本を出版した翌日に地元の本屋でとんでもない光景に遭遇した話

私の本はどのくらいの規模の本屋で売っているのだろう

昨日「大手出版社から本を出版しても、状況は変わらなかったという話」という記事を書きました。これについては思い描いていた未来と現実の厳しさを感じるエピソードなので、もしまだ見ていない方が居ればご覧いただきたいです。

ただ、こんな厳しい話って皆さんにお伝えするのもなかなかハードだし、その先に何を見て行動するか?っていうのはなかなか耳の痛い話だと思うんです。

ということで、今日は180度趣を変えて、この本を出版した時の小噺をしたいと思います。

昨日もお話ししましたが、私の著書である「スポーツとしての相撲論」は発売後に光文社という大手出版社が取り扱っていた新書であることもあって、10000部近く流通しました。

話には聞いていましたが、凄い量です。恐らく登戸と向ヶ丘遊園あたりの住人全員に配ってギリギリくらいの量ですから。

発売前からAmazonには「スポーツとしての相撲論」のページがあり、発注できる状態になっていましたが、イマイチ真実味が無いんですよ。発売前に10部くらい光文社から送られてきていたのでそれは嬉しかったのですが、気になるのは「どのくらいの規模の本屋で売っているのだろう」ということでした。

発売当日。
私は当時両国に住んでいたので、錦糸町の本屋を巡りました。

錦糸町は比較的大きな書店しかないのですが、全ての店に「スポーツとしての相撲論」はありました。

これは凄いものだ。

さすがに新書ですからポップなんかは無いのですが、新書の中でも新発売のものは背表紙じゃなくて表紙がどーんと見えるような形で陳列してくれるんですよ。しかも、新発売のものって目に付くところに置いてくれる。

発売から少し時間がたつと、新書のコーナーでも表紙どーんって感じではなく、本棚に普通に設置されるので、よほど興味があるかタイトルに惹かれないと手には取らないような構造になります。

地元:登戸の小さめの本屋にも私の本は売っているのだろうか

ただ、錦糸町って相撲の聖地である両国に近いからこれだけ置いてくれているのかもしれないし、大き目の本屋だからっていう可能性もある。

そこで私は、「スポーツとしての相撲論」がどこでもあるのかを検証するため、ちょうど用事があったため地元である「ショボい町」こと登戸の書店に足を運ぶことにしました。

登戸の小さな書店にあれば、恐らくどこでも売っていることでしょう。そういう規模の店しかないので、検証するにはちょうどいい。さすがに書店の店長さんが「西尾克洋さんは登戸で育った人だから、スポーツとしての相撲論を陳列しよう」などという意思が介在することは無いと思います。

駅中の書店。
地域の再開発に伴い駅ビルが出来ると思ったら3階建てのしょっぱい建物が出来て、そこに入っている本屋さんなのですが、

ありました。
スポーツとしての相撲論。

おおお。
ここにあるのか。

流石に驚きましたが、ここにあるならという想いが強まりました。

実はもう1軒の方が今回の本丸でして、それは私が子供のころから足繫く通った「住吉書房」という書店でした。

このビルの3階にあるひのき進学教室という学習塾に5年間通っていましたが、その帰りに必ず立ち寄って、立ち読みをしていた思い出のある書店なのです。

思い出の本屋に私の本はあるのだろうか

子供の頃に立ち寄り続けた本屋に、自分の本があったら。そんな感傷もあります。

塾帰りの中学生が、かつての私のように住吉書房に立ち寄って、何かの偶然で「スポーツとしての相撲論」を手に取ったら嬉しいじゃないですか。さすがに中学生は読まないでしょうけど。

そんな訳で光文社新書のコーナーを見ました。
そしたら、無いんです。

あれ。
無いじゃん。

でも、6月発売の他の方の本はあるんですよ。
辛酸なめ子先生の本なんかはあるんです。

ご丁寧に私の本だけ無いなんてあるかな?
そう思ってふとみたら。

明らかに、1冊分の空きスペースがあるんです。
これって、売れた、ってことですよね。

他の6月発売の本は全部あるのに、誰の本を差し置いて「スポーツとしての相撲論」が真っ先に売れている。しかも思い出深い、住吉書房で。

これは、私の本が見つかるよりも遥かに嬉しいことでした。流石にグッときました。

しかし。
この話が単なるいい話で終わらないのが登戸という町です。

かなり特徴的な同級生との偶然の遭遇

素晴らしくいい話を目の当たりにしてふと帰ろうとしたその時。

・・・?
あれ、I君じゃないか?

