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好きがあつまる場所
自転車のペダルを足の裏で思い切り踏んでのぼった先に、ずっと行きたかった場所があった。その本屋さんは、好きなエッセイストさんの関係で知ったのだが、電車1本で行けるところに住んでいなかったのでバスとかで行こうかなと前々から思っていて、でもバスは酔うから苦手で、といった感じで行く時間を取ることができていなかった。でも今、春休みという時間が無限にあるのではないかと思うくらいの時を過ごしていて、さらに現在ナナロク社の”詩と造本”展が開催されていて、もうこれは何としてでも行くしかないと思い、1日フリーの日に胸を躍らせながら自転車を漕いだ。
ところが、こんなにも坂があるのかと思うくらい坂に出会った。最近特に運動はしていなかったので、しかも普通の自転車で電動とかではなかったので、少し力が奪われた。(行く前にスーパーでタイヤの空気は満タンにして行ったのだけれど。)でも、たどり着きたい一心で、がんばってがんばって漕いでいると、まず服部緑地に到着した。犬がたくさんいて、多分そういうイベントだったのか、その間を通り抜ける時ほわほわと温かい気持ちになった。あんなにも犬が集まる場所、見たことも行ったこともなかったので新鮮な気持ちになった。一瞬で通り過ぎてしまったけれど、とても癒された。
そうして辿り着いたのが、”blackbird books"。角を曲がって見えた時、やっと来たんだなあと嬉しくなった。
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白い取手のドアを引いて足を踏み入れたそこに、店主がいて「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。店内は素敵なBGMが流れていて、入り口には不定期でやられているお花屋さんのお花たちが出迎えてくれた。まず目に入ったのは、蛍光の黄色の表紙が目立つ、伊藤紺さんの”気がする朝”。発売前に本屋さんでサイン本を予約して、家に届いてすぐ読み漁った本。色紙などが飾られていて、入り口で私の”好き”が溢れてしまっていた。
そして奥へ進むと、絶対に期間中にはこの目で見たいと思っていた”詩と造本”展が。ため息が溢れてしまいそうになるくらい、素敵な一面だった。右には詩が白い背景に黒い文字で書かれてあり、それがバランスよく飾られていて、見る人の感性を大切にしてくれているような、何も無駄なものを入れずにそこにある言葉を感じられるような、そういう展示と空間だった。左には、本の造りや、1冊1冊の説明が書かれてあって、ナナロク社の本を購入すると本の説明がポストカードになったものが頂けるようだった。私は迷わず、というかもともとナナロク社の本で欲しい本がたくさんあったためここに来たわけであって、どの本にしようか悩んでいた。その展示の下に置いてあった棚にはナナロク社の本が並べられていて、左にはそれぞれの本に使用されている用紙の名前だったり、フォントの説明だったり、そういうものが詳しく書かれてある付箋が本に貼られていた。その本たちは自由に手に取って見ても良いものだったので、赤ちゃんの肌に触れるかのようにそっと手に持ったりして、ゆっくり、見た。昔から、本が手に乗る感覚がすごく好きで、本を持つことで心が落ち着かされた。手に触れる紙の感覚が、本の匂いが、もちろんそこに書かれてある言葉や開かれる世界が好きで、なんなら本を読まなくても持っていたかった、読んでまた違う感情でその本を持つ瞬間も好きだった。だから、この展示との出会いはすごくそういう私の部分を受け入れてくれたようだった。
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そして何周も中をゆっくりと見てまわって、いろいろな本と対面して、4冊購入。
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そして大好きな伊藤紺さんのポストカードと、”玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ”で詠まれている歌のアクリルキーホルダーも購入。
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帰りの道のりはあっという間だった。坂を下っている自転車の籠にはずっと読みたかった本たちがあって、家に帰っても机の上にあって、それだけで満たされた。購入したものをそっと並べて写真を撮ったり、汚れないようにそっと手に持って読んだりした。
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