類』や『財務諸表』という表現を使われる方もいます。
どの表現が正解なのでしょうか?」
日常会話での表現
日常的な会話や仕事上の言葉でのやり取りにおいては
「決算書」や「計算書類」や「財務諸表」も、
大体同じ意味で用いられることが多い印象があります。
3つのうち、どの表現を用いても、相手には同じように伝わる気がします。
公式な表現・法令上の表現
公式な表現として考えると、3つの表現の下のような違いがあります。
決算書・・・通称的な表現・税務上も多く用いられる表現
計算書類・・法令、例えば会社法や社会福祉法に基づく表現
財務諸表・・金融商品取引法に基づく表現
決算書について
「決算書」という表現は、3つの表現の中で、最も多く用いられる印象があります。
一方で、法令の条文の中に「決算書」と表現されている条文はあまり見かけたことがありません。
(あまりないという書き方は、私が知らないだけで、何かの法律の条文に明記されているかもしれませんので、このように書いています)
「決算書」は一般的に税務の会話の中でも用いられることが多いでしょう。
法人税法に下のような条文があります。
法人税法や法人税法施行規則の条文の中にも、
「決算書」という表現は用いられていません。
法人税法施行規則によると、法人税の確定申告に添付する書類として、
貸借対照表や損益計算書、株主資本等変動計算書が示されています。
これらの書類を総称して「決算書」と呼ぶことが多いでしょう。
所得税法の中にも、「決算書」という表現は見当たらないのですが、
青色申告を行う場合の様式として「青色申告決算書」という表現が用いられています。
「決算書」については、「決算報告書」と表現されることもあります。株主や役員に対して、また対外的に決算の報告を行うために、
書類の表紙に「決算報告書」という表記がされていることも多いでしょう。
市販の会計ソフトで、決算書類の「表紙」が印刷できる場合には、
表題は「決算報告書」となっていることが多いように感じます。
「決算書(決算報告書)」は、決算に関する財務書類の総称として
一般的に多く用いられています。
計算書類について
「計算書類」という表現は、
会社法や社会福祉法、またその他の法律において条文の中に明記されています。
条文を見てみましょう。会社法と社会福祉法になります。
まず、会社法です。
次に、社会福祉法です。
このように、会社法や社会福祉法その他の法律においては、条文の中に
「計算書類」という文言が用いられていることが分かります。
社会福祉法人では「計算書類」が法令上の表現になりますね。
株式会社も、会社法にしたがって「計算書類」が法令上の表現になります。
そのため、公式な文書、例えば、行政庁からの通知や事務連絡には、
「計算書類」という表現が使われていることが一般的です。
事業者が所轄庁へ提出する書類のひな型でも、「計算書類」という表現で示されていることが多いでしょう。
(参考)計算書類と計算書類等
「計算書類」という表現以外に、「計算書類等」と「等」をつけて記されていることがあります。
「等」には何が含まれるのでしょうか。
「等」についても、
上記の会社法や社会福祉法の条文から考えていくことができます。
もう一度、会社法と社会福祉法を見てみましょう。
条文の見出しには、「計算書類等」として「等」の表現が使われています。
見出しとは、条番号の上にあるカッコ書きのところです。
上記の条文の第2項には、
計算書類に含まれる書類がカッコ書きで示された上で、
「計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書」と記されています。
条文の見出しの「計算書類等」の記載と、
第2項の「計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書」から、
「等」には、「事業報告と附属明細書」が含まれると考えることができます。
財務諸表
「財務諸表」の表現については、金融商品取引法に示されています。
下は、金融商品取引法にしたがって規定されている
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」になります。
(参考)「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」を
一般的に「財務諸表等規則」と呼びます。
(連結財務諸表の場合には「連結財務諸表等規則」)
「財務諸表等規則」に定められているように、
財務諸表とは、一般的に、上場企業が金融商品取引法に基づいて作成する
決算書類になります。
上場企業で、決算書類を表現する際には、「財務諸表」という表現が使われることが多くなります。
計算書類と財務諸表
上場企業の場合には、金融商品取引法だけではなく、
会社法の適用も受けることになります。
そのため、上場企業では、会社法に基づく「計算書類」と
金融商品取引法に基づく「財務諸表」が作成されることになります。
「計算書類」と「財務諸表」では様式などが少し異なっています。
上場企業は、同じ会計データから、計算書類と財務諸表という2通りの決算書類を作成していることになります。
まとめ
上記のように、「決算書」と「計算書類」や「財務諸表」では、
表現の違いと共に、根拠法令も異なってくることが分かります。
日常会話的には、ほとんど同じ意味で用いられることが多いですが、
一方で、
3つの表現には違いがあること知っておくことで、
日常会話に用いる場合や、公的な書類を読み込む場合などの理解に役立てることができるかもしれません。
今回は、「決算書」と「計算書類」や「財務諸表」の違いを確認してみました。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。