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酢ばらしき日々 vol.1【菌女の日常】

去年、初めて柿酢作りに挑戦した。

簡単に説明すると、柿を適当に切って瓶に詰め込んでおけば発酵が始まり、酢が出来上がる。

柿酢は市販の酢では味わえない、まろやかで上品な旨味がある。

生きた酢酸菌がたっぷり含まれているし、殺菌しない限り発酵は進むので、時間が経つにつれてその味わいの変化を楽しめるのは自家製らではの究極の醍醐味だろう。

この柿酢を種酢として、今年はビール酢とあんず酢を仕込んだ。
種酢というのは、生きた酢酸菌を含む酢のことを言う。

酢酸菌は販売されてないので、自分で種酢を作って培養するしかない(近年では酢酸菌を含む濁り酢も販売されているので、もしかしたら種酢になるかもしれないが)。

本当は種酢も自分で作ってみたかったのだが、非常に苦戦し、結局は柿酢を作って種酢としても利用している、というわけだ。

7.5キロの柿から、4リットルもの大量の柿酢が出来上がった。
一人暮らしにしては充分すぎるほどの量多だが、普段使う分と今後の酢の仕込みのことも考慮した上での、あえての大容量なのだ。

去年手掛けたかったビール酢とあんず酢の仕込みが、一年遅れでようやく実現したのだ。
とても嬉しい!

夏は酢を仕込むのに最適な季節なので、今のうちにと、昨日から大豆酢を仕込み始めた。

もうすぐ秋だし、また柿の時期が到来する。
今年もまた、柿酢を仕込む予定だ。

酢酸菌と生活を共にしていると意識すると、なんだか嬉しくて、ゾクゾクワクワクする。
我が家の猫たちとは違う、でも、自然の一部として共生してるのだ。
みな、コスモスの一部。

この夏は塩水で発酵させたピクルスも頻繁に作って食べているし、納豆も大好きで毎日食べている。
味噌も醤油も麹から仕込み中だし、これまでの私に菌女(きんにょ)としての人生が、確実に上書きされ始めている。

健康のために菌活を意識しているとか、そんなつもりで菌女になったのではない。
酢を作り始めたら、次は味噌や醤油も作ってみようと、連鎖的に意欲が湧いたまでだ。でも、菌が菌を呼んだ可能性は、なくもない。

発酵食品作りにいそしむ人々の気持ちがよくわかったのだが、皆さん、菌に誘われた自覚はおありなのだろうか。
ぜひ聞いてみたいところだ。


では、私がなぜ酢を作ろうと思ったか?
そのきっかけは、酢玉ねぎの存在に始まる。

母が去年、手料理を持って我が家に遊びにきた。
「これ、美味しいのよ。たくさん作ったから置いていくね」と手渡された瓶の中に、酢玉ねぎなるものが入っていた。

行きつけの美容室に置いてある雑誌でレシピを見かけ、作ってみたらその美味しさにハマり、いろんな料理に使っているのだと嬉しそうに語った母。
その日は鯖缶と酢玉ねぎを和えた料理をいただいたが、確かにとても美味しい。

「私も作ってみるね」
そう言ったわりに、私はなぜだか酢玉ねぎではなく、酢を作ってみたくなった。なに、この流れ。

酢は自分で作れるのか?

調べていくうちに、市販品の酢には酢酸菌が含まれていないことがわかった。軽い衝撃。知らなかったよ、その事実。
酢について考えたり調べたりしたことないから、知らなくてもおかしくはないのだけれど。

ネットでたまたま酢作りの本を発見し、購入して読んでみた。ら、この本がすごく良くて。

著者である永田十蔵さんの語る言葉からは、酢作りへのこだわりや思いが存分に感じとられ、私の内にある創作意欲の引き金がひかれた。
酢はさまざまな食材から製造可能でバリエーション豊かだし、しかも酢酸菌も生成できると知ったからには作らないわけがない。

ここから私の酢作り、改め菌女としての人生は始まりを迎えたわけで、永田さんとの出会い無くしては酢酸菌などの微生物に注目することもなかったろう。

何より、酢玉ねぎを教えてくれた母にも感謝するに尽きる。

酢玉ねぎとの出会いが、酢作りへの好奇心をもたらしてくれたからだ。
この時点ですでに、酢酸菌に呼ばれていたのかもしれない。

そして、柿酢の中の酢酸菌が私の体内へ吸収され、さらなる菌生成ネットワークへと導く。

酢酸菌に煽られているのか。はたまた、私の細胞が求めているのか。

「モット、モット…」

どちらにせよ、『酢酸菌を増やしたい』のは間違いないだろう。


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