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お金と幸せのふしぎな関係

年収があと500万円高ければ…副収入で月10万円くらい手に入れば…
なんて、ついつい考えてしまいますよね。
実際のところ「お金」はどれくらい「幸せ」に影響しているのでしょうか。

これまでたくさんの調査が、収入と幸福の関係を分析してきました。そこで明らかになった驚きの事実をご紹介していきます。

年収と幸せの関係

結論から申します。なんと年収と幸福の相関係数はたったの r=.10‒.20 。
つまり、年収の高い人は、年収の低い人よりもやや幸福感が高い傾向しかみられないことがわかったのです。【Masao Saeki, Shigehiro Oishi (2014)】

これはノーベル経済学賞をとったことで有名なダニエル・カーネマン氏が行った調査(2006年)です。分かりやすく、年収ごとに「貧困層」「中流層」「中〜上流層」「富裕層」の4層に分けてみていきます。まずは、大きな傾向の違いが見られる「貧困層」と「富裕層」の差をみてみましょう。

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「あまり幸せでない」の比率は貧困層で17.2%ですが、富裕層で5.3%にも減っています。一方「非常に幸せ」の比率で見ると、貧困層で22.2%ですが、富裕層では42.9%と、ほぼ倍です。ここから推察するに、年収が極端に少ないことは幸福感を下げる要因になるようです。こちらはアメリカにおける調査データですが、年収200万円ほどで衣食住を満たすのは苦労することが容易に想像できます。

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では続いて、「中〜上流層」と「富裕層」の差をみてみます。
「あまり幸せでない」の比率は、中〜上流層で7.7%、富裕層で5.3%と、やや富裕層で低いものの大きな違いはありません。一方「非常に幸せ」の比率では、中〜上流層で41.9%、富裕層で42.9%と、こちらは富裕層がやや高いもののほぼ同じスコアとなっています。つまり、中〜上流層と富裕層では、年収の差があるにも関わらず幸福感にはほとんど差がないのです。

以上からわかるように、年収500万円くらいまでは年収が上がるに連れて幸福感も高まるが、それ以上になると、年収を増やすだけでは幸福感は変わらないことが明らかになりました。【Kahneman et al. (2006)】


年収と達成感の関係

もうひとつ別の調査をご紹介します。ここでは、年収と人生の評価の関係を分析しています。人生に対する達成感が、年収ごとにどの程度異なるかがわかる調査です。

そこでわかったのは、人生の評価は、年収約1600万円の地点まで直線的に上昇するということです。【Kahneman & Deaton(2010)】つまり、500万円以上の年収においても、年収が高くなればなるほど、自分の人生に対する達成感は向上していくことが明らかになったのです。一般的に、年収が高い職業ほど責任が伴うストレスフルな業務であると考えられますから、その分人生に対する達成感を感じられるのかもしれません。

さらに、この調査にはもう一つ大きな発見がありました。

年収とポジティブな感情の関係をみると、年収約750万円の地点でポジティブ感情の伸びが頭打ちになったのです。つまり、年収500万円以上であっても、年収の伸びに伴ってポジティブな感情と人生の達成感は上昇していきます。しかし年収750万円あたりからは、いくら年収が伸びようとポジティブな感情はそれ以上増えません。一方、人生の達成感は年収750万円を超えても増えていきますが、それも年収1600万円を超えるとそれも頭打ちになるのです。

着目すべきは、年収がそれぞれに与える影響は、とても複雑だということです。例えば人生の達成感は、それだけ見れば輝かしい自尊心へ結びつきそうですが、実はその背後にあるストレスフルな重圧と表裏一体の感情かもしれません。年収が上がりさえすれば自分は幸せになれると盲信すると、実はすでに手にしているはずの幸福を見落としてしまうかもしれません。

所有と幸せの関係

では、所有と幸せはどう関係しているのでしょうか。

単純に考えれば、好きなものを好きなだけ買うことは幸せに直結しているように思われます。しかし、収入と幸福の関係でみられたのと同様、ここでも所有することと幸福感の相関は強くないことが明らかになりました。【Solberg, E. C., Diener, E. & Robinson, M. (2004)】そもそもそ所有欲や購入欲が強い人ほど幸福感が低い傾向にあることもわかってきています。【Kasser, T.& Ryan, R. M.( 1996)】

「足るを知る」という言葉がありますが、人間の欲求はラットレースのように尽きることがないものです。モノへの渇望は、自分がすでに手にしている事柄に目を向ける穏やかな心がない限り、永遠に尽きることなく私たちを突き動かすのかもしれません。

「幸せに繋がる消費」と「そうではない消費」

年収、所有とみてきましたが、最後に消費の仕方をみていきます。

最近の分析で、幸せに寄与する消費と、そうではない消費があることが明らかになりました。幸せに繋がる消費は、旅行やコンサートなど体験を伴う消費です。これは、車や服などの物理的消費よりも強く幸福感に影響を与えるというのです。【Van Boven,L., Gilovich, T.(2003)】

さらに、誰かのための消費は、自分のための消費よりも幸福に与える影響が強いということもわかっています。【Dunn, Aknin, & Norton(2008) 】

大抵の場合、モノの購入直後は気分がよくなりますが、その満足感は時間が経つにつれ低下していきます。一方体験というものは、振り返って思い出すたびに体験の価値を再解釈して楽しむことができます。たとえ同じ年収があったとしても、それを何のためにどのように使うかという使い道次第で、消費から生まれる幸福感は大きく姿を変えるようです。

おわりに

今回は、お金という切り口から幸福を分析してみました。倫理的には馴染みある内容もあったかもしれませんが、これらが科学的に立証されているという点が非常に興味深いと思います。

妄信的に給与明細の数字を追いかけるのではなく、お金の使い道、使う意義を変えてみたり、実はすでに手にしている(かもしれない)幸せに気づく訓練をしていくことが、しあわせの近道なのかもしれません。


出展
「Research frontiers on subjective well-being」
Masao Saeki(Graduate School of System Design and Management, Keio University),Shigehiro Oishi(Department of Psychology, University of Virginia)
「幸せを科学する」大石繁宏 2009

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