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父と交流のあった鳥羽一郎さんの馬の信じ難い話
久しぶりに父関連の話をしましょう。
というか、今日は父は脇役です。
以前も何度かお話ししての通り、パンチパーマにヒゲ、頬に大きな傷がある、登戸界隈ではとにかく目立つ私の父でしたが、仕事はテキ屋…ではなく、舞台照明:照明プランナーという仕事をしておりまして。
演歌の歌謡ショーを中心にその日の照明をどのようにするか?という設計士みたいなことをしていた訳です。
主なクライアントとして美空ひばりさん、劇団四季、レゲエジャパンスプラッシュ、声優の桜井智さんのようにえらく幅が広かったんです。
美空ひばりさんが亡くなった後は、島倉千代子さん・鳥羽一郎さんが主なお客様だったのですが、これは私が高校生の頃の話です。
その鳥羽一郎さんですが父と懇意にしていまして、出身の三重県鳥羽市に父や他のスタッフを招いたこともあったようで、偶然にも父のことを「親方」って呼んでいたらしいんです。
その後息子の私が相撲ライターやるなんて聞いたらかなり笑える話なんですけど、これも後から知ったんですが、鳥羽さん相撲がお好きらしいんです。で、元両国の境川親方が部屋を興した時に花なんか贈っていたみたいで。
ちょっと脱線しましたが、その鳥羽一郎さんが今日の主役です。
鳥羽一郎さんなんですけど、相撲もお好きなんですが、実はギャンブルもお好きだったみたいで、海外行ってカジノなんかやるわけです。
で。
ちょっとした身内ネタのゴシップ情報として「看板(鳥羽さんのことです)、数百万やられたらしいですよ」なんて話が出てくるんです。
昔ながらの芸能人らしい話じゃないですか。
まぁ奥様にはしこたま怒られたらしいんですけどね。
そんな中、90年代中頃ってちょうど、おや?と思うような芸能人の方が競馬の馬主に立て続けになられていた時期だったんです。
結構覚えているのが陣内孝則さん。
割と勝った馬を持っていたんですよ。
あれってかなり維持費も掛かりますし、普通の収入じゃ持つことが出来ないんで、カジノで数百万いかれても奥様に超怒られる程度で済んじゃう看板(鳥羽さんのことです)であれば馬主くらいにはなれる訳です。
丁度父が鳥羽さんの仕事をし始めたくらいの頃には既に馬を持たれていたんです。
確か、ユメシンザンっていう名前でした。
3冠馬シンザンの孫で、2冠馬ミホシンザンを父に持つ馬。
そう聞くとえらく強そうに聞こえますけど、こういうタイトルを持っている馬ってちょいちょい出てきますし、優秀な子を輩出するかどうか?っていうこととは連動しない場合も多くて。
まぁ、このユメシンザンが走らなかったわけですよ。
一度も勝てませんでした。
馬って年間10000頭くらい生産されるので、走る馬も居れば走らない馬も居て、ほとんどすべてが走らないからもうこれは仕方ないんです。
ただ。
この時代なんですけど、バブル崩壊後とはいえまだまだ日本経済が元気なころだったんですよ。
馬主さんたちの間で一つのトレンドがありました。
それは、海外から馬を買ってくるというものでした。
当時って、日本の馬産と欧米との間に差があって、追いつけ追い越せでやっていた頃だったんですよ。それゆえ、海外から買ってきた馬は「マル外」なんていう括りがあって、出られるレースが限られていた。
つまりね。
それくらい海外の馬が走るということで。
そして、我らが看板(鳥羽さんのことです)も海外から馬を買ってこようということになったんです。
そして買ってきた馬こそが
カサブランカボギー
だったんです。
カサブランカ…
ボギー…
期待の馬にしては…っていうネーミングなんですけど、これは鳥羽一郎さんの仕事をしている家庭の息子であれば理解できるところではありまして。
当時鳥羽一郎さん、カサブランカグッバイという曲を出していたんです。
この曲をご存じの方は相当な鳥羽一郎フリークではないかと思いますが、実は1996年と1997年の2回紅白歌合戦で歌っているんですよ。
つまり、今何とかして売りたいカサブランカグッバイに紐づけて、今の鳥羽一郎のベストというべきもの。それがカサブランカボギーという名前にも表れているということです。
ちなみに何故ボギーなのか?というのは長年の疑問でしたが、どうやらそれは名画である「カサブランカ」に出演していた主演俳優:ハンフリー・ボガードの愛称のことのようです。
つまり「カサブランカ」からの連想ということですね。
そんな訳で、カサブランカボギーですよ。
カサブランカボギー。
元々このカサブランカボギーを鳥羽さんが購入したという話を父から聞かされていまして、テンション上がっていたんですよ。
どうなんだろう。
カサブランカボギー。
そんな風に思っていたところ、父から
おい克洋、今週末にカサブランカボギー出るらしいからテレビで見るぞ
と言われまして。
おお、
遂にデビューか
ということで、さてどうなるかと父と当時最新鋭だったワイドテレビ、画像をダイナミックにするために9.16(っていうのかな?)に本来の画像を横に引き延ばす謎のテレビで、しかもテレビ神奈川で見届けることにしました。
我が家は神奈川の端ですから、テレビ神奈川(TVK)はとにかく映りが悪くて、でも当時はグリーンチャンネルみたいな専門チャンネルも無いですし、あとの方法はといえばラジオ日本で聴くしかない。
半分砂嵐みたいな地獄の画質をワイドテレビで大映しにしながら、看板(鳥羽さんのことです)の愛馬:カサブランカボギーのデビューを見守りました。
クソみたいな画質ですが、カサブランカボギーがピカピカなのが分かります。マル外の馬って、輸入される前のセリの時に物凄く綺麗で、どれくらい走るのか?っていうのを見せるための調教(練習)で短距離をものすごい速さで疾走していくらしいんですね。
で。
一目でなんか、弾丸みたいな感じなんですよ。
カサブランカボギー。
さぁ
どうなるか。
全馬ゲートに収まって…
スタートしました!
