自分の道を歩き続けるということ
「やりたいことがないんです」
2022年12月。
ボストンで対話会に参加していた、とある高校生がそう言った。
でも私にはその子にやりたいことがないようには見えなかった。
その日に会って、寒くなり始めた芝生の上でみんなで輪になって自己紹介して、海外で学ぶことについて話しただけだけど、その子の瞳の奥には絶対に何かあるように見えたのだ。
その夜、私は詩を書いた。
私は知らなかった。
半年後の2023年の6月から7月にかけて、その言葉は私自身に跳ね返り、自分も「やりたいことが分からない」という状態になることを。
時を半年進めた2023年6月から7月にかけて、私は桃源郷の中にいた。
この一年間休む暇もなく大量の課題を読み、授業に通って教授や同級生と議論し、レポートや発表資料をつくり、長期休暇になるとその様子をnoteにまとめてと、ひたすら読み書き話す生活をしていた。
日本ではあんなに買っていた洋服も買えないし、外食も高いのでほぼ毎日お米を炊いて食べる。特に冬は家と勉強する場所の往復しかしないので、大したものを食べていないのに太った。視力も落ちたし、白髪も増えた。
それでもこの一年間が、自分の人生の中で心が一番健康だった。
毎日朝起きることを苦痛に感じることはなく、秋にコロナに罹った以外はどんなに寒くてもまったく風邪を引く気配がなかった。
今まで旅行が大好きで、いまだに新しい場所に行くのは好きだけれど、毎日が学びと発見に溢れて旅のようで、今までのように自分のA面の気晴らしに綺麗なものを見に行く必要がなくなった。
そんな生活が終わってしまった。
私はすぐ日本には帰らず、研究を手伝いながら一時的にボストンに残ることを選んだ。
周りの同級生も進路が決まっている人は少なく、突如終わってしまった学生生活を前に、ボストンという地で宙に浮いているようだった。
桃源郷は原っぱのようだ。頭上の空は青い。風がそよいでいる。
私は白いブラウスにジーパンを着て、顔に当たる日を麦わら帽子で除けながら、原っぱの上に寝そべっている。
地平線のさらに先に何かが見えるような気がする。
でも周りには私しかいない。
私はこの桃源郷から出てもいい。でも、ここにいてもいい。
出る意味はあるのだろうか。
ここにいることは甘えなのだろうか。
ここは間違いなく桃源郷だ。
でも桃源郷なのに、なぜか幸せではない。
あんなに毎日エネルギーに突き動かされて生きていたのに、桃源郷に来たらやりたいことが分からなくなってしまったのだ。
せっかく大学院に来たのに、逆にやりたいことが分からなくなるなんて、留学に来た意味があったんだろうか、と思った。
でも留学に来なかった世界線を想像してみると、それもあり得ないと思う。
この一年間を振り返って思い浮かぶのは、授業も同級生も教授も自分に合っていて、かけがえのない時間だったということ。
そして周りの家族や友達も、コーチ業はしていないのに話す機会があると「楽しそうだよ」と反映してくれたこと。
留学を終えて、自分の人生をどんなものにしたいか。
留学が始まったときは、留学が終わるときには何もかも決まっていて、その後の人生が明確に分かるものだと思っていた。
でも一年間ずっと白い世界を歩いていて分かったのは、もしかしたらこの留学期間は白い世界、直感の世界を歩く予行練習だったのかもしれない。
世界から集まる人々と研究を続けたいかもしれない。
自然の中で新しい社会や文化を創りたいかもしれない。
今まで思いもよらなかったことに興味を持つかもしれない。
この二ヶ月間、どれが世間から聴こえる声で、どれが自分の声なのかにずっと耳を澄ませてきた。
それでもまだ、自分がエネルギーを思い切り流したい方向が見えていない。
多分一度、桃源郷とおさらばしないといけないのだと思う。
だから私は一度、日本に帰るということを選ぶ。
色々な人と話しながら感じたことを大切にできるといいなと思っている。
留学を完了するにあたって、最後に一つ思うこと。
「『20代でやり残したことはある?』から始まったジャーニー」の記事の中で心配していたことは、この一年間無事達成したよ、と。
一年間離れ離れだった夫とも、毎週Zoomで話して、二回も直接会うことができたよ、と。
一年に一度しか会えないことで有名な織姫と彦星。
この一年間を経て思う。
織姫と彦星が主体的にそのライフスタイルを選んでいたとしたら、七夕の物語はどう変わるのだろう。
一年間に一度会うことがベストだと思ったから、それぞれの場所でいつも輝いているのだとしたら?
この一年間、世の中には色々な生き方があることを知った。
そして自分は、自分の直感に従って、自分らしくしか生きられないのだということも。
私はまだまだ、私という名の物語を綴る旅路の途中なのだ。
一年間noteで留学について綴ってきましたが、一つお知らせです。
アメリカでの生活を心に残すために、帰国後にボストンで聴こえた声を元にしたZINEを作成しようと思っています。
完成したらまたnoteでお知らせしようと思うので、ぜひ楽しみにしていただけると嬉しいです。
最後に、このnoteはコーチングを学んでいるTHE COACHの仲間と、半年に一度集まって書いているアドベントカレンダーの16日目になります。
ちょうど一年前、留学に旅立つ前日に「『20代でやり残したことはある?』から始まったジャーニー」を綴り、半年前に「人生のすべてに意味がある」を書き、今回が修士課程の留学の最終章になります。
まーさん、りみさん、THE COACHの仲間の皆さん、半年に一度定期的に振り返りをする楽しい機会をありがとうございました。
「星座」をテーマに文章を書いている仲間のnoteも素敵なので、ぜひ合わせて読んでみてください。