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掌編・短編集

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単発の掌編、短編小説を集めたマガジンです。様々なジャンルを展開します。
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#恋愛小説

祈りの声が響く 〜たしかなことばをつづれ another tale 3

「どうしよう」 くぐもった遼太郎さんの声。彼に頭から抱きかかえられている。 街角の路上。 行き交う人達も特に気にすることはない、クリスマスの夜。 「どうしましょう」 私も合わせるように言った。たぶん同じことを考えている。 「離れたくない」 「…はい」 それで、一緒にメトロに乗り込んだ。 * * * * * * * * * * * 遼太郎さんにしばらくぶりに呼び出された。 彼は6つ上の元上司で、ずっと憧れの存在だった。 私が今年退職した後、偶然街で再会し、それをき

ネコのロドリーグ ~たしかなことばをつづれ another tale2

「義兄さん、またよろしくお願いします!」 主のハルヒコが旅に出る時は、ボクを姉夫婦の家に預ける。 ハルヒコは一人暮らしを始めてから、ボクを飼い始めた。 名前はまだな…いや、あるよ。 ロドリーグ。 雄で、ロシアンブルーが混ざっている(かもしれない)雑種ネコ。 保健所でハルヒコに拾ってもらったんだ。 ロドリーグとは、ハルヒコが好きなフランス映画「アメリ」の中に出てくる猫の名前から拝借したらしい。 映画の中でも、客室乗務員をしているアメリの友人が、長期勤務の時はアメリの元に預

【掌編】クリスマスだからって言うわけじゃないけど

「じゃ、お先に失礼します!」 部下が笑顔で颯爽と帰っていく。 「クリスマスイブともなると、若い人は帰宅が早いねぇ」 近くにいた中堅社員が、そうぼやいた。 ”そうか、今日はクリスマスイブなのか…” 夏希の顔がよぎり、思わず一人苦笑いする。 そんなイベントに浮かれたりする自分ではなかったはずだ。 定時を過ぎたが、まだしばらく上がれそうにない。 引継ぎを伴った業務整理しかり、師走ともなれば尚更だ。 暫くの間ドキュメント作成に没頭していたが、ふと思い立ち、休憩をするふりをし