I君というのは私の小学校と中学校(通称:稲中)の同級生で、何度か同じクラスになったことがある子です。

オーバーサイズのネルシャツ。
ダンロップのスニーカー。
どこで買ったのか分からんようなチノパン。
ボサボサの髪。
小柄なのに100キロは優に超える体格。
当然、肥満体。

はい。
テンプレート化されたオタクです。
電車男的なやつです。

今時珍しいもんだと思いましたが、そんなオタク界でも化石のような人物として同級生が本屋に居たのです。

私が言うのも変な感じですが、かなり変わった子でした。彼の机は読むのがかなり難解な文字で落書きしてありました。殆ど読めないのですが、唯一読めたのは3行に亘って書かれた

ごんべえ
ゴンベエ
GONBE

だけでした。
「ごんべえ」の三段活用です。

一体何を思ってこんな落書きをしたのかは分かりませんが、とりあえず「ごんべえ」という言葉が気に入っていたのでしょう。

50メートル走に20秒かかったり、当時クラスで一番発育がよく、裸を見られたくないからという理由で修学旅行の時に風呂に入らなかったり、そんなI君の思い出が脳裏を過っていたのですが、その時私はふと気になることがありました。

同級生が本屋の中で居たのはとんでもない場所だった

あれ?
あのコーナーって…

嫌な予感がしました。
この本屋は何故か18歳以上でなければ読めない本が、店のど真ん中に置いてあるのです。

そしてI君が居たのは正に店の中心部。
そう。
そういうことだったのです。

まずね、そういう本を立ち読みするのは別の町にするというのが思春期に当然通過しているアナログな知恵です。絶対にその手の本を地元で立ち読みしてはならない。そんなことが発覚したらクラス中で晒上げられるのが関の山です。

リスク管理という面から、このような本を読むときは自転車で20分くらいかけて別の町に行くか、自動販売機で人目を盗んで購入するか。そんなことに頭を悩ませて我々は成長してきたんですよ。

え?お前、まだそこなの?

え?
お前、まだそこなの?

っていうか、よく考えると最近書籍でその手の本を買う人ってどれくらい居るんですかね。

情報源ってインターネットじゃないんですか?
2000年以降は。

ネットだったら衆人の目を気にすることも無く、検索履歴の削除と画面ロックを徹底すればリスクゼロですよ。ていうか、彼のようなタイプだとインターネットに親しい筈なのですが、それはそうでもないらしいってことですかね。

情報源に関しても、

え?
お前、まだそこなの?
でした。

色々事情はあるのでしょうが、まだ実家のある登戸周辺に彼は住んでいるのでしょう。我々の両親もかなりいい歳です。仮に、仮にですよ。特に事情無く実家に住み、そういう本を買って帰って来て、自由気ままな独身生活を謳歌しているのだとしたらそこもまた

え?
お前、まだそこなの?

ですよ。
あくまでも、甘えたパラサイトであればの話ですが。

変わる私と変わらぬ彼はどちらが幸せなのだろうか

この本屋の中で、同じ小学校と中学校で何度か同じクラスになった二人が、とんでもなく対照的な形で存在している。

本を発売して、自分の本が売れたことに感激している私。15歳の頃と変わらぬ姿でそういう本を立ち読みするI君。

こういう格差を見るとマウント的な感情が多少なりとも芽生えそうなものですが、自分が勝っているとかそういう以前の話として単にこの落差にクラクラしました。

中学卒業後26年が経過して、変わった者と全く変わらない者のコントラストがここまで激しく見えた経験を私はしたことがありません。しかも、しかもですよ。これが同窓会で色々知るみたいな経路だとしたらまだわかるんです。

彼が本屋の一角に佇んでいるだけでその事実が理解できる。私はその一瞬を見ただけなんです。それが凄いなと。

ただ。
ただね。

2022年になって、1995年当時と同じものに対して私は心動かないんですよ。でも、彼は同じようなものを同じ情報源で楽しんでいる。

これは、どっちが幸せなんですかね?

例えて言うならうちのウインドウズは11ですけど、彼の情報源ってウインドウズ95から変わっていないみたいな話ですからね。それも凄い。

私は2022年を生き、I君は1995年を生きる。それもまた、人生。I君は今日も、住吉書房のそういう本のコーナーに出没するのでしょうか。

この日、実家に立ち寄りI君の話をすると、母は笑ってこう言いました。


「え?お前、まだそこなの!?」
と。

■Voicy様に西尾のnote記事をアップ頂きました!

なんと西尾のブログを朗読いただいています。2回目もアップされました。

ちなみに全4回ですので、あと2回私の記事が掲載されます。

■挨拶・自己紹介・雑談用の記事も作りました。

今回の記事の感想とは別で西尾と話したい!という時はこちらをご利用下さい!

■今日の記事のコーナー

Voicyで私の記事にナレーションを頂いた甘利さんの記事です。甘利さんも元々は西尾さんだった方というところに妙な縁を感じています。今後ともよろしくお願いします!(普段はこんなふざけた記事を書いていますがそこはすみません。。)


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西尾克洋/相撲ライターの相撲関係ないnote
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