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ICTに取り残された教員たち: デジタルディバイド②

 前回はオンライン講義の波に乗れなかった学生と教員への不安を書かせてもらった。20年前、電子メールが仕事で使われる様になったとき、似たような状況であったことを思い出した。デジタルディバイドはいかにして解決したか。そして、問題は大学だけの問題ではないようだ。(小野堅太郎)

 今でこそ様々な学内事務連絡が電子メールを通じて届くようになったが、20年前は電子メールで連絡することに否定的な教員がいて、紙に印刷した文書を要求されることは多かった。内容は全く同じなのだが、印刷した文書の上部に所属と名前を書き込んでから、学内郵便の分類棚に文書を入れるという手間をかけていた。

 メールとの併用を数年続けて、折を見て電子メールにすべて切り替わることになる。年齢が上の教員でも、多くは電子メールが普通に使えたが、頑固な教員はメールを使えないまま定年退職となった。振り返ってみると「メールを使えない教員がいなくなった」ことが、メールの全面切り替えには重要であったと感じている。ICTは新しい習慣の導入であり、ついてこれない人たちは組織内のICT普及を大きく妨げることになる。一人使えないだけで、旧来の情報伝達法を併用しなければならず、作業の効率化は全く図れない。当時はIT革命だとか言っていたが、現場はITを使えない人への対応があったため、非効率的な革命であった。

 昨今のICTにおいて大きな変革となったのは、スマートフォンの普及である。20年前のパソコンがポケットに入るようになった。メールは形式ばった堅苦しいものになり、古くはパソコン通信や2チャンネルのような、いや、もっと簡素化したLINEとなって、用件だけのやり取りが可能となっている。社会で爆発的に普及し、子供も使えるようになっているこの世界において、日本の教育現場はICTから完全に取り残されているのではないか。

 大学はなんだかんだ言って、かなりの大学がオンライン講義に踏み込めたが、悲惨だったのは、小・中・高校である。なぜかというと、生徒・学生のICT環境が大学生ほど整っていなかったからだ。スマホやパソコンがなければ、どんなに教員が頑張ったとしてもオンライン講義などできない。ICT教育に関して優先事項をつけるのならは、それは大学ではなく、小・中・高校、特に高校が最優先である。

 noteではICT教育に取り組む多くの先生方の試みが綴られていて頭が下がる。しかし、noteを利用している方たちである。実際の教育現場では、ICTに理解を示さない他教員の中で奮闘されているに違いない。

 福岡県ではようやくいくつかの公立高校でスマホの学内持ち込みが許可されたようであるが、保守的な考えを持つ学校はまだ不可である。教育への利用はほぼされていないと思われる。学校から禁止されていてもかなりの高校生がスマホを持っている。高校の言いつけを守って高校時代までスマホを触っていなかった大学1年生は、2020年4月、慌ててスマホやパソコン、タブレットを買い求めただろう。

 ちなみに7年前の留学時に子供三人を連れて行った。通ったアメリカの小学校へは、スマホかタブレットを必ず持参しなければいけなかった。翻訳アプリによる授業補助が目的であったが、他のネイティブの子供たちも所有しており、Facebookで放課後も生徒同士でのやり取りが行われていた。

 日本では子供のSNS使用によるいじめなどの問題が取りざたされ、ICTが危険なものの様に取り扱われている。確かにわが家庭でも様々な問題が起きた。有料コンテンツへの使い込み、YouTubeへの謎の動画投稿、SNSやゲームばかりで勉強しないなどなど。しかし、使い方を誤らなければ勉強にも遊びにも非常に有用なツールである。

 ICT普及は感染症のおかげで急速に広まり、20年前の電子メール導入とは桁違いに早い対応を求められている。デジタルディバイドの問題は加速し、教育現場での教員たちはICTから目を背けることは出来ない。ICTを使いこなす若い世代へのSNS倫理教育と活用法を、受験勉強並に教育していく必要がある。電子メール世代の40代以降の教員はできるだけICTに対応することで教育の質を上げていかなければならない。

 いずれはデジタルディバイドは先進国間でも問題になってくるだろう。英語力の問題と合わせて、ICTに関する日本の教育はこれでいいのか。


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