読書会『街とその不確かな壁』開催レポート
今回は、特別企画として国の重要文化財の自由学園明日館で読書会を開催しました。
参加者は主催を入れて6名です。そのうち初参加の方が4名でした。
はじめに一読しての感想や疑問を言ってもらい、次に挙がった疑問に対する意見をみんなで出し合いました。
感想
・今回は、村上春樹さんは主人公から遊離して、小易さん視点にいるのではと感じた。村上さんも私設図書館みたいなものを作っているし。
・いつもの春樹作品よりも読者に優しいと感じた。ガルシア・マルケスとの類似点など気になった。
・いつまでも浸っていたい世界観だった。疑問としては、16歳の少女にとって、主人公は大切な存在ではなかったのだろうか。もし大切な存在だったら、少女は自分が壁のなかの街にいるとは思わなかったのではないか。
・この小説のなかに現実と非現実があるが、現実と言われる世界も言葉づかいなど、やや非現実的に感じる部分があった。
・春樹作品を同時代に読める喜び。そうそう、この味、という感じがした。メタバースの世界との関連を考えた。
挙がった疑問とそれに対する意見
Q、なぜ図書館が舞台なのだろう。本屋ではダメだったのか。
→図書館は本を収蔵する場所。本屋は本を売る場所。そのため、図書館のほうが人の思いが滞留しやすいのではないか。
Q、壁に囲まれた街はどんな街だろう。
→一見天国的な場所であるが、実は不自由があったり、弱いものの犠牲があったり、現実世界とそこまで変わらないのでは。
Q、壁に囲まれた街は本当に存在するか。
→街の壁は魂にとっての疫病から守るためにある。現実世界で、自分を守れないときに行ける場所として、そういう世界があることを信じたい。
まとめ
これ以外にも、イエローサブマリンの少年を発達障害と簡単に規定していないところが良い、という意見があったり、背景にビートルズの曲が流れていると感じた、という興味深い意見もありました。
参加者の多くの方が、本作の特徴を“二項対立ではない世界観”だと言っていました。現実と非現実、壁の内側と外側、本体と影。一見、それらの二つの間には大きな境があるような気がしますが、実はその境はとても薄い(あるいは無い)のかもしれません。
壁の内側にも犠牲があり、理想郷ではないですし、小易さんが言っているように、本来、本体と影は入れ替わっていくものです。
主催としても、現代(決まったレールのない社会)を反映している小説だと感じました。
参加してくださった皆さん、本当にありがとうございました!
次回は7、8月頃に開催できればと考えています。(課題本は未定ですが)