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棚貸し本屋の店番日記 #0 きっかけのこと
図書館でビールを呑みたいのです。
暮らしている街の図書館、やってやれないことはありません。
ほとんど人が来ない官報の棚のあたりなら、そっとプルタブを引くことができます。350ml缶なら、秒で空っぽです。
周りに人がいる学習席だって、グラウラーならしれっと呑めるでしょう。図書館で頂くクラフトビール、響きだけで2割増しです。
だけど私が求めているのは、そう言う後ろ暗いシチュエーションではございません。
皆さんも、図書館で感じたことはないでしょうか?
知を求め集まった人々から発せられる、
静かだけど確かな熱を、
そして、
書架に並ぶ本たちの、
手に取られ、読まれるのを心持ちにする気配を。
そんな空気に浸りながら、ゆっくりとグラスを傾けたいのです。
普段のお酒と人間関係において「後ろめたさ」はスパイスになりますが、この場合はチト違うのです。
だったら「ビールが呑める大人の図書館」があればいいと思い付き、定年を迎えたら、そんな遊びを始めようと思っていました。
夜ごと本と酒を愛する大人が集う、路地裏の隠れ家。
想像するだけで楽しくなります。
だけど心の中ではこんな風にも思っていました。
「これはきっと言い訳だろう」って。
私にとって「定年後の夢」は、色々なことを曖昧にしてくれる、都合のいい装置だったのです。
現実とのがっぷり四つはしんどいもの。だからですかね、未来にぶら下げた人参を餌にして、日常の厄介ごとと折り合いをつけてきました。先延ばしの夢ってやつです。
それに何と言いますか、暮らしている限り大なり小なり傷はつきますし、当然つけもします。忙しく過ぎる日々の中、わざわざ自分の、それもアルコールにまみれた願望のために痛い目を見るのは、まっぴらだと思っていたんです。
でも気づいてしまいました。
これまでしんどくない状況も忙しくない状況も無かったことに。
そもそも脛に傷を持つ身、今さら傷がひとつ増えたところで変わりはしません。何より歳をとってからの怪我は、致命傷になりかねないと。
だから先延ばしにせず、できるところから始めることにしました。
あらためて自己紹介をすると、私は諦めるのが得意な人見知り、お小遣いでやり繰りするアルコール中年です。変に勢いづいて行動を起こせば、足がもつれるでしょう。
立ち位置が明らかになったので、無理なく少しずつ、やれそうなことから手を出します。
何となくの感覚で根拠もありませんが、地道に行動を積み重ねていけば、3、4年後ぐらいには私設の図書館、マイクロ・ライブラリーを開設できる気がしています。
さて不思議なもので、心が決まると出会いが訪れるらしく、情報を集める中で、西日暮里 BOOK APARTMENTさんという棚貸し本屋の存在を知りました。
「求めよ、さらば与えられん」
さすがはイエスの旦那、言い得て妙でございます。
こうして1箱本棚のオーナー、棚主になってみました。
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こちらでは店番も出来るそうなので、お店に立てば、お客様の様子を知ることができます。まずは本への関わりを増やすことで、視野を広げていく算段です。
ビールが呑める大人の図書館、そんな遊びのために始めたこのマガジン。他の記事と同じく得るものはなく、中年が行きつ戻りつする様をご覧頂けます。
華々しさはございません。夢オチで終わる可能性もあり得ます。それでも皆様の興味の端に引っ掛かりましたら、気長にお付き合い頂けると幸いです。
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