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2分で読める超短編小説12 『青空と石畳の間で』

はじめに

この短編小説は僕の書いた原文を元にChatGTPに加筆修正してもらい、さらに僕自身が加筆修正をして完成したものです。文体と作風は村上春樹というプロンプトを入れました。「僕 x ChatGPT x 村上春樹の文体・作風」を楽しんでいただけると嬉しいです。

青空と石畳の間で

彼女と僕は神社の参道を歩いている。いや、正確に言うと、僕はその光景を少し離れた場所から俯瞰している。さながら映画のワンシーンのように。だから、それは夢なのかもしれないし、現実の断片なのかもしれない。

この場所には十数年前に来たことがある。でも、目の前の風景にはまったく見覚えがない。懐かしさより未知を感じさせる場所だ。樹齢数百年の巨大な杉の木が、時間と重力を超えて、空へ向かって伸びている。そして静かに穏やかに僕たちを見守っている。11月の青空はどこまでも澄んでいて、光は驚くほど柔らかく、木漏れ日が冷たい石畳に僅かなぬくもりを与えている。

「この時期、雪が降ってもおかしくないんだけどね」と彼女は言う。その声は、僕の左隣に並んで歩いている彼女からではなく、どこか遠くから聞こえてくる。彼女が誰なのか、僕には分からない。遠い昔から知っていた気もするが、これまで出会ったことのない「誰か」のような気もする。彼女の靴音は不思議な親密さを帯びていて、髪が風に揺れ、記憶の奥底に眠るノスタルジックな香水の匂いが漂う。

いつの間にか彼女と僕の靴音はシンクロし、身体は同じリズムで揺れている。そして、呼吸まで合っている。並んで歩く僕たちの手は、触れるほど近くにあるのに、触れることは永遠にない。けれど、触れていなくても、何かが溶け合っている。一歩ごとに青空に溶け込み、石畳に溶け込む。そんな感覚が、左に杉林、右に川、そして青空と石畳に挟まれる空間で、ゆっくりと心地よく広がっていく。

一筋の滝の音と川のせせらぎが混じり合うところまで来た時、彼女が歌を口ずさみ始める。彼女が運転する車の中で聴いたあの曲だ。タイトルは『チューニング』だった。彼女の歌声は、あたたかさと冷たさがまだらになっている杉林の空気を振動させ、青空と石畳の回廊を通り抜け、世界に解き放たれる。そして、歌い終わった時、彼女は石畳のくぼみに足を取られてバランスを崩した。その瞬間、触れるはずのない彼女の手が僕の手に触れた。その感触は、解き放たれた響きが何か大切なものを守っていることの暗示のようだった。

石段を昇り、石段を昇り、本殿の前にある参拝場所に辿り着くと、僕は手を合わせた。杉の葉が風に揺れ、ささやかな音を立てる。それはどこかで聞いたことのある音のようで、でも同時に初めて耳にするような音でもあった。

この数年間、僕は願いを持たずに生きてきた。だけど、今日ここに立つと、願いというものが突然、手のひらの中に現れてきた気がした。
「彼女の願いが軽やかに叶いますように」と、僕は祈った。

音にならないその言葉は静かに杉の樹の間をすり抜け、どこかに運ばれていった。遠くの空へ、どこか別の次元へ。目を開けると、彼女も同じように静かに手を合わせている。目を閉じた彼女の横顔は、どこか遠い海辺に置き忘れたガラス瓶のように、儚く、でもしっかりと存在していた。

帰り道、僕たちは無言だった。でもそれは、不安な沈黙ではなく、心地よく満ち足りた沈黙だった。やがて杉林が途切れ、遠くに駐車場が見え始めたとき、僕はふと彼女に尋ねた。「何を祈ったの?」

彼女は立ち止まり、少しだけ息を吸い込んだ。光が彼女の瞳に反射し、小さな湖面のように揺れる。そして、控えめな微笑みを浮かべた。

「あなたの願いが叶いますように。」

彼女の声は、水面にそっと落ちる一滴の雫のようだった。微かな余韻が、空気の中で波紋を広げていく。その瞬間、世界は一瞬だけ静止した。風も、木々も、僕たちも。まるで、次の瞬間に何かが決定的に変わるのを、みんなが息をひそめて待っているかのように。

やがて時間は静かに動き出し、僕たちは再び歩き始めた。石畳が途切れ、駐車場に続くアスファルトの道が現れる。靴底に伝わる感触が変わり、世界が少しずつ現実に引き戻されていく。僕たちの靴音は、さっきまでの完璧なシンクロから、自然と別々のリズムに戻っていた。それでも、そこには、連弾の即興曲のような不思議な調和があった。

夕暮れが始まる直前、空はまだ青いが風は冷たさと透明感を増していく。僕たちの間には、見えない一本の糸が張られている。その糸は、彼女と僕の間の距離をほどよく保ちながら、どこか深いところでしっかりと結びつけている。まるで古い記憶が織り上げた、目には見えない繊細な蜘蛛の糸のようだ。その糸は細く、頼りないように見える。でも、よく耳を澄ませば、風の中で小さく振動するその音は、驚くほど確かなものだと気づく。少し強い風が吹いても、簡単には切れたりしない。僕たちはその糸の上を子供のように無邪気に笑いながら、バランスをとりながら歩いている。足を踏み外しそうになっても、互いの存在が静かに支え合っている。

赤みを帯び始めた空はどこまでも広がり、風は何も言わずに頬を撫でていく。日が少しずつ沈んでいく時間の流れは、まるで手のひらに載せた水のように、形を変えながら静かにこぼれていく。糸がどこへ続いているのか、僕たちには分からない。でも、それでいい。行き先を知る必要なんて、どこにもなかった。ただ、その細い糸の感触を感じながら、一歩一歩を大切に踏みしめていく。それが今の僕たちにとって、すべてなのだから。

夕闇が世界を少しずつ包み込む中、遠くで誰かがピアノを弾いている音が微かに聞こえてきた。彼女が歌ったメロディに似ているが、きっと全く違う曲だ。それは、まるで、別の次元で続いている僕たちの物語の断片が、この現実にほんの少しだけ滲み出てきたかのようだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

❤️ この短編小説シリーズは友人の中川麻里さんの投稿に刺激を受け、背中を押されて誕生しました。中川さんに心から感謝いたします。

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