…
カサブランカボギーはどこかな…?
あれ
まだ出てねえじゃん
そうなんです。
カサブランカボギー、超出遅れてるんですよ。
このレースね、1200メートルなので、競馬の世界では短距離なんですよ。
つまり、出遅れって致命的なんです。
あー
カサブランカボギー終わったな
そりゃそうです。
下手すりゃ30メートルくらい離れちゃっているんですから。
看板(鳥羽さんのことです)も初戦で大きく出遅れる馬を買うとはなんと不運な…
なんて思っていたその時ですよ。
皆さま。
カサブランカボギー、物凄い勢いで追いついてきたんです
おおお
こんなの見たことねえよ
大きく出遅れた馬がそこから瞬く間に追いつくんですよ。
それだけじゃないんです。
先頭集団にまでポジション上げているんです。
なんだこれ…
ぶったまげますよねそりゃ
で、短距離なんですぐに前半600メートル過ぎて、後半勝負です。
カサブランカボギー、すごい勢いで今度は後方に沈んでいくんです。
まるで直線に沼があるような感じで。
要するに、最初の600メートルで力使い果たしたんですよ。
あれよあれよという間にテレビ画面から消えてしまいまして、ゴールでは普通、定点カメラになるんでどんなに後方でもある程度ゴールシーンをみられるようになっているんですけどカサブランカボギーが来ないんです。
で、もう画面が切り替わって先頭の馬を大映しにしまして。
まぁ見るも無残な大惨敗でした。
ただ。
ちょっと思ったんですよ。
これ、話盛過ぎじゃねえの?
って。
私も話を面白可笑しくしたくて、過去の記憶を改ざんしているんじゃないかとも思ったんです。まぁ25年前のことなんであいまいな部分もあるし、都合よく仕立て上げている部分もあるのかな?と。
流石にね、映像は見当たりませんでした。
映像で検証したら、面白話に西尾が仕立て上げたっていう別の意味でのオチになるんでそれはそれでオッケーだったんですけどまぁ仕方ない。
一応記録があったんで見てみたんです。
そしたらね。
勝ち馬からなんと5.5秒離されていました。
いわゆるタイムオーバー。
遅すぎるので一定期間レース出ちゃだめですよっていう処分を受けるんです。それくらい、かなりの大敗です。
あと、もう一つ気になったのが、後半の600メートルのタイムです。
44.7秒。
これね、他の馬のタイムも見ましたけど、後半600メートルだけで4~5秒引き離されているんですね。
つまりですよ。
少なくともカサブランカボギーは、前半はついていった。
しかし、後半でぶっちぎられてしまった。
出遅れがあったかどうかは検証しようがないんですけど、まぁとにかくひどい惨敗だったということが記録からも立証されてしまったということです。
…
なるほど。
正直この1戦目がピーク過ぎてその後カサブランカボギーを見てなかったんですけど、あと2戦して、5着と最下位でした。
むしろ5着が相当意外だったんですけど、最後のレースもまた短距離(1200メートル)なのに勝ち馬からきっちり4秒離されていました。
鳥羽さん、この地獄のような初戦を観た後でどんな想いでカサブランカボギーの預託料を払い続けたんだろう。
そんな心配しちゃうような、そんなカサブランカボギーの話でした。
備考:今にして思うと、馬主の名前が「鳥羽一郎」でもなければ本名の「木村嘉平」でもないんですよね。
結局何だったんだろう、カサブランカボギー。
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