11 肉まんと小籠包
あたしゃ肉まんが好きだよ。熱いからね。
と、川尻こだまっぽく言ってみたが、肉まんは火傷の友である。遠慮なしにバクリとかぶりつくと、口腔内の天井(口蓋)を火傷する。まあマグマ舌の人間にとっては、それこそが悦楽なのだが。
日本では簡単に「肉まん」というけれど、それと似て非なるものに「小籠包」がある。何が違うのかは今日までぼくもわかっていなかったが、いま調べてみたら生地が違うのだそうだ。
肉まんは小麦粉にイースト菌を入れてふっくらさせており、小籠包は水と小麦粉だけで練っている。つまり肉まんはパンに近く、小籠包は餃子に近いというわけだ。
肉まんも小籠包も、どちらも周辺の小麦粉部分(これをぼくは“まん”と呼んでいる)で火傷することはない。なんぼ蒸したてでも“まん”では火傷しないのだ。
問題は、その中に詰まった“あん”の方である。漢字で書くと「餡」。
コンビニで売られる肉まんは保温機に入れてあるだけなので、そこまで熱くない。しかし、中華飯店などで食べる小籠包は蒸籠(せいろう)で蒸したてのものが出てくるから、驚くほど熱い。とくに小籠包は「あふれる肉汁!」を売りにしている店が多く、危険度は一層高い。ガブっと噛んでジュワッときてアジャジャジャジャー! である。
例によってここで「マイファースト肉まん」がいつだったかを振り返るのだが、おそらく中学校帰りのコンビニで買った肉まんだろう。いや、まだ酒飲みになる前だから、肉まんではなくてあんまんの可能性もある。
そう、コンビニの肉まんはそんなに熱くないが、あんまんはその比でないくらい熱い。あれは日本全国で数多くの部活帰りの学生の口腔内を火傷させているに違いない。
いま深く考えずに「コンビニ」と書いてしまったが、ぼくが中学生の頃は町にそれほどコンビニが乱立している時代ではなかった。ということは、マイファースト肉まん(もしくはあんまん)を買ったのはコンビニではなく、パン屋さんとかデイリーヤマザキ的なデリカショップの店頭にある保温ケースからだったのかもしれない。いまとなっては調べようのないことだ。
関東では肉まんと呼ばれているものが、関西へ行くと「豚まん」になる。いまや豚まんの名店として関東にもその名を轟かす「551 HORAI(蓬莱)」の豚まんは、行列必至の人気店だ。大阪出張の帰り、新大阪駅構内にある551の売店でお土産に豚まんを買おうとしたら、行列で長いこと待たされて新幹線に乗り遅れそうになった、なんて話はよく耳にする。
新幹線車内で食べたいのなら、新大阪駅で暖かいのを買いたい気持ちはわかる。でも、車内であれを食われると、周囲の人にはすごく匂うんだよね。どんなに美味いものでも、他人が食べているものはとても臭く感じられるもの。そこは注意が必要だ。
ぼくが大阪から帰る際は、あくまでも自宅へのお土産として豚まんを買うので、暖かい必要はない。以前、大阪へ出張したとき、移動の途中で十三に立ち寄ったら駅のホームに551の売店があって、そこは誰も並んでいなかったので余裕で買えたことがある。まあ、いまは大阪まで行かなくたってネットでも買えるんだけど。
再び小籠包の話。いま日常的に小籠包を食べられる場所としては「揚州商人」がある。我が家から歩いて行けるところにも支店があって、ありがたいことに朝の4時半までやっている。だから、寝る前に「軽く火傷でもしておくか!」という希望も叶えることができる。
揚州商人における現時点での小籠包のメニューは、レギュラーが「夢ごこち豚肉小籠包」という名前だ。2個セットが390円(1個あたり@195円)、4個セットは760円(@190円)、6個セットで1,130円(@188.3円)というように、195円→190円→188.3円とスライド式に安くなっていく。1000個くらい頼んだらタダになるのかもしれない。
このレギュラー小籠包の他に、「海老入り」「トリュフ入り」といったバリエーションもある。割高なぶん温度も高いならチャレンジする価値があるが、値段と熱さは無関係なのは言うまでもない。とはいえ意地汚いぼくは、ひと通りの味を試してみたくて「3種盛り小籠包(680円)」を頼むことが多い。レギュラーの「豚肉小籠包」「海老入り」「トリュフ入り」がそれぞれ1個ずつセットになっているのだ。3種の違った味で異なった味わいの火傷をすることができる。
これまで何度もクドいほど書いているが、味よりも何よりも「温度」を最優先するぼくは、最近では地元のスーパーで買える冷凍肉まんが重宝している。うちの地元で買えるのは3個入り429円のシロモノで、1個あたり143円。揚州商人の小籠包より倍近く大きなサイズで、1個あたりの値段は40円も安い!
冷凍肉まんの温め方は簡単だ。
蒸籠に水を張って蒸してもいいし、ラップをかけてレンチンしてもいい。ただし、蒸籠だと仕上がりのときの湿気が強すぎたりするし、レンチンだと本体の隅々までには加熱が行き届かなかったりする。
それを防ぐためにぼくがよくやるのは、水道水を冷凍肉まんの全体にまとわせることである。蛇口から流れ出す水流に、冷凍肉まんをザバアと潜らせる。全体ビチョビチョ。でも、それでいい。これを皿に載せて電子レンジへ入れるわけなんだけど、肉まんと皿が密着していると、底面の温度が上がりにくい。確実なのは皿に菜箸などを並べて、その上に肉まんを乗せる方法だが、面倒なときは肉まんよりひと回り小さい皿にそのまま載せてやれば、自然と底面に空間ができるので、それだけでも十分に熱々となる。
いつからか、コンビニの肉まんにはおかしなバリエーションが増えていった。ピザまんとか、キーマカレーまんとか、とろたま牛すきまんとか……。でも、食べたことはないですね。食べようとも思わない。
いずれこのこともちゃんと書こうと思っているが、ぼくは食に対してだけは異常なまでに保守的なので、味の冒険はしない。コンビニで買って食べるのは肉まん、ただそれだけでいい。